第4話 咄嗟の嘘

 昼休みは、麗ちゃんと一緒にお弁当。

 麗ちゃんとはクラスが違って、学校にいる間ずっと一緒にいられるわけじゃないから、この時間はいつも楽しみ。


 だけど今日は、そんな楽しい時間も、どこか上の空だった。


「亜希。ねえ、亜希ってば!」

「えっ? な、なに?」

「なにじゃないよ。さっきからボーッとして、どうしたの?」


 私、そんなにボーッとしてたっけ。そういえば、今まで何を話していたか覚えてない。


「ごめんね」

「謝らなくてもいいけどさ。もしかして、何か悩みでもあるの? だったら力になるけど」


 そう言ってくれるのは、すごく嬉しい。

 だけどなんでもかんでも頼りっぱなしってのは、やっぱり申し訳ないの。


「大丈夫。私、これからちょっと用事があるから、もう行くね」


 そう言って、お弁当を片付け、その場を離れる。

 ちなみにお弁当は、半分くらいしか食べられなかった。これからのことを考えると、緊張で胃が痛くなったから。


 私の悩みは、もちろん九重くんからスピーカーを返してもらうこと。

 

『昨日は、忘れていったスピーカーを拾ってくれてありがとうございます。返してもらいたいのですが、会うことはできますか? あなたと同じ学校なので、昼休みや放課後会うのってダメですか?』


 勇気を出して九重くんにこんなメッセージを送ったん、すぐに返事が返ってきた。


『えっ、同じ学校? マジで!? 会うのはいつでもできるから、今日の昼休みでいい?』


 そして、今がその昼休み。

 これから私は、九重くんに会いに行く。


 場所は、体育館裏。

 あそこなら滅多に人は来ないし、二人だけで会いたいって伝えたから、他の人には見られないはず。


 九重くん。昨日会ったのが私って知ったら、なんて言うかな?

 待ち合わせのメッセージを送った後、何年何組の誰なのかって聞かれたけど、詳しいことは会ってから話すとだけ返したんだよね。


 メッセージ越しに時間をかけてやり取りするより、パッと会って、さっさとスピーカーを返してもらって、ついでに昨日見たことを秘密にしてって頼んで、全部一気に解決したかったから。


 解決、するよね? できるよね!?


 緊張しながら、体育館裏に向かう。

 建物の角からコソッと様子をうかがうと、メッセージでお願いした通り、九重くんは一人で待っていた。


 改めて見ると、やっぱり九重くんはかっこいい。

 こんな所でただ立っているだけなのに、それだけで絵になる。


 だからこそ、今からあの人に声をかけなきゃいけないって思うと、さらに緊張が増してくる。


「こ、ここ、九重くん。あ、あああ、あの、私……」


 建物の角から飛び出し、気合を入れてかけた言葉は、自分でも驚くくらい噛みまくっていた。

 こんな変なのがいきなり話しかけて来たもんだから、九重くんは一瞬ギョッとしたように後ずさる。


「お、お前、うちのクラスの奥村だよな。こんなところで何してるんだ?」

「え、えっと……」


 どうしよう。あんなに言わなきゃって思ってたのに、なかなか言葉が出てこない。

 すると九重くんの方から、こんなことを聞いてきた。


「なあ。この辺で男子を見なかったか? 男にしては小柄で、多分お前と同じくらいの身長だと思うんだけど」

「えっ?」


 だ、男子?

 私と待ち合わせしているはずなのに、どうして男の子を探してるの?


「み、見てないけど、どんな人なの?」

「それが、どんな奴かはよく知らないんだ。だだ、今からここで会うことになってる」

「それって……」


 九重くんが言ってるの、多分私のことだよね。


 そういえば、昨日の私は完全に顔を隠してたし、メッセージでは私がどんなやつか一切伝えてない。

 九重くんは、男子か女子かも知らないんだ。

 それでいて、昨日の私は髪を短く見せスボンを履いていたから、男子と思っても仕方ないかも。


 思わぬ勘違いにビックリ。

 だけどその時、私の頭に、ある考えがひらめいた。


「あ、あの。これ……」


 そう言って、昨日九重くんが残してた、連絡先が書いてある紙を見せる。


「それ? 奥村、お前まさか……」


 驚く九重くん。

 いくら男の子だって思っていても、ここで私が本当のことを話したら、信じてくれるはず。

 だけど、私はそうはしなかった。かわりに、言った言葉がこれだ。


「き、昨日九重くんが会った人、私の知り合いなの!」

「えっ? し、知り合い?」


 ますます驚く九重くん。

 もちろんこれは、全部嘘。

 だけど、知り合いから頼まれて私が代わりに来たって言ったら、スピーカーは返してもらえるし、あの時踊っていたのが私だってバレずにすむはず。


 我ながらナイスアイデア。

 だからお願い。九重くん、どうかこの嘘、信じて。

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