第9話 私のファン!?
「えっと……オレがマスクダンサーだって、信じてくれた?」
「ああ。試すみたいなことして悪かった」
信じてもらえたのはいいけど、頭まで下げるもんだから、慌てちゃう。
「べ、別に謝らなくていいから」
「いや。実はダンスが見たいって言ったのは、半分は俺のワガママみたいなもんなんだ。俺、アンタのファンだから」
「へっ?」
一瞬、九重くんが何を言ってるのかわからなかった。
ファンって、九重くんが、マスクダンサーの?
その意味を理解した時、出てきたのは絶叫だった。
「えっ? えっ? えぇぇぇぇぇっ!」
耳を塞ぐ九重くん。
脅かしてゴメンね。けどこんなの、叫ばないなんて無理だよ!
「な、なんで、九重くんが私…… じゃない。オレなんかを? 九重くん、スートだよね」
スートとマスクダンサーじゃ、配信者としてのランクが天と地くらい離れてる。
そんなスートのメンバーの九重くんがマスクダンサーのファンなんて、嘘でしょ?
「そうだな。とりあえず、これ見てくれないか?」
九重くんはそう言うと、ポケットからスマホを取り出し、ひとつの動画を見せてきた。
それは、スートのメンバー全員が、ダンスを踊っている動画。少し前にアップされたやつで、私も見たことがあった。
スートのメンバーは一人でもかっこいいけど、四人全員が揃って動きを合わせる姿は、まさに圧巻。
まるで本物のアイドルみたいに、凄くキラキラしていた。
「やっぱりスートって凄い」
動画を見終わった後も余韻に浸っていたけど、そんな私を見て、九重くんは言う。
「何言ってる。お前だって凄いだろ」
「えっ? どこが?」
「ダンスだよ、ダンス。俺達とお前じゃ、お前の方が断然うまい。そんなの、わからないわけないだろ」
「う、うん……」
それは、正直なところ、私も思ってた。
実はスートのみんなは、ダンスそのものは特別うまいってわけじゃない。多分、技術は私の方が上。
でも、だからって大したことないとか、そういうわけじゃないから。
「ダンスってのは、技術だけで決まるものじゃないよ。キラキラしてて、見てる人を惹き付けられるかって方が大事だと思う」
アイドルでも、歌やダンスは下手なのに人気がある人はたくさんいる。
うまさ以上に、誰かを夢中にさせる力。そういうのを、オーラって言うのかな?
スートには、そんなオーラがあるんだよ。
なのに九重くんは、大きく首を横に振る。
「技術だって、十分大事だろ。少なくとも俺は、さっきの動画撮った後、自分のこと下手だって思った。研究するため、色んな奴のダンス動画を見た。で、お前の動画を見つけたんだよ。コメントもしてるぞ」
「えっ、そうなの!?」
少し前にもらったコメントを思い出す。
もしかして、あれを書いたのって九重くん?
「顔は隠れてたけど、身長から、俺と同い年か年下だって思った。それなのにこれだけ踊れて、すげえなって思ったんだよ」
「あ、ありがとう」
どうしよう。自分のダンスをみてそんな風に思ってくれたなんて、凄く嬉しい。
だけど、九重くんの話は、それだけじゃ終わらなかった。
「で、いくつかお前の動画を見ているうちに、気づいたんだ。背景に映ってる建物、これってこの街にあるやつじゃないかって」
「えっ?」
言われて、自分の動画を見返してみる。
するとはるか遠くの背景に、特徴的な建物がうっすらと映ってた。
「もしかして、あの時九重くんがここに来たのって……」
「俺も、まさかって思ったよ。けど、会いに行ける距離にいるかもしれないって思ったら気になって、それっぽいところ片っ端から探したんだ」
なんて行動力。だけど納得した。
九重くんがここに来たのも、マスクダンサーを知ってたのも、偶然じゃなかったんだ。
「そうまでして会いたいって思ってくれて、ありがとう」
おかげで、嘘ついたり男装したりすることになったけど、私のためにそこまでしてくれたっていうのは、やっぱり嬉しい。
「それでよ。図々しいってのはわかってるけど、ひとつ頼みがあるんだ。聞いてくれないか?」
「なに?」
もしかして、他のダンスも見たいとか?
人前で踊るのはやっぱり恥ずかしいけど、それなら全然構わない。
そう思ったけど、次に九重くんが言ったのは、そんなものじゃなかった。
「俺に、俺達スートに、ダンスを教えてほしいんだ」
…………はい?
こ、九重くん。いったい、何を言っているの!?
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