第7話 美少年誕生!?

 目の前にいるのは、黒髪で、少し小柄な男の子。

 クリっとした目と、少し戸惑うような表情が、なんとも言えない愛らしさを引き出している。

 ……なんて、これが他人なら、そんなホンワカしたこと思っていたかもしれない。


 けど違うの。

 目の前にいるなんて言ったけど、実はこの男の子、なんと鏡に映った私なの!


「想像以上に凄いのができた! どこからどう見ても美少年!」


 そう言って誇らしげに笑う麗ちゃん。

 その手には、私をこんな風にしたメイク道具が握られていた。


 私のかわりに、マスクダンサーとして九重くんに会ってくれる男の子。

 そんな子が用意できるかもしれないって言った麗ちゃんの作戦がこれだった。


 学校が終わってすぐ、麗ちゃんの家に直行。

 麗ちゃんのうちは親子でメイクやファッションに詳しくて、色んなアイテムがあって、それを使って私をこんな風にしてくれたの。


 メンズっぽい服を着て、短い髪のウィッグを被って、メイクして、徹底的に男装したんだ。


「本当に男の子みたい」


 鏡の中の私を見ながら、クルッとターン。もちろん鏡の中の私もターンするけど、とても私だなんて思えない。

 だって、まったくの別人なんだもん。


「我ながらよくできたと思うよ。亜希にする初めてのメイクが男装メイクなんて、思ってもみなかったけどね。今まで何度やってみないって誘っても、全部断られたからね」

「だって、私じゃどうせやっても可愛くなんてならないだろうし……」

「またそんなこと言う。けど、少なくともかっこよくはなれたでしょ」

「う、うん」


 麗ちゃんの言う通り、鏡に映る男装した私は、自分でもびっくりするほどかっこいい。

 自分のことをこんな風に言うのは恥ずかしいけど、麗ちゃんの言ってた通り、美少年にしか見えなかった。

 こんなに変わることができるなんて、麗ちゃんのメイクって凄い!


「これで、男の子として九重くんに会いに行けるね」

「うっ、そうだよね。この格好で、九重くんと会わなきゃいけないんだよね」


 確かにこれなら、パッと見ただけじゃ女の子だってわからないだろうし、ましてや私みたいな地味子だって気づくわけがない。

 けど、それだけで安心できるわけじゃない。

 いくら男の子に変装しても、中身は私なんだから。


「喋ったらすぐにバレました。なんてことになったらどうしよう」


 わざわざ男装までしてバレたら、さらにダメージが大きくなる気がする。


「そんなことにならないように、今から特訓しなきゃね。九重くんとは、明日会う予定なんでしょ」

「うん。さっき九重くんに、マスクダンサーやってる親戚の子と話をつけたってメッセージを送ったら、明日は休みだから朝から会おうってことになったの」


 これでもう後戻りはできない。

 いくつも嘘に嘘を重ねて、だんだん爆弾が大きくなってきている気がするよ。


「明日までに男の子のふりをできるようにならなきゃいけないわけね。大丈夫。私、少年マンガけっこう読んでるから、しっかり男の子になれてるか、チェックできるから」

「そ、そう? 少年マンガ読んで、チェックできるものなの?」

「細かいことは気にしない。とりあえず、自分のことを私って言うのはやめようか。それに、口調も男の子っぽくしないとね。はい、今すぐ始めて」


 パンと大きく手を叩いて、スタートの合図をする麗ちゃん。

 えぇっ、そんな急に!? と、とにかく、何かやらなきゃ。


「え、えっと…………わた、じゃない。僕は、男の子……だぜ?」


 それを聞いたとたん、麗ちゃんはププッと大きく吹き出した。


「麗ちゃんーっ!」


 これでも精一杯やったのに、そんなに変?


「ごめんごめん。けどそんなんじゃ、すぐにバレちゃうよ。ほら、続けて続けて」

「うぅーっ!」


 それから麗ちゃんの指導の下、男の子っぽくする特訓は続く。


 こうなったのは全部私のせいだから、がんばらなきゃいけないのは当然。

 麗ちゃんはそれに協力してくれてるんだから、感謝するのも当然。


 だけど、何度も吹き出したりニヤニヤ笑ったりしている麗ちゃんを見て、もしかして楽しんでないって思わずにはいられなかった。

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