第23話 恭弥side なんなんだ、いったい

 二人で祭りを回るなんて、デートみたいだな。

 うっかり出そうになった言葉を、慌てて飲み込む。


 奈津は男だ。

 実際は亜希っていう女だが、本人はバレてるって気づいてない。

 なんでそんなことしてるかは知らないけど、隠してるなら知らないふりをするって決めたんだ。

 奈津でも亜希でも、一緒にいて楽しいのは変わりないからな。


「それで、恭弥。行きたい場所ってある?」

「そうだな。とりあえず何か食べるか。コンテストが始まるのは午後だし、少しは食べといた方がいいだろ」

「そうだね。じゃあオレは、あれにしようかな」


 そう言って奈津が指さしたのは、クレープ屋。

 早速二人で並ぶと、奈津は苺とチョコとチーズケーキがこれでもかってくらい大量に入った、特大サイズを注文していた。


「それ、一人で食べるのか?」

「そうだけど、変かな?」

「いや、いいんじゃないか」


 俺もクレープを買って食べたが、奈津の方が量が多い分、食べるのに時間がかかる。

 俺が完食したのを見て食べるペースを上げたが、クレープを一気に食べると大変なことになる。


「おい。顔に思いっきりクリームついてるぞ」

「えっ、どこ!?」

「左のほっぺたのところだ」

「わわっ! 見ないでーっ!」


 真っ赤になって大慌てで叫ぶ奈津。

 けど悪いが、見ないなんて無理だ。

 クリームつけて騒ぐ姿、めちゃめちゃ可愛いんだよ。


「むぅ……そんなに笑うことないじゃない」


 さっきまでクリームのついてたほっぺたを膨らませるけど、ちっとも怖くないどころか、むしろドキッとする。

 奈津が本当は女だってわかってから、こんなことはしょっちゅうだ。


 奈津を男扱いするのに一番苦労するのはここなんだよな。

 どういうわけか本人に可愛いって自覚はないし、亜希の時は前髪で顔を隠してるけど、素顔を知ったら他の男子も放っておかないだろう。

 そう思ったら、胸がザワザワする。


「なあ、奈津」

「なに? また何かついてる?」

「いや、そうじゃなくて、亜希のことなんだけど……」


 奈津とは、これからも仲間として、仲良くやっていきたい。けど亜希は亜希で、その可愛さを俺だけが知ってるうちに、もっと仲良くなりたい、近づきたいって思った。

 その時だった。


 急に全く別の声が、俺たちの間に割って入ってくる。


「あの、スートの恭弥くんですよね」


 そこにいたのは、俺達と同じくらいの女子。

 見覚えはないしうちの学校の生徒でもなさそうだが、知らないやつに話しかけられるのは珍しくない。


「私、昔ダンス教室に通ってて、ダンス好きなんです。今日のコンテスト、応援してますね」

「おおっ、ありがとうな」


 こんな風に応援してくれるのは、素直に嬉しい。

 せっかくだから、俺だけでなく奈津も紹介しといてやるか。


「じゃあ、コイツのことは知ってるか? 今日、俺達と一緒に踊るんだけど」

「はい。奥村奈津くんですよね」


 奈津のことも知ってるのか。

 何度か動画に出てもらって宣伝した甲斐があった。

 直接応援してもらえたら、奈津だって嬉しいんじゃないか。そう思って奈津を見る。

 だけど奈津の表情は、想像していたのと全く違ってた。


「な、長嶺さん……」


 震えるような声が、微かに漏れる。

 顔色は真っ青で、まるで怯えているようだった。


「奈津、どうしたんだ?」


 緊張しているのかと思ったが、そんなのとは明らかに様子が違う。


 長嶺っていうのは、この子の名前か? 二人とも、知り合いなのか?

 長嶺って子も、奈津がどうしてそんな反応をしているのかわからないようで、不思議そうに首を傾げる。

 だがやがて、何かに気づいたように息を飲む。


「あなた、まさか……」


 何か言いかけた、その時だった。


「ご、ごめん! オレ、用事を思い出した!」


 長嶺の言葉を打ち消すように、急に奈津が叫び出す。

 そしてクルリと俺達に背を向け、そのままそそくさと去っていく。


「おい、奈津!」


 呼び止めたけど、振り返りもしない。用事って言ってたけど、こんなのどう見ても不自然だろ。

 そして長嶺も、少しだけ何か考えるような素振りを見せ、それから奈津を追いかけ走り出した。


「なんなんだ、いったい?」


 何が起きているのか、ちっともわからない。

 だが怯えるような奈津の様子を思うと、なんだか嫌な予感がした。

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