第22話 九重くんと二人きり?
やってきた事務所には、私達以外のコンテストの参加者も何人かいて、順番に受け付けをすませてた。
エントリーは誰でも自由にできるから、参加者は、大人から小学生くらいの小さな子どもまで様々。
そんな中、私達が入っていくと、誰かが「あっ、スートだ!」って声をあげた。
見ると、私達と同じ中学生のチームのようだった。
「俺達、注目されてるな」
「この辺じゃ顔と名前もそこそこ知られてるし、このコンテストに出るって告知も、たくさんしてたからな」
スートのファンはうちの学校の生徒が中心だけど、他校のファンもけっこういる。
だからみんなも、こんな反応には慣れてるみたい。
「奈津に注目してる人もいるかもね」
「ちょ、ちょっと拓真。プレッシャーかけないでよ」
小野くんが変なこと言うから、また心臓がバクバクしてくる。
けど、案外間違いじゃないかも。
実は私、前に出たゲーム実況以外にも、時々スートの動画に混ぜてもらってたの。
このコンテストに私も一緒に出るよって宣伝を兼ねてのものだったけど、おかげでスートのファンには、しっかり顔と名前を覚えられていた。
「悪い注目じゃないからいいじゃない。配信でも、奈津が出た回は評判よかったよ」
日比野くんがそう言ってくれるけど、本当かな?
私が出た動画では雑談やクイズをしたけど、ずっとワタワタしてた気がするよ。
「慌ててるところが面白いってコメント、たくさん来てたよ」
「喜んでいいのか微妙だよ!」
「いいじゃない。配信は話題になったもの勝ちだよ」
「そ、そうなのかな?」
うーん。なんだか複雑。
そうしているうちに、五十嵐先輩が受け付けをすませ、番号の書かれたカードを人数分貰ってきた。
このカードが参加証明書になっていて、ステージの裏にはこれを見せて入ることになっている。
「受け付けもすんだし、しばらくは好き勝手回っていいぞ。ただし、出番には絶対に遅れるなよ」
そう言ってカードを渡す五十嵐先輩。
そういえば、コンテスト開始までまだ時間があったけど、何するか決めてなかったっけ。
麗ちゃんが応援に来るって言ってたから、今のうちに会っておこうかな。
麗ちゃん、私も出るって聞いて凄く喜んでくれたし、絶対見るって張り切ってたんだ。
だけど、事務所から出ていこうとしたところで、九重くんが呼び止めた。
「なあ、奈津。予定ないなら、俺と一緒に色々見て回らねぇか?」
「えっ、今から?」
誘ってくれたのは嬉しいけど、麗ちゃんにも会いたいし、どうしよう。
「麗ちゃんも来てるから、会いに行こうと思ってたんだけど……」
「それって、待ち合わせしてるのか? 奈津はスマホ持ってないし、連絡せずに合うのは難しいんじゃないか?」
「あっ……」
そうだった。
奈津は、スマホを持ってないってことになってるんだ。
それで会いに行くって言うのは、無理があるかも。
「連絡なら俺がしてやるよ。会う場所を決めればいいよな」
「ありがとう」
麗ちゃんも、マスクダンサーの動画チームのメンバーって理由で、九重くんと連絡先を交換していたの。
九重くんがメッセージを送るけど、すぐには返事がこない。
「どうする? しばらく一緒に回って、返事が来たら内藤のところに行くってことでいいか?」
「そうだね」
それなら九重くんと一緒に回れて、麗ちゃんとも会える。
事務所を出ると、外はたくさんの人や出店が溢れてて、とても賑やか。
今から九重くんと二人で回ると思うと、なんだかワクワクしてきた。
(……って、二人?)
その時になって気づく。
これってつまり、男の子と二人でお祭りを回るってことだよね。それって、何だかデートっぽくない?
う、ううん。そんなことない。だいたい九重くんは私のこと男だと思ってるんだから、変なこと考えちゃダメ。
必死で自分に言い聞かせるけど、心臓がうるさいのはどうしようもなかった。
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