第5話 高校受験は大変です


 月日が経つのは早いもので、あっという間に高校受験の季節を迎えた。まあ、まだ十月だけど。


「明日香は、何処の高校に行くか決めたの?」

「前から決まっている。レイラが行く高校」

「もう、そろそろ私から独立したら。小学校三年の九月から数えて六年だよ」


 登校途中の足を止めて明日香が私の顔をジッと見ると

「レイラは俺の事が嫌いになったのか?」

「何言ってんの!そんな訳ないでしょ。いいの私とずっと一緒で?」

「いけないか」

 調子が狂うなぁ。


「俺は、お前がいないと日本で生きていけないんだ。永住権もとれるし、こっちで生きるつもりだ」

「はぁ、何言っているのよ。もう仕方ないわね。都立七尾高校よ。しっかり勉強しないと受からないわよ」

「大丈夫だ。俺にはレイラが付いている」


 なんか、この件で話すのが面倒になって来た。まあ、特別に進学重視の学校でも無いから明日香でも大丈夫だと思うけど。



 もうこの学校の生徒も一年生を除けば明日香と私が一緒に歩いていても誰も気にしなくなった。


 明日香は、四月の身体能力測定で五センチ伸びて身長が百八十三センチと言っていた。中学三年でこの身長。一体何センチまで伸びるんだろう。


 私なんか、百六十二センチ。二センチしか伸びなかったのに。もう彼とは二十一センチも違う。背伸びしても届かない。えーっと。肝心な所は大きくなりましたけどーっ……。


 私達の教室は3B。教室に入ってもまだ、受験受験という雰囲気でもない。私達が一緒に教室に入ると


「おはよ、カーラライル。譲原さん」

「おはよサクジ」

 何故か、この男、一年の時からずっと一緒だ。


「カーライル。高校決めたか?」

「ああ、レイラが行く所だ」

「ぷっ!お前達ずっと一緒かよ」

「ああ、俺とレイラは一生ずっと一緒だ」

「えっ?!」


―え、え、えっー???

―譲原さんとカーライル君って、そんな仲だったの?

―高校までチャンス有るかと思っていたのに。



 要らぬ誤解を招いている。

「へーっ、そうか。それは邪魔したな。じゃあな」


 なんだ、あいつ?



「アスカ、誤解する事言わないの!」

「レイラ、俺は何か誤解する事言ったか?」

「もう、いい」

 最近、分かって言っているのか、分かっていないのか分からなくなって来た。



 十月中旬に有った模試の結果、都立七尾高校の自己採点判定、私は文句なくA、でも明日香がBだった。十一月の半ばに有った最後の模試も同じ結果だ。


 放課後帰り道、

「明日香、今日から特訓よ」

「えっ!」



 冬休みは明日香の両親にお願いして塾の冬休みコースに入る事にした。両親があれだけの頭脳を持ちながら何で彼はこのレベルなんだ?意味分からない。



 冬休み気分も早々に冬休みの宿題を先に終わらせた後、朝早く彼の家に行き、朝食を一緒に食べさせて貰った後、直ぐに塾に直行。


 朝から塾の勉強をして帰って来れば、復習をさっと終わらせて予習を集中的にやった。

 予習でやった所を講義の説明で間違っていると分かると何故間違ったから見直した。私も勉強になるから良い。彼も必死なのが良く分かる。



 そして、三学期になり、都立七尾高校の受験の日、

「明日香。筆記用具、受験票、ハンカチ、ティッシュ。忘れてないわよね。スマホは終わるまでオフよ」

「大丈夫だ」

「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい。麗羅ちゃん、明日香」


 今日は明日香のお母さんが、見送ってくれた。



「日本に来てからあの二人、一緒に居ない日が一日もないんじゃないかしら。明日香は完全に麗羅ちゃんに依存しているし。麗羅ちゃんも応えてくれているけど。

 高校に入ったらどうなるの。このまま最後まで一緒なのあの二人。良いのか、悪いのか」



 私と明日香は受験が終わった後、直ぐにお互いの答え合わせをした。なんとほとんど同じ答えだった。私が心配になって来た。



 そして結果は…。二人共見事に合格だった。


「やったぁ!」

「ちょっ、ちょっと。明日香」


 明日香が皆の前で私に抱き着いて…いえ違うわ私が抱きかかえられてる。二十センチ以上の差があるから仕方ない。


「おう、おう。熱いなぁ。高校に行ってもそれかよ」

「サクジか。お前は何処の高校だ?」

「俺か…。俺はだなぁ。都立七尾高校だ」

「えっ?!」

「なんで驚く?」

「そ、そうか。良かったな」

 またこいつと一緒か。




 二か月前のエディンバラ。カーライル家の隣、アンダーソン家では


「ジェシカ、何言っているんだ。セント・ジョージ・スクールに入ったばかりじゃないか」

「いいの。私は日本という国に行くの。私はアスカと一緒になるの!お父さん、絶対に行くからね」

「向こうではどうするんだ。知合いなんかいないぞ。それに日本語なんて知らないだろう」

「アスカの家にホームステイする。日本語はアスカに教えて貰う」

「馬鹿な事言っちゃいけない。ここではお隣だが、向こうには向こうの生活があるんだ」

「やだ。どうしても行く」


「母さん、どうする?」

「一度言い始めたら聞かない子だからね。取敢えずヨーコさんに連絡してみましょうか」

「そうだな」




 一月の終り。日本のカーライル家では


「あなた、アンダーソンさんから国際電話が有ったわ」

「アンダーソンさんから?なんの用だ」

「ジェシカちゃんが明日香を追って日本に来たいと言っているからホームステイ出来ないかって」

「それはまた難題だな。それに二人が受験する高校に転入出来ないだろう」


「それが…。最初の一年インターナショナルスクールに入れて日本語学校にも行かせて二年から七尾高校に転入させたいというのよ」

「なんて考えなんだ。無理すれば何とかなるだろうが。それにアスカには麗羅ちゃんがいるじゃないか。

 今は友達同士という感じだがアスカの麗羅ちゃんに対する依存は中途半端な物じゃない。いずれはそれなりにはっきりするだろう。

 俺も麗羅ちゃんならアスカを任す事が出来る。アスカは高校になれば目覚めてくる。その時、麗羅ちゃんは絶対に必要な人だ」


「私もその考えには賛成だわ。でもどうします。アンダーソンさんの事」

「来日するのは勝手だが、うちでホームステイは出来ないと伝えてくれ。理由は私達の仕事だ」

「分かったわ」



 数日して。

「あなた、またアンダーソン夫人から」

「今度は何だって?」

「私達の家の近くのマンションに空き室があるからそこを購入するのでジェシカの事頼めないかと言って来たの。夫人が一緒についてくるそうよ」


「何だって!アンダーソンさんは?」

「両親も息子も居るから大丈夫だって」

「はぁ、そこまでするのか」

「私、少し賛成だわ。麗羅ちゃんは明日香の依存を受け止めてくれるけど、逆に明日香がもう少し自立する事を覚えるチャンスかも知れない」


「それは必要ないだろう。このままでいいじゃないか。静かな水面に石を投げ入れる必要もないだろう」

「そうね。でも明日香は麗羅ちゃんとは離れないわ。でも他の視点も持って欲しいのよ。これはあの子にとって絶対に役に立つと思うの」

「万一有ったら麗羅ちゃんに今までの恩をあだで返す事になるぞ」

「明日香がジェシカちゃんを簡単に選択するとは思えない。それに麗羅ちゃんが明日香を簡単に手放すとは思えないわ」


「しかし、それはそれではジェシカちゃんが可哀そうだ」

「でもジェシカちゃんがアンダーソン夫人と一緒に来ると言っている以上私達に止める権利はないわ」

「仕方ないか。しかし…」


―――――

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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宜しくお願いします。

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