第3話 慣れて来ると色々有る


「おはよ明日香」

「おはよレイラ」


 今日も学校の最寄り駅で明日香と待合わせして登校する。どっちが声を掛けたという訳でなく、小学校三年からの付き合いで自然とそうなっている。

 日本語も会話だけなら大分上手くなったので、話している分には大分楽になった。


「明日香、背が伸びた?」

「伸びた。百七十八センチ」

 

 明日香は小学校高学年になった辺りから身長が急に伸び始めた。周りの男の子よりも全然早い。


「でも、お父さんやお爺ちゃんから見れば低いよ。二人共百九十センチ超えているから」

「スコットランドの人って、みんな背が高いの?」

「皆という訳じゃないけど背が高い人は多い。レイラは何センチだ?」

「私は、百六十センチ。平均かな」

「そうか」

 明日香は何センチになるんだろう。まだ中学二年なのに。



「なあ、レイラ。最近、見られている気がする。それにシューズボックスにポストカードが入っている時がある」

「ふうん。気の所為じゃない。カードは、読めなかったら見てあげる」

「うん、字が伸びたり丸かったりして読めない」


 確かに明日香は、小学校の時は、まだ可愛い男の子だったけど、身長の伸びと共に顔の形が変わって来た。


 それもカッコいい方に。北欧人特有のかっこよさだ。それに金髪。だからそうなるのは仕方ない。

 確かに今でも女子からの視線は多い。



 二人で昇降口について明日香が下駄箱の蓋を開けると

「レイラ、これだ」


 彼が下駄箱から二枚のカードを見せた。確かにこれは彼には読めないわ。字は丸いし、絵文字の所もある。暗号にしか見えないんじゃないか。


「これはねえ、明日香と…うーん。上手く言えないな。会って話をしたいと書いてあるの」

「そうか、会ってどうするんだ?」

「それは、相手次第」

「会った方がいいか?」


「止めといておいた方がいい。要らぬ期待を抱かせる」

「要らぬ?抱かせる?どういう意味だ?」

「あっごめん。相手が明日香と付き合えると思ってしまう」

「それは嫌だな。じゃあ、会うのは止めよう」



 明日香にカードを戻して2Cの教室に入った。明日香は窓側一番後ろ。私は隣だ。何故か小学校からずっと横になる。先生達の配慮なのかな?



 私達が入って来ると女子だけでなく男子もこっちに視線を向ける。確かに彼の存在は異質でしかない。


 皆慣れて来たとはいえ、一年の時もそうだったけど二年になった時も、一年から同じ子以外は驚いていた。知っているはずなんだけど。



「おはよ、カーライル」

「おはよ。サクジ」


 秋葉作治(あきばさくじ)。性格が軽くて、ひょうきんな男。悪気はないけど、やたら明日香に声を掛けてくる。


「カーライル、お前最近モテモテなの知っているか?」

「モテモテ?」

「ああ、悪い。モテるというのはだな…。なんて言えばいい譲原」

「あんたねえ。自分で言っときながら」

「明日香、モテモテというのは、多くの女の子が、あなたに好意を示しているという事」

「ああ、そうか。それは大変だな」

「カーライル、お前意味分かっていないだろう」

「そうなのか」


 予鈴が鳴って、担任の先生が入って来た。


 一限目の授業は英語だ。明日香は真面目に聞いているが、ちょこちょこと私の近くに来ては

「レイラ、あの人、何言っているのか分からない」


 とか小声で言っては、周りから失笑をかって、先生の授業を邪魔する事がある。だけど、この教科だけは、まだ一学期だというのに予習は全部終わったと言っている。


 知りたいのは新しい単語や熟語らしい。母国語とも違うと言っていた。私には分からないけど。

 確かに向こうのプライマリースクールは二年で終わらせているから当然の事か。



 二時限目は国語。この時間だけは明日香と机をくっ付けて授業を受ける。授業中やたらと私に聞いて来る彼への学校側の配慮だ。




 午前中の授業が終わり、お昼になると給食が出てくる。小学校の時の明日香は大変だった。普通の日はパンなんだけど、偶にお米が出る。


 初めて見た時は、白い虫がいると思ったらしい。お味噌汁も異様な匂いがすると言っていた。


 他にのも挙げたらきりがないけど、今は大分慣れたらしい。家では、スコットランドの食材を週末に買いに行くと言っていた。



「明日香、日本の食事は慣れた?」

「もう、大分居るからね。まあ、慣れないものもあるけどさ。何だっけ、日本の諺に郷に入ったら郷に従えって言うだろう」

 誰だ、こんな諺教えたの?


「よく知っているわね。そんな言葉」

「ああ、サクジが教えてくれた」

 あいつ、なんか企んでないか?



 放課後になり、

「レイラ。俺、一度スコットランドに戻って来る」

「えっ?!何かあったの?」

「何も無いよ。両親が仕事の関係で二週間程帰る事になったんだ」

「あっ、そうなんだぁ。驚いたなあ」

「レイラは俺が居なくなると心配したのか?」

「そんな訳…あるけどさ」

「今はどういう意味だ?」

「いいの。気を付けて言って来てね」



 それから明日香は一ヶ月も帰って来なかった。もうすぐ夏休みに入るから良かったんだけど。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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