第29話 それぞれの事情
私は、放課後毛利君を図書室に連れて行った。でも百瀬さんと仲の良い女子が一人付いて来た。
どっちにしろ、図書室であの話をする気はない。だから
「毛利君、今日の授業のここなんだけど?」
「ああ、これは先生が言っている意味は…」
アンダーソンさん、本当に今日の授業の事を聞いているだけじゃない。友梨佳、ちょっと気にしすぎているんじゃないかな。
そのまま二人の様子を見ていたけど、予鈴が鳴るまで勉強の話をしているだけだった。そして別々に図書室を出て行った。
なんだ、面白そうな話は無かったじゃない。まあ、早く友梨佳を安心させてあげるか。私は校門を出てから友梨佳に連絡した。
『友梨佳、本当に勉強だけだったよ。その後別々に帰ったし』
『えっ?毛利君とアンダーソンさん、本当に勉強だったの?』
『うん。友梨佳の気の回し過ぎだよ。毛利君、躊躇しているんじゃないの付き合う事に。彼初心っぽいし』
『それなら良いんだけど』
私達は百瀬さんの友達が校門から出て駅の方に向かっていくのを確かめてからゆっくりと駅の方に歩いた。そして駅近くのファミレスに入ってドリンクバーだけ注文すると
「毛利君、レイラ達から聞いたんだけど…。私に話が有るって。それってもしかして、もう私の事面倒だから勉強見てくれないって事?」
「えっ?」
あの二人どんな説明したんだ?
「違う、違う。全く違うよ。これからもずっとアンダーソンさんの勉強は見て行きたいよ」
「じゃあ、話って?」
「うん、実は…。話し辛いな。何と言えばいいのか。実は」
「うん、実は?」
「俺、四月からずっとアンダーソンさんの勉強見ていて、…その気になっているっていうか、そのなんていうか。でも君はカーライルの事が好きだし。だから…」
「だから?」
勉強の事は私の勘違いで良かったけど、日本語でこんなに分からない言葉並べられても何言っているのか分からない。こんな時アスカとレイラが居れば、
「毛利君、私、そういう抽象的な表現の日本語って意味取れないんだ。だからもっと分かり易い言葉で言ってくれないか」
「分かった。…好きですアンダーソンさん。付き合って下さい」
「えっ?!」
何々。毛利君が私を好きだって言うの?そりゃ、気になる人だったけど。
「毛利君、そう言ってくれるのは嬉しいけど。私、高校卒業したらスコットランドに帰るつもりなんだけど」
「えっ!帰る?」
「うん、家族は皆エディンバラにいるし、こっちにはお母さんと二人だけで来ているから」
「……………」
「あなたが、私と付き合っても後一年半だよ」
「アンダーソンさん、大学は?」
「エディンバラ大学か他のイギリスの大学に行く。一緒に来る?」
「それは…。俺向こうの大学の入試受けるほど英語能力無いし」
「ふふっ、そうね。でも仲のいい友達ならいいわ。私も毛利君の事好きだから」
「えっ、俺の事好き?君はカーライルじゃなかったのか?」
「流石に諦めた。勿論アスカとレイラとはこれからもずっと仲のいい友達だよ」
「そうか、じゃあ、卒業まで付き合うって出来ないかな?」
「百瀬さんはどうするの?」
「彼女は…。可愛いし、優しいけど。ちょっと積極的で。実言うと苦手なんだ」
「えっ、あんなに仲が良いのに?」
「学校では仕方ないよ」
「そうなのか。どうしようかな。本当に後、一年半だよ」
「うん、それでもいい」
「日本語まだまだ理解出来ないよ」
「うん、俺が丁寧に教える」
「うーん、やっぱり考えさせて。あっ、でも勉強はこれからも宜しく願いします」
「うん、それは大丈夫」
私は次の朝、アスカとレイラに毛利君との事を話した。
「付き合っても良いんじゃないか。一年半で終わるって毛利は割り切っているんじゃないのか?」
「明日香、恋愛はそんなに簡単には行かないわよ。ジェシカだって一年半も毛利君と付き合ったら…、私達だってそうだったでしょう」
「そういう事か。じゃあ、仲のいい友達。勉強を見て貰える友達までだな」
「そう考えるのが普通だよね。アスカ、レイラありがとう」
でもちょっとだけ残念だけど。
私は、登校するとお昼休みに彼にやっぱり付き合えない。でも仲のいい友達でいようと言った。
そして百瀬さんには私達の事、誤解無い様にしっかりと説明して欲しい事もお願いした。
彼はとても残念がっていたけど、振られたんじゃなくて私の事情でそうなったと理解すると答えた。ここまでは良かったのだけど。
何故か百瀬さんは、お昼は私、毛利君、アスカとレイラで食べている所に一緒に食べさせてと言って来るし、土曜日に私の家に来て毛利君から教えて貰っている勉強も彼女曰く私も一緒に教えてあげると言って来た。
確かにこれは積極的すぎるな。私でも引いてしまう。でも百瀬さんは優しく、私には迷惑だったけど、一緒に教えてくれた。しかし、教え上手と言うのだろうか、百瀬さんの説明の仕方の方が良く分かる。
毎週土曜日、私の家でその週の復習をするのだけど、お母さんもアスカ達以外に新しい友達が出来たと言って喜んでいた。
でも百瀬さん、私を出しにして毛利君に迫っているとしか考えられない。私の家に来る時も帰る時も一緒なのだから。
だけど、その所為か、毛利君は日曜日一人で私の家に来ては勉強を教えてくれる様になった。お陰で私の学力は格段に向上して
ニガッキチュウカンコウサは成績順位表に載らなかったけど順位は七十位、そしてニガッキマツコウサは、なんと成績順表の一番最後四十位に食い込んだ。
「ジェシカ、凄いじゃないか」
「ジェシカ、やったね」
「うん、これも毛利君と百瀬さんのお陰だ」
「あはは、俺なんて大して役に立っていないよ」
「そんな事無いぞ、日曜日まで…。あっ!」
「毛利君、アンダーソンさんの家に日曜日も行っているの?私が誘っても用事があるって言っていたけど理由ってこの事だったの?」
「あっ、いや。それは。あっ、俺、教室に戻るわ」
「待ってよ。毛利君」
「ジェシカ、口が滑ったな」
「口は滑るのか?」
「意味が違う」
「そうか」
お陰で百瀬さんまで日曜日に来る様になった。確かに毛利君、逃げる訳だわ。
―――――
次話がエピローグになります。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます