第6話 男の子を探せ?

 あの場から離れたのはいいけど、麗ちゃんはまだ納得がいかない様子だった。


「で、結局のところ何があったの?」


 私を心配してわざわざ探しに来たくらいだから、気にならないはずがない。


 何があったのか、昨日まで遡って、全部話す。

 それを聞いた麗ちゃんは、思った通り、もの凄く驚いてた。


「昨日そんなことがあったの? 言ってくれれば、私がなんとかしたのに」

「ごめんね。迷惑かけたくないって思って……」


 それで余計にややこしい事になって、結局麗ちゃんにも全部話したんだから、何から何までダメダメだ。

 こんな時、本当に自分が嫌になる。

 なのに、麗ちゃんは笑ってた。


「水くさいよ。亜希が知らないところで困ってたら、そっちの方が嫌だもん。次からこんなことがあったら、すぐに話してよ」

「うん……」

「それにしても、マスクダンサーに会いたい、か。私はてっきり、九重くんが亜希のかわいさに気づいて、迫ってきたのかと思ったよ」

「なに言ってるの!? そんなことあるわけないじゃない!」


 前から思ってたけど、麗ちゃんの私に対する評価って、ものすごーく甘々な気がする。


 けど、今大事なのはそこじゃない。

 マスクダンサーに会いたいって言った九重くんに、わかったって言っちゃったんだよね。


 頼んでみたけど断られたって言おうかな。

 けど、さっきの九重くんの様子を見ると、そう簡単には諦めないかも。


「どうしよう。会わせるって言っても、私の親戚の男の子だって言っちゃった。いくらマスクダンサーでも、こんな時まで顔隠して会いに行くなんて不自然だし、本当のことを言うしかないのかな」


 普通に正体がバレるだけでも嫌なのに、嘘ついてたってことまで話さなきゃいけない。

 九重くん、なんて思うかな?

 考えただけで、胃が痛くなってくる。


「ごめんね。私が変なタイミングで出ていかなかったら、こんなことにならなかったかもしれないのに」

「ううん。九重くん、何度も会わせてって頼んできたし、どのみち断れなかったと思う」


 そもそも九重くんは、どうしてマスクダンサーに会いたいんだろう。

 ほとんど誰も見ていないダンス動画の配信者なんて、会っても仕方ないと思うんだけど。

 しかもそれが私みたいな地味なやつだって知ったら、心底ガッカリさせること間違いなしだよ。


「私のかわりに、自分がマスクダンサーですって言ってくれる人がいてくれたらいいのに。できれば、かっこいい男の子」


 九重くんだって、どうせならかっこいい子がマスクダンサーであってほしいよね。


「いやいや、いくらなんでもそれは無茶でしょ。かっこよくてダンスができて、マスクダンサーのふりをしてくれる男の子なんて、どこにいるのよ」

「だよね」


 現実逃避の妄想なんてしてる場合じゃない

 やっぱり、本当のことを話して、嘘ついてごめんって謝ろう。

 こんなことなら、嘘なんてつくんじゃなかった。


 だけど、そこで麗ちゃんが、何か思いついたように呟いた。


「ちょっと待って。凄くかっこよくて、めちゃめちゃダンスがうまくて、自分がマスクダンサーだって言ってくれる男の子、だよね?」

「う、うん。なんだか、さっきよりハードルが上がってる気がするんだけど」


 そんなの、どこを探したっているわけない。少なくとも私はそう思ってた。

 だけど、麗ちゃんは、ニヤリと笑う。


「そんな子、用意できるかもしれないよ」

「へっ?」


 まさか。嘘でしょ!?

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