第27話 夏休みとジェシカの気持ち
私は、夏休みの宿題が終わった日の午後三時頃、アスカの家を出た。あの二人と一緒に居てもつまらない。二人がいちゃついている所見ているだけだから。
マンションに帰って、一人で部屋にいるとお母さんが帰って来た。
『ただいま』
『お帰りなさい、お母さん』
『どうしたのジェシカ。顔が暗いわ』
『うん』
私は、お母さんにアスカとレイラが両親の了解の下、結婚の約束をした事を話した。それで今年は八月の半ばにエディンバラのお爺ちゃん、お婆ちゃんにレイラを紹介する為に連れて行く事も。
『そうなの。ジェシカはどうするの?』
『うん、まだ何とかなる一パーセント。もうどうにもならない九十九パーセントで悩んでいる』
『あらあら、それは困ったわね。去年の二月に家族にあんなに言ってエディンバラを出て来たのに一年半でもう終わりなの?』
『諦めたくないよアスカの事。でもあの二人を見ていると全然割込む隙無いし。アスカは私の恋人になるはずだったのに…』
『ジェシカ。今度の帰国で、もうこちらに帰って来るの止める?丁度九月から新学期だわ』
『やだ』
『じゃあ、どうするの?』
『卒業するまではあの高校にいる。その後エディンバラかイギリスの大学に入学する』
『ジェシカがそれでいいならお母さん反対しないわ。それに日本語学校を入れると三年間日本語を学んだことになる。これはジェシカにとって将来の大きなアドバンテージになるわ』
『私もそう考えている。中途半端にまたエディンバラのハイスクールに転入するよりいい』
『じゃあ、決まりね。その気持ちは帰ったらお父さんにしっかり伝えるのよ』
『うん、分かった』
その頃、毛利君は百瀬さんからの連絡を受けていた。
『毛利君。夏休みどこかに遊びに行かない?』
『百瀬さんとですか。他に誰かいるのかな?』
『ううん、私だけ。駄目かな?』
『えっ、俺なんかと二人で良いんですか?』
『毛利君と二人が良いの!』
『そうですか。じゃあ何処に行きます』
『それはね…』
ふふっ、流石に毛利君もアンダーソンさん相手では重かったか。そりゃそうだよね。あんなに目立つ子だし、日本語だってネイティブじゃないし。
今迄はカーライル君と譲原さんが居たから一緒に居れたんだろうけど。この夏がチャンス。思い切り私の事を毛利君に覚えて貰うんだ。
ジェシカがエディンバラに帰った日、俺はレイラの家族と東伊豆に三泊四日で海水浴に来ていた。
例によって一日目は渋滞に思い切り掴まり四時間半も掛かってやっとホテルに着いた。午後一時半、遅すぎる昼食を海水浴場近くのお店でゆっくり食べた後、レイラのご両親はホテルのラウンジでゆっくりとするらしい。流石に運転が疲れたようだ。
俺達は、浜辺をのんびりと散歩。去年行った西伊豆の様な湾状の浜辺とは違い、長い白い砂浜だ。途中海水水浴場の傍にあるお店で二人でかき氷を食べた。
「明日香、もうすぐエディンバラに行けるね」
「ああ、お爺ちゃんもお婆ちゃんもレイラと会える事を楽しみにしていると言っていた」
「恥ずかしいな。それに認めてくれるかな。私の事?」
「ぜーんぜん問題ない。両親からもレイラの事は伝わっているし、俺からも話している」
「誇張して話していない?」
「そんな事してもデメリットだけじゃないか。そのままのレイラを話しているよ」
「ふふっ、そうなんだ」
明日香の身長がまた少し延びたようだ。周りには外国の観光客も一杯いるけど明日香の身長はそういない。
そこに持って来て金髪の髪の毛にエメラルドグリーンの眼。周りの人がチラチラ見ては何か小声で言っている。
でも、もう慣れた。そういう人を好きになったんだから。
部屋に一度戻って温泉に入って部屋で一休みしたら展望レストランの指定テーブルで豪華な海の幸の料理を頂いた。
翌日は四人で海水浴。私の両親はパラソルの下でボンボンベッドに横になりのんびり。私達は、私が浮輪に掴まり、明日香の腰までの深さの所で思い切り楽しんだ。
そして夜は、ホテルの用意してくれたBBQを堪能。今年明日香は去年の轍は踏まず伊勢海老は丸焦げにしなかった。
次の日も同じように楽しんで、夜は花火大会。でも私の眼に映る花火は去年よりとても輝いて見えた。
そして八月十日。私は明日香の家族と一緒にエディンバラに行った。行く前に両親が色々心配してくれたけど。
飛行機はビジネスを取ってくれたので、と言うより明日香と彼のお父さんの体だと、エコノミーに座るのは苦痛になるらしい。
一度イギリスヒースロー空港まで行くのだけどなんと十三時間も飛行機に乗るなんて初めて。それに沈む太陽を追いかけて行く形になるから一日が長かった。
更にヒースロー空港からエディンバラ空港まで一時間半。乗換えに二時間待ったから大体十七時間かかったことになる。
始めてのフライトにしてはちょっと長かった。エディンバラ空港には明日香のお爺ちゃんが車で迎えに来ていた。
到着ロビーを出ると私達を直ぐに見つけたのか
『アスカ、クレイグ、ヨウコ。お帰り』
『ただいま、お爺ちゃん』
その後、一緒に居る私を見て
『アスカ、その子がレイラちゃんかい』
『そうだよ、お爺ちゃん』
『初めまして。レイラ・ユズリハラといいます』
『ほほほっ、英語が上手だな。それにとても可愛い』
『うん、レイラは頭がいいから』
『そうか、そうか。じゃあ、帰ろうか』
エディンバラ空港から三十分位。アスカからは聞いていたけど、日本とは全く風景が違う、違い過ぎる。整備された道路とその両脇は歴史ある建物がずっと並んでいた。でもここは新市街だと言っていた。日本の渋山や金座とは大違いだ。
住宅街に入って少し走ってから車が停まった。整備された住宅街って感じ。一軒一軒がとても大きい。でも家は日本で言うととても歴史がある感じだ。
車が停まった家の前には老夫人が立っていた。
『お帰りなさい。アスカ、クレイグ、ヨウコ』
『ただいま、お母さん』
『ただいま、お婆ちゃん』
私の事をジッと見ると
『アスカ、その子がレイラちゃんかい?』
『そうだよ。お婆ちゃん』
『初めまして。レイラ。ユズリハラです。宜しくお願いします』
『あらあら、英語が上手だこと。それにとても可愛いお嬢さんね。さっ、みんな家に入りましょう』
明日香と両親が荷物を持って家の中に入った。これまた日本の家とは別世界だ。
『お婆ちゃん、レイラはゲストルームで良いよね』
『そうだよ。しっかり綺麗に掃除しておいたから』
「レイラ、こっちだ」
「うん」
映画にでも出てくるようなエル字型の素敵な階段を登っていくと廊下があった。
「手前の部屋は僕の部屋、ゲストルームはその隣の部屋だ」
二番目の扉を開けると部屋の中は毛の長い絨毯が敷かれ大きなベッド多分キングサイズだと思う。そして暖房は家全体で行っていると言っていた。
「レイラ、荷物を置いたらリビングに行こう」
「うん」
それからはお爺ちゃん、お婆ちゃんから色々聞かれるのかと思って、覚悟していたけど、ほとんど何も聞かれなかった。ただ
『レイラちゃん。アスカを宜しくね』だった。
そしてその後は、明日香の幼少の時の話をしてくれて、彼がそんな事話さなくていいと言って赤くなっていた。
キッチンもダイニングも日本ではテレビに出てくるような広くて素敵なデザイン。食事は思い切りスコットランド食。ちょっと抵抗のある食べ物も有ったけど、美味しいと言って何とか食べた。
翌日からは、新市街を案内をしてくれたり、エディンバラ城を見学したりした。そして旧市街にも連れて行ってくれたけど、まるで○○ポッターの映画に出てくる城や街そのものだった。
四日目にジェシカの家族と会った。本当に明日香の家の隣だった。ご両親にお兄さん、それにお爺ちゃん、お婆ちゃんがいて、私から見ると皆スコットランド人、イギリス人?って感じだった。
向こうも私の事を珍しそうに見ていた。日本人に会ったのは初めてだとか言われた。
そして最後の夜にお爺ちゃんとお婆ちゃんから
『レイラちゃんは本当にいい子だね。礼儀正しいし、料理も出来る。何よりも物怖じしない所が良い。この子ならアスカに申し分ない子だよ。いい子見つけたな。アスカ』
『お爺ちゃん、ありがとう』
『レイラちゃん、これからは遠慮しないでいつでもおいで。来るのを楽しみにしているわ』
『お爺ちゃん、お婆ちゃん。ありがとうございます』
そしてお婆ちゃんが私をハグしてくれた。
そんな素敵な時間はあっという間に過ぎてた。帰りはジェシカとお母さんも一緒の飛行機だった。
また、エディンバラ空港からヒースロー空港まで一時間半、二時間半の乗り換え時間の後、十三時間飛行機に乗って帰って来た。
とても夢みたいな一週間だった。
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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