第18話 理由は分かるけど


 私は自分の下駄箱を開けた時、上履きの中に入っていた画鋲と紙に書かれて『調子に乗るんじゃないわよ』という言葉にこの前私に言った女の子を思い出した。


「レイラ、どうした」

明日香は私の上履きに入っていたビニール袋を取ると


「これって…」

 ここまで来ると仕方ないか。


「明日香、ちょっといい」


 人気の少ない場所に連れて行くと、この前トイレで女の子に言われた事を話した。


「それで、この仕打ちか。だから昨日、レイラは俺にあんな事言ったんだ」

「ごめんなさい。でもこんな事されるなんて思っても見なかったし」

「レイラが謝る必要なんてどこにもない。こんな事する人が悪い。でもレイラ、こういう事は俺に隠さないでくれ。レイラの悩んだ顔は見たくない」

「分かった」


 予鈴が鳴ってしまった。


「急ごう、明日香」

「おう」



 担任の小早川先生が入って来る少し前に教室に入る事が出来た。

「レイラ、さっきの話はまた後で」

「うん」


 午前中の授業が終わり明日香とお昼を食べている時は朝の話はしない様にした。そして食べ終わると

「レイラ、ちょっといいか」

「うん」


 俺達が教室を出ようとすると


―なに?不穏な空気。

-ついにあの二人にも。

―そんな訳ないでしょ。

-じゃあ、何?

-さぁ?



 背中に聞こえる声を無視して校舎裏に行き、明日香と一緒にベンチに座った。

「今日も一通入っていた。内容は昨日と同じだ」

 あの人のだろうか?


「レイラにあんな事した人間かもしれない。会って問質してみる」

「でも、全然関係無かったら?」

「断ればいいさ」

「でも…」


「明日香は、壁から覗いて心当たりがある人か見てくれ」

「分かった」


「それと、もしトイレでもどこでもまたレイラに声を掛けたら名前とかどこのクラスか聞いてくれ。多分教えてくれないだろうけど」

「分かった」



 放課後になり、明日香は、体育館裏に行った。私は少し間を於いて体育館の裏が見える所で見ていた。


 女の子はこちらに背を向けていて顔が見えない。でも身長が違う気がする。髪の毛も短かったけどこの子は長い。


 あっ、明日香があの事を聞いている。その子は首を横に振っている。違う子なのだろう。それから明日香が二言三言言うと頭を下げてこっちに走って来た。


 私は直ぐに校舎側の壁に隠れるとその子の顔を見た。初めて見る子だ。あっ、二年生だ。リボンの色が違う。


 明日香がこっちに歩いて来た。

「どうも違う様だ。2Aの横川美麗(よこかわみれい)って人」

「そう。私に声を掛けて来た子とも違う。あの子は一年生だった」

「そうか、じゃあ、今日は帰るか」

「うん」


 駅に向かいながらレイラが

「今後はどうしようか」

「そうだな。明日レイラにまたあの悪戯が有ったら、明後日早く来て犯人を見つける」

「でも何時か分からないよ。それに朝入れているとは限らないし」

「そうだな。じゃあ鍵を掛ける」

「そういう仕組みじゃないでしょ。仕方ないから相手の出方見るしかない」

「でも日本語で手を子招いていても埒が明かないと言うだろう」

「それはそうだけど」


「だから、明日もし俺の下駄箱にカードが入っていたら、それを意図的に無視して午後七時まで見張る」

「でも最終下校時間過ぎているよ」

「相手も同じだろう」



 次の朝、昇降口に行ってレイラが下駄箱を開けると画鋲は入っていなかった。でも明日香の下駄箱には二枚の可愛いカードが入っていた。

「レイラ、予定通りだ。今日は放課後、図書室で待ってその後も待つぞ」

「うん」


 

 放課後、二人で図書室に行って、借りている歴史書を読んで時間を過ごした。そして最終下校時間を知らせる予鈴が鳴ると

「行くぞ」

「うん」


 一度、校舎裏のベンチの傍にある倉庫で三十分程待ってから先生達に見つからない様に昇降口を見ている。途中先生が何人か通ったが気付かれなかった。でも午後七時まで待っても誰も来ない。

「仕方ない。明日の朝にするか」

「うん」


 そう思って昇降口から立ち去ろうとした時、部活で遅くなったにしては違う雰囲気の女子が二人やって来た。静かに隠れて見ていると


「譲原麗羅。この前体育祭で怪我させようとして失敗したわ。今度こそ痛い目に合わせる」

「そうよ。カーライル君を独り占めして彼女面なんてもうさせないから」

「画鋲より細かい鉄ビシを上履きの奥に入れて、画鋲は上履きの底に埋め込んで履いたら刺さる様にしようか」

「そうしよう。片足ずつやるわよ」

「うん」


 直ぐに出て行っても白を切られる。レイラの上履きには申し訳ないけど、我慢して全部細工させている所を録画する事にした。全部終わり帰ろうとしたところで


「おい、待て、何している」

「「えっ!」」

「レイラ直ぐに先生呼んできて」

「うん」


「逃げるわよ」

「甘い!」


 どう見たって俺の方が動きが速い。二人の腕を捕まえると

「離してよ」

「駄目だ。こんな事して、何が楽しいんだ」

「譲原があなたを独り占めするのがいけないのよ」

「ふざけるな。俺はレイラと一生ずっと一緒だ」

「「えっ?!」」


「明日香、連れて来た」


 生徒指導の先生と学年担任の小早川先生だ。

「どうしたんだ。お前達」


 俺は見ていたことを話して録画も見せた。

「1Cの後藤と木原だな。職員室に来い。カーライルと譲原もいいか」

「「はい」」



 それから三十分して学年主任と教頭が学校にやって来た。俺達はそれから少しして解放された。

「カーライル、譲原。車で送るぞ」

「大丈夫です」

「そうか、気を付けて帰れよ」

「はい」



 次の日、私の上履きは証拠物件として先生に持って行かれたので、仕方なく学校の来賓用スリッパを履いた。

 明日香の下駄箱には今日も可愛いカードが入っていた。


 教室に行くと百瀬さんと毛利君が

「おはよ、譲原さん、どうしてスリッパなの?」

「あははっ、ちょっとね」

「上履きは?」

「まあ、後で」


 それから少しして担任の小早川先生が入って来て

「1Cの後藤さんと木原さんは本日から一週間の停学になりました」


 何故か、譲原さんと毛利君が私の顔を見た。誤魔化し笑いしたけど。


―――――

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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