第29話 一緒にいる資格
お祭りで賑わう会場。大勢の人が笑っている中、私だけが沈んでいる気がした。
みんなと一緒に踊る資格なんてない。コンテストには、私抜きで出て。
あんなこと言って、九重くんは、それに他のみんなは、どう思うかな?
怒る? 軽蔑する?
だけど、やっぱり無理。
ダンスを教えてって頼まれて、一緒に踊ってみたいって言われて、私でもできるかもって気になっていた。
長嶺さんと会って、やっぱり無理なんだって思い知らされた。
だって、昔のことを思い出したとたん、こんなにも、体の芯から震えてくるんだ。
こんなので、踊れるわけがない。
本当は、お祭り会場からも立ち去りたかったけど、スートのみんなはどうなるだろうって思ったら、気になってそれもできなかった。
自分から逃げ出したのに、こんなの変だよね。
スマホには、何度も九重くんからのメッセージが届いたけど、どれも見れていなかった。
「亜希!」
突然、後ろから私を呼ぶ声が聞こえる。
振り返ると、そこには麗ちゃんが息を切らせて立っていた。
「麗ちゃん……」
「探したよ、亜希。あっ、今は奈津だっけ」
ごめんごめんと謝る麗ちゃん。だけどその声は、どこか張り詰めていた。
だから、わかったんだ。
何が起きたか、麗ちゃんは全部知ってるんだって
どうすればいいかわからなくなって、また逃げようとする。
だけどそれより早く、麗ちゃんの手が私を掴んだ。
「待って! 逃げなくても大丈夫だから!」
振りほどくわけにもいかなくて、仕方なくそのまま大人しくなる。
だけど麗ちゃんを見てると、どんどん申し訳ない気持ちが広がっていく。
「ごめん。私、また逃げちゃった」
ダンス教室をやめた時、それでも麗ちゃんは、私のダンスは凄いんだよって言って、動画の配信を勧めてくれた。
スートのみんなにダンスを教えることになった時も、一緒に踊ることになった時も、誰よりも喜んでくれた。今日のステージを、とても楽しみにしてくれた。
なのに、それを見せるとこができなくなった。
「いいんだよ、無理しなくて。でも、話くらい聞いてほしいな。私じゃなくて、スートのみんなの」
「えっ……?」
麗ちゃんが、スマホを取り出し画面を見せる。
そこにはメッセージアプリを使った、動画通話の通知が届いていた。
送ってきたのは、九重くんだ。
「奈津のスマホに送っても見てくれないから、私が奈津を見つけて見せてくれって言われちゃった」
そんなことまでしてたんだ。
麗ちゃんが通話開始のボタンを押すと、画面に九重くんが映る。
場所はステージそばの控え室で、他の参加者からは少し離れた場所にいるみたい。
そしてその後ろには、他のスートのメンバーも立っていた。
「奈津。今から配信始めるけど、俺達の声、聞こえてるか?」
「は、配信?」
突然出てきた意外な言葉に、思わず聞き返す。
スートといえば動画配信。だけど今は、あまりに場違いな気がした。
「配信って言っても、奈津一人に向けてだけどな。コメントはいつでも受け付けるぞ」
「ちょっと待って! みんな、出番もうすぐなんでしょ!?」
逃げ出した私が言えたことじゃないけど、こんなことしてる場合じゃないんじゃないの?
「いいんだよ。今はお前と話がしたい。これが、俺達全員がやりたいことなんだから」
九重くんがそう言うと、今度は五十嵐先輩が、変われと言って前に出る。
「コンテストにはちゃんと出るから心配するな。それにお前も、踊るのが嫌になったなら、無理しなくていい。嫌な思いまでしてやる必要はないんだ」
まただ。
五十嵐先輩はいつも、私の気持ちをしっかり聞いてくれた。無理してないか、いつも気づかってくれた。
だけど、今回は、それだけじゃ終わらなかった。
「けど、ひとつだけ言っておく。俺達と一緒にいる資格がないなんて、そんなこと絶対にないからな」
「えっ……」
それは、私が逃げた後、九重くんに電話で伝えた言葉だ。
だってそうでしょ。私なんかが一緒にいていいわけがないもの。
「でも私、踊るのが怖くなって、逃げ出して、みんなに迷惑かけてる。だから……」
いくら五十嵐先輩に言われても、こればかりは頷けないよ。
今、みんなに迷惑をかけてるからってだけじゃない。
スートが初めてあげた、ダンス動画。
それに寄せられたコメントの中には、下手だの顔だけだの、酷いこともたくさん書かれてた。
なのにみんなは、そこからもっとうまくなろうと頑張っていた。悪い言葉に負けるどころか、それをバネにしてもっと上を目指そうとした。
私は、そんなスートのみんなを、本当に凄いと思う。
だからこそ、悪口を言われて逃げ出すような私は、やっぱりそばにいる資格なんてない。
すると今度は、五十嵐先輩を押しのけて、日比野くんが出てくる。
「奈津。何か勘違いしてない? 僕達はプロのダンサーでもアイドルでもない。仲のいいヤツらが集まった、アマチュアの動画配信者だよ。そんなのと一緒にいるのに、資格なんてあるわけないじゃないか!」
叫ぶように言う日比野くん。
それは怒っているようにも、そして、どこか切なそうにも聞こえた。
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