第7話 レイラとジェシカ


この話からスコットランド語は『』で日本語は「」で書きます。

スマホの会話の時も『』を使いますが、そこは状況判断でお願いします。


―――――


 俺は、次の日午前九時過ぎに家を出た。駅に向かおうとしたところで

『アスカ』

『ジェシカか。おはよう』

『何処か行くの?』

『うん、今から買い物だ。洋服を買いに行く』

『私も一緒に行っていい?』

『だーめ。急いでいるんだ。じゃあな』

『あっ、ちょっと待ってよ。何時に帰って来るの?』

 お前は俺の母親か?


『分からない。友達次第だ』

『友達?女?』

『ジェシカには関係ない。じゃあな』


 アスカが行っちゃった。買い物かぁ。でももう六年以上居るんだもの。その位できるようになるか。友達、誰だろう?



 待合せの改札には、二十分前に着いた。この街は六年前と違って今は俺の様な外国人が一杯いる。


 だから、改札の傍でこうして立っていても珍しくなくなった。だけどジロジロ見られている。どうしてなんだ?


 周りの景色と言っても人だらけだけど見ているとレイラがやって来た。

「明日香。待ったぁ?」

「そんな事ない」

「じゃあ、行こうか」



 人混みの中を歩いて行く。なんでこんなに人が居るんだ。いつもながら思ってしまう。俺は、レイラの手を握って歩いた方が良いと思って彼女の手を握ると

「明日香?」


 いきなり手を握って来た。前はこんな事しなかったのに。

「いけないか?」

「いきなり握るから、驚いただけ」

「人が多いからレイラと離れてしまうと思って」

「ふふっ、そうなんだ」


 私も彼の手を握り返した。結構暖かい。私達はそのまま、三ブロック程歩いて交差点の向かいにあるビルに入った。


 このビルのお店はLLサイズの洋服が置いてあるお店が多い。外国人も来る様になったのかな?


 彼と何店舗か見ながら歩いていると明日香はやっぱり目立つのか、前より女の子から見られるようになった。

「どうしたレイラ?」

「何でもない」


「それよりレイラ、これなんかどうだ?」

「うーん、なんかもうちょっと似合う奴が良いな」

 アスカは、背が高く北欧系の顔をしているから日本人向けの洋服は似合うものが少ない。


「明日香、反対側のビルのお店にも行ってみる?」

「そうするか」



 こちらには明日香に似合いそうなズボンとシャツが有った。背が高く、金髪の北欧系の顔立ちは、この店でも珍しいらしく、ジロジロと見られたけど、もう慣れっこだ。


 試着させてみるとなんと良く似合っていた。

「明日香、これにしよう」

「分かった」


 俺は元の洋服に着替えてから

「俺が会計する」

「大丈夫?」

「駄目そうならレイラが助けてくれ」


 会計に行って精算する時、店員から

「ズボンの丈はこのままで良いですか?」

「大丈夫です」

「そ、そうですか」


 確かに結構長かったけど彼が履くとピッタリかちょっと短い位だった。いつもながら足の長さには驚く。


「レイラ。そろそろお昼にするか?」

「うん。何食べる?」

「〇ックがいい」


 駅前まで戻って近くの〇ックに入ると結構人が並んでいる。お昼時間だから仕方ない。

「レイラ、席を取っておいてくれ。いつもの奴でいいよな」

「うん」


 さっきの洋服の会計もそうだけど随分一人で出来るようになった。今迄、何でも私が手伝っていたから少し寂しい気もするけど、彼が成長しているんだから喜ばないといけないな。


 私は窓際の席に座って彼を見ると身長が高い所為かひときわ目立っている。それに金髪の外国人。


 カウンタの女の子が緊張して英語らしき言葉を喋っている。外国人を見たら誰でも英語を話すと思っている日本人のなんと多い事か。うん?どこかで聞いたようなフレーズを言ってしまった。


 あっ、カウンタの子が真っ赤な顔をしている。どうしたのかな?あれ、今度は日本語を話し始めた。そういう事か。



 トレイに彼と私の分を持ってテーブルに来た。

「明日香、カウンタでどうしたの?」

「うん、いきなり英語で話しかけて来たから日本語で答えたら、顔が真っ赤になって済みませんとか言っていた」

 カウンタの女の子の気持ち分かるわ。


「今日もポテトはLサイズね」

「ああ、スコットランド人の主食だから。それにここのポテトは上手い」

「そうなの?」

「レイラだってうちで食事した事何度もあるだろう」

「まあ、確かにね」


 明日香はポテトを何本も取っていきなり口に運ぶ事はしない。一本ずつ取って口に運ぶと良く咀嚼する。その姿が可愛い。

 でもビッグ〇ックを食べる時はいきなり三分の一位を口に入れてしまうとても豪快な食べ方。家でお肉にかぶりついた時の感じだ。そんな姿を見ているのが楽しい。


 明日香が食べながら

「レイラ、本屋に行きたいんだ。良いかな?」

「全然構わないけど。欲しい本有るの?」

「特になんだけど、日本語のボキャブラリを増やすにはいい所かなと思って。買うならネットが簡単だけどさ」

「そういう事なら賛成だわ」



 本屋では、小学校の頃は絵本とか見ていた。中学に入ると漫画と簡単な小説を読む様になった。

 最近は、雑誌や私でも難しそうな小説や科学誌を読む様になって来た。吸収が早いのが良く分かる。もうすぐ私なんか必要なくなるのかな?


「どうしたレイラ。寂しそうな顔をして。何か心配事でもあるのか?」

「ううん。明日香が、難しい本も読めるようなって来たから、もう私なんか必要なくなるのかなと思って」


 明日香が場所をわきまえずいきなり私を抱きしめた。

「ちょっ、ちょっと」

「レイラ。お前が必要なくなるなんて絶対にない。一生お前と一緒だ」

「わ、分かったら離して」


 もう、周りの人が呆れた顔と笑い顔で一杯になったじゃない。でも明日香の言っている意味ってどっちなんだろう?どう見ても恋愛感情じゃない感じ。


「そろそろ、帰るか。レイラ久々だからうちに来るか?」

「そうね。もう三日も会ってなかったしね」

「三日は永遠の長さに感じたよ」

「大袈裟な」

「そんな事ない」



 まだ午後二時半だ。遊びに行く時間は十分有るか。



 私と明日香が駅を降りて家の方に歩いて行くと、いきなり綺麗な色をした髪の毛の女の子が近寄って来た。


『アスカ。誰その子?』

『俺の友達だ。日本に来てからずっと面倒を見て貰っている』

 母国語らしく何話しているか分からない。


『面倒?日本に来てからずっと?どういう事よ?』

『な、何そんなに怒っているんだ?』

『怒ってなんかない。誰よその子?』

『ユズリハラレイラ。俺の大切な人だ』


「そうだ。レイラ紹介する。スコットランドに住んでいた時、隣に住んでいたジェシカ・アンダーソンだ。ジェシカって呼んでいる」


 ジェシカと言われた子はいきなり私の前に来て分からない言葉で

『ジェシカよ。アスカは渡さないわ』


「明日香、彼女なんて言ったの?」

「ああ、ジェシカです。宜しくって」

「そう。譲原麗羅です。宜しく」

『日本語なんか分かる訳ないでしょ』


「明日香、なんて言ったの?」

「うん、これから宜しくって」

 俺疲れそう。


―――――

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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