第6話 近くに越して来た母国の隣人
中学校の卒業式も終わった俺は、珍しく一人で過ごしていた。お父さんもお母さんも仕事で居ない。
残念だけどレイラもいない。俺もあの子のお陰で生活には不自由なく過ごせる様になった。
近所の人達も我家がスコットランドエディンバラから越して来た家族だという事で最初は、物珍しそうに見ていたけど六年も前の話。最近はアスカ君と呼ばれて朝夕の挨拶もしてくれる様になった。
俺の家から二百メートル位歩いた所にコンビニがある。日曜日はお母さんがお昼を作ってくれるが土曜日は俺一人だ。…というのは嘘でいつもレイラが傍に居た。俺の勉強を見る為に。
だから、口ではとても表されない位の気持ちを彼女に持っている。同じ高校に行けるようになったのも彼女のお陰だ。
そんな事を思いながらもコンビニに向かっていると直ぐ近くの低層マンションに引っ越し業者のトラックが停まっている。
誰か、引越しでもして来たのかと思いながらそのトラックの横を通り過ぎようとした時、
えっ!見覚えのある後姿がマンションの中に入って行く。レッドゴールドの髪の毛が腰まである女の子だ。
でも、まさかな。そのまま通り過ぎてコンビニに行き、お湯を入れて五分待てば出来るというヌードルとパンを買って、また先程のトラックの脇を通り過ぎようとした時、マンションの入口から出て来た女の子に声を掛けられた。
「アスカ!」
「ジェシカ!どうして?」
「どうしてもこうしてもない。アスカの傍に居たいから」
「えーっ!それで日本に来たの?一人で?」
「流石にそれは出来ないから。お母さんと一緒」
「そ、そうか。良かったな。じゃあ、俺はこれで」
「ちょ、ちょっと待ってよ。アスカの家どこ?」
俺達が話をしていると
「ジェシカ。帰って来ないからおかしいと思ったら。あらっ、アスカ。お久し振りね。これからジェシカの事宜しくね」
「え、ええ」
引越し業者がアスカのお母さんに話しかけている。もう荷物の搬入は終わった様だ。しかし、あの引越し業者、綺麗な英語だったな。流石日本だ。
俺の昼は何故かジェシカ達と一緒の昼になってしまった。しかし、この二人日本の食事出来るのか?
俺がそれを聞くとスコットランド料理の具材が手に入るインポート業者を探してあるから今から行くと言っていた。もしかしてお母さんが毎週行く同じ所じゃないだろうな。
「アスカも一緒に来る?」
「いや、俺は遠慮しとくよ」
「アスカ、しばらく会わない内に変な言葉になっていない?」
「そ、そんな事ないと思うけど」
確かに日本語の発音は独特だ。この言い方が母国語を話す時に影響しているのかな?
「ジェシカ、そろそろ行くわよ」
「はーい」
「うん、エディンバラに居るうちに、こっちのトヨタのディーラーに車を手配して貰っているから」
流石手回しいい事。でも運転出来るのか?
しかし、あの二人、母国語とスコットランド訛りの英語でどうやって暮らしていくんだ?
ジェシカ達を見送った後、家のリビングで勉強がてらテレビをつけているとスマホが鳴った。この番号を知っているのは両親とレイラだけだ。直ぐに出ると
『明日香、私。何しているの?』
『今、昼ご飯食べ終わった所』
『そう、高校入学までまだ二週間あるけど、明日会う?』
なんか用事あったっけな?
『良いけど。何か用事会った?』
『あるある。それに明日香、洋服揃えた方がいいよ。だから一緒に買いに行こう』
『そうか。流石レイラだな』
中学時代の洋服はほとんどレイラと一緒に行って買っていた。何故かって。俺の日本語では売り場で通用しないからだ。今は大分良くなっているが。
俺は、レイラと渋山駅の改札に明日の午前十時に待ち合わせる事にした。彼女と会うのは三日ぶりだ。
その日の夜、お父さんも帰って来た午後八時にダイニングで紅茶を飲みながら
「ジェシカ達が近くの低層マンションに引っ越して来たよ」
「そうか、早かったな」
「えっ、お父さん知っていたの?」
「ああ、二か月前にジェシカがお母さんと一緒こちらに来ると聞いていた。しかし本当に来るとはな」
「私も知ってはいたけど。明日香こっちに来た理由聞いている?」
「まだそこまでは。そういえば、ジェシカが俺の傍に居たいからって訳の分からない事言っていた。
でもあの二人がこっちに来ても生活出来るのかな?日本語話せないでしょう。日本語ってとても難しいし」
「母さん、アスカにこっちであの子がどう過ごすか、聞いている事先に教えておいた方が良さそうだ」
「そうですね」
俺は、お母さんからジェシカが日本に来た理由と一年後には都立七尾高校にする転入する予定だと聞いて驚いた。俺の傍に居たいってそういう事?
全く嫌な予感しかしない。
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
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