第16話 体育祭はひと騒動


 体育祭の当日、1Bの休憩場所に私と明日香は座っている。


「レイラ、小学校や中学校の運動会とは違う雰囲気だな」

「そうね。私も初めてだから」

「あの四人で長い板を片足ずつタイミング取って前に進むのは器用なものだな」

「ふふっ、百足競争っていうの。実際の虫はとても気持ち悪いけど」

「息が合っていないと出来ないな」

「そうね」


「カーライル君、仲良い所悪いけど、玉入れ競技が次だって放送で言ってたわよ」

「あっ、いけない。レイラちょっと行って来る」



 明日香は圧倒的に身長が高い。玉入れには籠に玉を入れる技術も必要だが、明日香の場合、それを凌駕する身長がある。


 実際、玉入れの棒を立てて見たら、明日香が手を伸ばすと籠の上まで一メートル位だ。当然簡単に入れられる。という訳で明日香が玉入れの選手になった。


 明日香が玉入れの場所に行くと身長が周りの子より二、三十センチ高い。なんか反則じゃないと心の中で冗談を思ってしまう。


「譲原さん」

 振り向くとクラスの男子がいた。


「ここ座って良い」

「うん、いいよ」

 さっきまで明日香が座っていたけど、今は競技中だ。問題ないだろう。


「カーライルと仲良いね」

「そうね。小学校三年の時からだからもう七年になるかな」

「そうか、幼馴染って奴だね。あいつとは付き合っているの?」

「付き合うって意味をどう捉えて良いか分からないけど、今迄一日たりとも別々に居た事は無いわ」

「えーっ、七年間、三百六十五日、毎日?」

「うん」

「じゃあ、色々としているんだ」

「あの、そういう話をいきなりするなら、私他に行きますけど」

「あっ、すみません」


「おい、何話しているんだ。ごめん、譲原さん、こいつ君の事気になっているらしくて」

 別の男子が話しかけて来た。


「まったく、ほら行くぞ。譲原さん偶には話してあげて」

 私の隣に座った男子が別の男子に連れ去られて行く。


 偶にはって言われても。こっちに気を取られている内に一回目の競技が終わって場所替えして、二回目が始まるようだ。


 明日香、やっぱり身長があるせいか、籠に玉を入れる確率が断然高い。二回目は1Bが勝った様だ。一回目が分からないけど。



 明日香が戻って来た。

「見てくれた?」

「勿論、凄いね。ほとんど入っていたんじゃない」

「そんなことないけど。でも二回とも勝ったから」

「流石だね」

「レイラは午前最後の百メートルだな」

「うん、見ていてね」

「勿論だ」



 レイラが、スタートラインに行った。男子に声を掛けられている。面白くない。彼女が可愛いのは分かるけど。


「カーライル君」

 後ろを振り返るとクラスの女子が二人立っていた。


「座って良いかな?」

 レイラは競技に行ったし、その間はいいか。


「いいよ」

「ありがとう」

 なぜか両脇に座られた。



 もうすぐ、私のスタートになる。明日香見ていてくれているかな。1Bの休憩場所を見ると彼の両脇にクラスの女子が座って何か話をしている。


 やっぱりなぁ。仕方ないとは思いつつ、彼の方を見ていると私の順番になった。あっ、こっちを見てくれた。



 結構、走りには自信が有ったが三位だった。六人で三位じゃ…。休憩場所に戻るとさっきの二人はいなくなっていた。


「レイラ、頑張ったな。三位凄いぞ」

「ありがとう。でも三位じゃ」

「そんな事無い。レイラは運動部じゃないんだ。三位は立派だよ」

「ふふっ、そう。ありがとう」



 お昼休みになった。今日に限っては、私が明日香の分も作って来た。彼の好みは十分分かっている。


 机をくっ付けてお弁当を広げると

「おにぎりは大きいのが明日香用ね。おかずは出汁巻卵、鳥唐揚げ、ジャガイモの煮物、スパのサラダと箸置き。それと明日香用に鶏もも肉の甘辛焼き」

「おーっ、流石レイラだ。頂きまーす」

「召し上がれ」



-うーん。隙が無い。

-そうねぇ、カーライルの好みや好きな味なんて分からないし。

―それより、毛利君、男子二人とだよ。

―そっち行こうか。

-うん。


 いつもながらお花畑の三人だな。そういえばさっき、明日香の両隣りにいた女子は教室の中には居ないな。



「レイラ、食べちゃうぞ。最近、考え事が多いな。相談乗るぞ」

「うん、ありがと。でも大丈夫だよ」

 そう、大丈夫なはず…。はずだよね。



 午後一番の競技はクラス別学年対抗だ。体育祭でも一番盛り上がりそう。私と明日香は出場する事になっている。一度クラスの休憩場所に戻ってからスタート地点に行った。


 私達は一年生なので最初だ。私は第二走者、明日香は第四走者だ。第一走者がスタートした。見ているとあっという間に私にバトンが渡された。


 この時点では、ほとんど一緒なので気を付けないといけない。バトンを渡された後、助走から全速力に切り替えようとしたところで


 えっ、振っている後ろの手が掴まれた。当然その場で転んでしまった。私ともう一人が転んでいる。


「「「「きゃーっ!」」」」

「「「「おーっ!」」」」


「レイラ!」

 俺は、はっきりと見た。後ろの女子がレイラの腕を掴んで後ろに引っ張った。レイラと1Aの女子が転んだ。引っ張ったのは1Cの女子。あの女。


 でもレイラが立ち上がって直ぐに掛け始めた。1Aの子は足を引いてる。それでも次の走者までつなげた。



 Bクラスの順位は五位だ。Cクラスは三位。流石に頭に来た。俺はバトンを渡されると全速力で走った。

 四位の子は直ぐに抜いた。そしてコーナー立ち上がりで三位のCクラスに追いついた。


「「「「「うぉー!」」」」

「「「カーライル(君)がんばれーっ!」」」


 クラス休憩場所の前で抜き去って、次の二年生の走者にバトンを渡すと直ぐにレイラの傍に行って

「大丈夫かレイラ」

「うん、問題ない」


 俺はレイラの腕を引っ張った女子の傍に行くと

「おい!お前レイラの腕を引っ張っただろう」

「な、何言っているのよ。そんな事する訳ないでしょ」

「俺は見ていたんだ。他の人だって見ている」

「知らないわよ」


「明日香、もういいから。明日香が頑張ってCクラスを抜いてくれたからもう十分だよ」

「しかしレイラ」

「もういい。明日香は元の位置に戻って」

「分かったけど」



 結局、クラス別全学年対抗レースは、Cクラスの失格となった。誰が見てもはっきりと分かったやり方だ。当然だ。


 だけど、俺がCクラスを抜いていたのでBクラスの順位には関係なかったけど。何故か釈然としない。



 クラスの休憩場所に戻ると

「カーライル、かっこ良かったな」

「ああっ、スッとしたぜ」

「カーライル君。カッコいいわ。あの女子に文句言ったのも良かったよ」

「うん、とても男らしい」

「やっぱりカーライル君ね」

「うん、うん」


 また明日香目立っている。今回は全校生徒の前だ。明日香が少しずつ遠くに行く感じがする。


―――――

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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宜しくお願いします。

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