第17話 平穏な時間はいつまでも続かない


 六月も半ば。体育祭も終わった辺りから、一時止まっていた明日香の下駄箱の中にまた可愛いカードが入る様になった。彼が下駄箱の蓋を開けると

「レイラ、今日は三つ入っている」

「いつもの様にしたら」


 いつものようにというのは、中身は見るけど対応はしないという事だ。明日香を気に入ってカードを入れた子には申し訳ないけど、一つ一つ対応していたら面倒だ。


 教室に入ってから明日香が机に隠れてチラッと見た後、私に渡してくれる。私もチラッと見てから彼に戻す。


 一年生だけじゃない、二年生からも三年生からも来ている感じだ。自分は貰った事がないので本当にこれで良いか考える時がある。


 でも、出してくれた相手に全部会っていたら、どうなっていただろう。まだ高校に入学して二ヶ月半だというのに。


「レイラ。どうしたんだ?」

「ううん。何でもない」

「またそれか。最近、多いぞ」


 レイラが最近、ボーッと何か考えている様な仕草をする事が多くなった。聞いても答えてくれない。


 高校に入学してまだ二ヶ月半。こんな事相談する友人はいない。もっともずっとレイラと一緒だから、そんな友達も出来ないけど。



 まさか、もう俺と一緒に居る事が面倒になったとかないよな。確かにずっと一緒だから重荷になっている可能性もある。



 放課後、一緒に帰りながら

「レイラ、なあ最近考えている事が多いよな。聞いても話してくれないし」

「…ごめん」

「謝る事無いけどさ。俺に原因があるなら何でも言ってくれ」

「明日香に原因なんてないよ。私の心の問題」


 やっぱり、俺が重荷になっているのか。レイラとはずっと一緒に居たいけど。俺は彼女の気持ちを無視していたのかな。俺を嫌がるなら仕方ないけど…。でももっと一緒に居たい。



 明日香に断らせている事が良くないのかな。前に廊下で噂話をしている人が居た。私が明日香に入れ知恵して、会わせない様にしているんだって。


 そんな事…でも事実。彼が他の女子と二人で会っているなんて嫌だ。でも付き合っている訳じゃない。


「明日香、聞いてもいい?」

「なんだ?」

「明日香は下駄箱に入っているカードをくれた女子と会ってみたい?」

「全然。会ってもどうすればいいかなんて分からないし」

「そう」


「レイラは俺がカードをくれた女子に会って欲しいのか?」

「そんな事無い。絶対に無い。明日香が他の女子と会うなんて絶対に嫌だ!」

「だったら…。えっ、それって?」

「べ、別に深い意味ないよ。でも明日香が他の女子と一緒に二人で会っている姿が想像つかなくて」


 どう考えればいいんだ。どう言う意味なのか分からない。想像つかないって…。



「明日香、それよりもうすぐ学期末考査だよ。中間考査より範囲も広いし、そろそろ準備し始めないと」

「そうだな。考査まで放課後は明日香の家でやって、土日は俺の家でいいか?」

「うん。そうしよう」



 私はこのまま、学期末考査まで何も無く過ごせるかと思っていたんだけど、それから少し経った日の中休みに私がトイレに行った時、


「ねえ、譲原さん。あんたカーライル君の下駄箱に入れているカードを捨てるように彼に言っているってほんと?」


 言って来たのは、よそのクラスの子だ。名前は知らない。

「私は、そんな事してないよ」

「ふーん、あなたが彼にせっかく入れたカードに対応なんかしなくてもいいって聞いた子がいるんだけど」

「えっ?!」


「まあ、いいわ。それよりお願いがあるんだ。今度入っているカードに彼が対応するように言って欲しいんだけど」

「それは、明日香が…」

「羨ましいわね。カーライル君を独り占めして、お互いが名前呼び。何処にいても彼は私の彼氏よなんて顔している。

 でも付き合っていないんでしょ。それとも付き合っているの。どっちなの?」


「まだ付き合ってなんかいない」

「だったら、彼に言ってよ。カードを入れた子の気持ちも考えてあげたらって。調子に乗っているとあまりいい事無いわよ」

「えっ?!」

「じゃあ、頼むわね」


 時間がもうないけど急いで入って、教室に戻った。



 翌朝、明日香の下駄箱にカードが入っていた。

「レイラ、今日も入っている」

「……………」


 どうしよう。昨日の事も有るし。

「どうしたんだ。教室行くぞ」

「あっ、うん」


 レイラがまた考え込んでいる。俺は教室に入った後、机で隠れるように中を見ると

『放課後、体育館裏で待っています』


 と書いてあった。いつもの文面だ。名前も書いていない。そのままレイラに渡すと彼女はチラッと見てから

「明日香。偶には会ってみる?」

「えっ?」


 レイラが飛んでも無い事を言っている。今迄そんな事言った事無かったのに。

「レイラ、どういうつもりで言ったんだ?」

「うん、偶には私以外の子と話すのも良いんじゃないかなと思って」

「レイラは本当にそれでいいと思っているのか?この前は俺が他の女子と会うのは嫌だと言っていたよな」


 前に座る百瀬さんが

「なに、珍しく揉めているわね」

「な、何でもない」

「ふふっ、カーライル君に来て居るラブレターの件でしょ。二人で考えているんなんて熱いわね。譲原さん、この前行った事実行すればこんな事にはならないわよ」

「そ、そんな事言っても」



 俺は、レイラが何であんな事言ったのか理解出来なかった。お昼休みに聞いても話してくれない。


 放課後になったけど、俺自身が行く気にならない。だから

「レイラ、帰るぞ」

「えっ、いいの?」

「何言っているんだ。あれに対応する気なんてないよ」


 本当はこの後、俺はレイラだけだと言いたいのだけど、人前で言うなと言われたし。



 校門を出てから

「レイラ、俺はお前だけだ。ずっと一緒に居るのはお前だけだ。だから会わない」

「明日香…」


 でも翌日の朝、昇降口で下駄箱を開けると上履きの中に透明の袋に小さな紙と画鋲が入っていた。そしてその紙に『調子に乗るんじゃないわよ』と書かれていた。


―――――

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る