第28話 恭弥side 俺達のやること

「恭弥。奈津は一緒じゃないのか?」


 ステージ側にある控え室に着いた時、瞬や他のみんなは既に揃っていた。

 あとは奈津が来て、全員で出番を待つだけ。そう思っているだろう。


「みんな聞いてくれ。大事な話がある」


 そう言うと、いつもの冗談や軽口じゃないって、なんとなくわかってくれたんだろう。みんな、どうしたんだって顔で俺を見る。


 そして言う。奈津のことを。さっき何があったのかを。


「……ちょっと待って。情報量が多すぎるんだけど」


 全部話して、真っ先にそう言ったのは拓真だ。

 けど、混乱してるのはみんな同じ。

 怜央も声をあげる。


「つまり奈津は女の子で恭弥はそれを知ってたの?」

「そうなるけど、今話したいのはそれじゃない。とりあえずそこは受け入れてくれ」

「無茶だよ!」


 俺だって奈津が女だって気づいた時はめちゃめちゃ混乱したから、気持ちはよくわかる。

 だけど今は、そこに時間をとられてる場合じゃないんだよ。


「確かに。今大事なのは、奈津が大丈夫かどうかだな」

「瞬!」

「言っておくが、俺だって混乱してるんだからな。色々隠してたこと、後でしっかり問い詰めさせてもらうぞ」

「ああ」


 瞬がこう言ってくれたことで、拓真や怜央も頭を切り替えたらしい。これでようやく本題に入れる。

 だが、それで話が進むかといえば別問題だ。


「とりあえず、奈津に連絡してみるか?」

「でも恭弥は話の途中で電話を切られて、それから繋がらないんだよね? それって、話したくないってことなのかも。」


怜央の言ってること、悔しいがその通りだと思う。


「その気持ち、ちょっとわかる。本当に落ち込んだり苦しんだりしてる時って、誰にも見られたくないって思うことあるから」


 拓真が、切ない顔で目を伏せる。

 それに、例え電話に出てくれたとしても、今の奈津に何て言えばいいのかわからない。

 みんなもどうすればいいか悩むけど、良い案なんて出てこなくて、だんだんと、沈んだ雰囲気になっていく。

 そんな中、瞬がポツリと言った。


「奈津が出られないなら、俺達だけでコンテストに出ることになる。そっちを話し合った方がいいかもな」

「なっ!?」


 嘘だろ。

 こんな時に、なんでこんなこと言うんだよ!


「おい! 奈津よりコンテストの心配かよ!」

「仕方ないだろ。コンテストを投げ出すわけにはいかないし、時間ももうあまりない」

「けどよ!」


 瞬の言うこともわかる。

 俺達が話している間にコンテストは始まり、最初の出場者がステージに呼ばれていた。

 俺達の出番だって近づいてきてる。

 奈津抜きでどうするか、今すぐ考えなきゃいけないのかもしれない。

 けどそれでも、奈津を切り捨てるみたいで嫌だった。


「俺達が失敗したら、一番後悔するのは奈津かもしれないぞ」


 これには、声をあげることもできずに押し黙る。

 それは、確かにその通りかもしれない。

 すると今度は、怜央が口を開いた。


「奈津ってさ、僕達がうまくなる度に、僕達以上に喜んでくれたじゃない。なのにせっかくの舞台で失敗したって知ったら、きっと悲しむし、自分を責めるかもしれない」


 奈津が悲しむ。

 そう言われると、反論なんてできない。

 コンテストをどうするか。そっちを先に考えた方が、奈津のためにもなるんじゃないか。

 けどそうは思っても、心の底から納得なんてできなかった。

 だがそこで怜央は、さらに言葉を続けた。


「それでも僕は、まずは奈津と話したい。コンテストより、今そっちを考えたい」


 ハッと息を飲んだところで、それを引き継ぐように拓真が言う。


「俺も。さっきは、そっとしておいた方がいいかもって言ったけど、やっぱり、今すぐ奈津と話したいよ。こんな時、何もできないなんて嫌だから」


 俺達の出番は確実に近づいてきてるし、今から奈津と連絡をとっていたら、ダンスをどうするか話し合う時間なんてなくなるかもしれない。

 それでも、怜央も拓真も、ハッキリ言ってくれた。


「お前達、本気か? 元々、俺達スートは四人でやってきた。もしこのまま奈津が来なかったとしても、元に戻るだけだ。それでも、ダンスより奈津を優先する気か?」


 瞬の言葉は、聞きようによっては、実に酷いもの。

 けれど気づく。どうしてわざわざこんな言い方をしているのかに。


「瞬。お前、俺達を焚きつけるために、わざと嫌な言い方しただろ」


 最初は、何を言い出すんだって驚いた。だけど瞬は、苦しい思いをしている誰かを、切り捨てるようなことはしない。


「さあな。お前達全員、奈津よりコンテストを優先しようとしたら、その通りになっていたかもしれないぞ」

「そんなことにはならないって、わかってただろ」


 昔奈津がぶつけられていた、悪意や陰口。今も残る心の傷。

 そんなの聞いて、俺達が方っておけるわけがない。


「恭弥。もう一度、奈津に電話をかけてくれ。それでダメなら、麗って子にも連絡するんだ」

「ああ。ちょっと待ってろ」


 スマホを操作し始めると、拓真も怜央も、覗き込むようにそれを見る。


 奈津に連絡できたとしても、何を話せばいいかなんて、まだわからない。

 それでも、まずは話をしたい。

 俺だけじゃなく、俺達スート全員が同じ気持ちなら、何とかできるような気がした。

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