第15話 恭弥side 抱いた疑惑

「お、お邪魔します」


 学校が終わって、放課後。俺達スートがいつもの通り瞬の家に集まった後、少し遅れて奈津がやってくる。


「遅くなってごめん」

「いいって。って言うか、一人だけ学校も住んでる街も違うし、時間かかるよな」

「だから、学校に車で迎えをやろうかって言っただろ」

「む、迎えは遠慮しておく」


 瞬の提案を断る奈津。俺達は慣れたけど、学校に高級車で迎えにこられたらビビるか。


 それから、全員で練習開始。

 昨日と同じく基礎練習がほとんどだけど、今日は少しだけ、曲に合わせた動きをやってみた。


 まだ全然うまくはないけど、この前あげた動画でも踊ったやつだ。大きな失敗をすることはない。

 はずなんだが、今日の俺はミスが多かった。覚えてるはずの振り付けで、何度も失敗している。


「もしかして、オレの教え方が悪かった?」


 奈津が不安そうな顔をするけど、それは違う。


「恭弥以外はちゃんとできてるから、それはないでしょ」

「単にコイツが振り付け忘れてただけだな」


 うるせえな。

 って言うか、原因はだいたいわかってる。今日あったことが気になって、集中できてない。それだけだ。


「奈津。ちょっといいか?」

「なに?」


 練習が一段落ついたところで、奈津に声をかける。この話をするなら、こいつ以外にいない。


「お前の従姉妹の、奥村亜希。あいつが前髪伸ばしてるのって、何か理由あるのか?」

「えっ?」

「今日、あいつの前髪どかしたら、声をあげられたんだよ。もしかして、悪いことしたかも」


 本人はびっくりしただけだと言っていたけど、どうにも気になった。

 もし本気で嫌がってたなら、明日もう一度謝った方がいいかもしれない。


「と、特に深い理由はなかったと思うから。恭弥イケメンだから、いきなり触られて驚いただけだと思う」

「そうか?」

「そう。だから、恭弥が気にすることなんてなよ! 絶対、大丈夫だから!」


 必死になって大丈夫と言う奈津。

 そこまで言うと逆に何かあるんじゃないかと疑いたくなるが、とりあえず素直に受け取っておこう。


「それならいいんだけどな。って言うか、サラッと人をイケメンとか言うな。恥ずいだろ」

「ご、ごめん!」


 だいたい、イケメンっていうなら奈津だってけっこうなものだ。

 けど見た目をどうこう言うなら、それ以上に気になるやつがいる。


「それはそうと、奥村ってめちゃめちゃ可愛くないか?」

「…………えっ?」


 俺の言葉に、奈津は信じられないって感じで固まる。

 嘘だろ? 俺にはその反応の方が信じられないぞ。

 練習中、俺が集中できなかった最大の原因がこれだったんだんだぞ。


「前髪どかした時チラッと顔を見たけど、びっくりするくらい可愛かったぞ。お前、従兄弟なんだし知らないわけないだろ。前髪で顔隠してるの、もったいないと思うんだけどな」

「そ、そんなことないよ!」


 声を張り上げ、俺の言葉を遮る奈津。

 しかも、なぜか顔を赤く染めながら、凄い勢いでまくし立ててくる。


「か、可愛いなんてことない! 地味だし、華がないし、それに、その、ブスだし……」

「おい。ちょっと待て!」


 一瞬、勢いに圧倒されそうになるが、今度は逆に、俺が奈津の言葉を止めた。

 いくらなんでも、今のは黙ってられない。


「お前、言っていいことと悪いことがあるだろ。そういうの、言われた方は傷つくかもしれないだろ」


 悪口や陰口ってやつは、言う側は軽い気持ちでも、言われた方はすごく傷つくことだってある。

 そういうのは身をもって知ってるから、今みたいなのを聞くと、どうにも我慢できなかった。


「ご、ごめん」


 とたんに、シュンとして肩を落とす奈津。

 しまった、言い過ぎたか?


「ま、まあ、お前にとっては身内だし、つい言い方がきつくなることもあるかもしれないな。けど、少しは気をつけたほうがいいんじゃないか?」

「うん。そうだね」


 俺だって、そこまで強く責めようとは思わない。

 やんわりと注意すると、奈津も小さく頷いた。


 けど、あんなにハッキリ可愛くないとか言うとは思わなかったな。

 奈津とはまだ知り合ったばかりだけど、そんなこと言う奴には見えないし、だいいち奥村はどう見たって可愛いだろ。

 従姉妹ってことは小さい頃から見慣れてるだろうから、感覚がずれてるのか?


「…………ん?」


 なんだろう。奥村を思い浮かべながら奈津の顔を見ると、何か引っかかった。

 それが何なのか気になって、ますます奈津の顔を覗き込む。


「あ、あの、恭弥……?」

「あっ、悪い」


 戸惑う奈津を見て我に返るけど、その時気づく。

 奥村と奈津。二人とも、凄くよく似てるんだ。

 そりゃ親戚なんだから、ある程度似てたって不思議じゃない。けど双子じゃあるまいし、奈津は男で奥村は女。ここまで似ることってあるか?

 不思議に思っていると、怜央が声をかけてきた。


「二人でなに話してるの?」

「別に、こいつの従姉妹の話をしてただけだ」

「それって、最初恭弥にスピーカー返してって言ってきた人だよね。奈津とは似てるの?」


 びっくりするくらい似てる。

 そう言おうとしたけど、俺より先に奈津が言う。


「に、似てない。全然、全く、これっぽっちも似てないから!」


 何言ってるんだ。そんなわけないだろ。

 さっきから奈津の言ってることがおかしくて、わけがわからなくなる。

 お前が女装したら、奥村と見分けがつかなくなるくらい似てるだろ!


「待てよ。まさか……」


 その時、ある考えが浮かんだ。

 それは、とてもめちゃくちゃで、バカバカしいもの。なのに、なぜかすぐには否定できなかった。

 奈津と亜希。この二人、実は同一人物なんじゃないのか?

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