第10話 こだわる理由

「待って待って! 冗談だよね!?」

「本気だ」

「嘘でしょ!?」


 いくら本気って言われても、信じられない。

 私がスートのみんなにダンスを教える? そんなの、どう考えてもありえないから!


「無理だよ! それにスートって、ダンス動画だけをあげてるわけじゃないでしょ」


 スートの配信内容は、スポーツとかゲーム実況とかたくさんあって、ダンスはその中のひとつ。

 うまくなれるならその方がいいだろうけど、わざわざ私に頼んでまでやることなの?


「これ、見てくれないか?」


 そう言って九重くんが見せたのは、今まで公開してきたスートの動画。それに、その再生数。

 その中でも、さっきのダンス動画はかなり上位になっていた。


「ダンス動画、かなり人気だったんだよ」


 それはわかる。そもそもスートが人気になったのは、全員がイケメンのグループだからっていう、アイドル的なもの。

 そんな彼らがダンスっていうまさにアイドルみたいなことやってるんだから、人気が出ないはずがない。

 なのに九重くんは、なぜかムスッとしていた。


「で、これがこの動画に届いたコメントたちだ」


 画面が切り替わって、たくさんのコメントが表示される。

 私なんてひとつの動画に一個あればいい方なのに、やっぱりスートって凄い。

 内容も、かっこいいとか本当のアイドルみたいとか、画面の向こうでキャーキャー言ってるのが目に浮かぶ。

 だけど……


「ん? これって?」


 途中から、そんな絶賛コメントに混じって、そうじゃないものが出てくるようになった。


『ダンス下手すぎ』

『コイツら顔だけだな』

『これに高評価してるやつら、見る目なし』


「酷い……」


 胸の奥がズキリと痛む。

 酷いものだと、悪口って言っていいものもあった。

 そんなのを見ると、自分が言われたわけじゃないのに、凄く嫌な気持ちになる。

 同時に、昔あった嫌な記憶が蘇ってくる。


 ううん。今大事なのは、私じゃなくて九重くんだよね。

 こんなの書かれて、大丈夫かな?


「このダンス動画は特に人気だったけど、一番叩かれたのもこいつだった」

「うん……」

「でもな、言ってることは間違いじゃないんだ。俺達のダンスが大したことないってのは本当だ。だから余計に悔しい」


 淡々とした口調で言ってるけど、手は固く握られ、微かに震えてた。

 やっぱり、平気なわけないよね。


「だからよ、俺も、他のスートのメンバーも、このままで終わりたくないんだ。もっとうまくなってやる」


 そう言った九重くんの目は、とても力強く感じた。


(凄いな)


 書き込まれた悪いコメントは、ほんの一部。けど私だったら、落ち込んで、もうやりたくないって思ってたかも。


 なのに九重くんは、悔しさをバネにして頑張ろうとしている。

 私には、それがとても眩しく見えた。

 だからかな。つい、言ってしまった。


「だから、オレに教えてほしいの?」


 断りたいなら、わざわざこんなこと言わずに、嫌だって言えばいい。

 なのに、聞かずにはいられなかった。


「ああ。技術的なこともあるし、何より俺達と同じ歳でこれだけうまいやつがいるってのは、やる気になる。ダメか?」

「それは……」


 どうしよう。そんなことしたら、いつか男装してるのがバレるかもしれない。

 だけどね、話を聞いているうちに、しだいに、九重くんを応援したいって気持ちが湧いてきた。


「ほ、他のスートの人達からも、話を聞くことってできる?」

「会ってくれるのか!」


 とたんに、九重くんの顔がパッと明るくなる。

 まだ会うだけで、どうするかなんてわからない。

 それでも、こんなことを言った時点で、私の中で何かが変わり始めていたのかもしれない。



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