第27話 恭弥side 事情を知る時
内藤と会った俺は、奈津に何があったかを話す。
長嶺ってやつのこと。奈津と亜希が同一人物だってバラされたこと。そして奈津が泣きそうな声で、俺達と一緒に踊る資格なんてないって言ったこと。
全部を話した。
「じゃあ九重くん、奈津が男装した亜希だって知ってたの!?」
「ああ。けど、今大事なのはそこじゃない。あいつ、ダンスから逃げ出したって言ってたけど、何があったんだよ」
俺達と一緒にいる資格がどうこう言ってたのもそれが原因っぽいけど、なんのことだかさっぱりわからない。
内藤なら、何か知っているのか。そう思って彼女を見ると、手を固く握りながら、怒りに震えていた。
「私も、直接知ってるわけじゃない。亜希の通ってたダンス教室には、行ったことなかったから。でも何があったかは聞いた」
そうして内藤は、話してくれた。
奈津。いや亜希がダンス教室で長嶺達に何をされていたのかを。
キモイとかブスとか、そんな言葉を囁かれ、踊る度にバカにされていたことを。
「なんだよそれ。それで、どうしてあいつがダンスやめなきゃなんねえんだよ!」
内藤が怒っていた理由がよくわかった。
俺だって、腹の底から怒りと嫌な気持ちが込み上げてくる。
「そいつら、亜希に嫉妬して潰そうとしてただけじゃないのか」
「私もそう思う。キモイとかブスとか全部デタラメで、攻撃できたらなんでもよかったんだよ。けど嫉妬でもなんでも、亜希は傷ついたし、自信を無くしちゃった。ダンスも、それ以外にも」
あいつが、事ある毎に自分なんかって言ってたのを思いだす。
なんでそこまでってずっと不思議に思ってたけど、その理由がわかったような気がした。
「私は、それでも亜希にダンスを続けてほしかった。亜希、ダンス大好きだし、本当は凄いんだってわかってほしかった。だから、顔隠しての動画配信やらないかって誘ったの」
マスクダンサーなんてやってたのは、そういう理由だったのか。
それから、わざわざ男装して奈津になった理由も聞いた。
辛い目にあってダンス教室を辞めたあいつが、ダンスを教えてくれって頼まれた時、いったい、どんな気持ちだったんだろうな。
けど、奈津はそれを引き受けてくれた。それどころか、今日なんて俺達と一緒にステージで踊るつもりでいた。
ダンスから逃げたなんて言ってたけど、昔よりは確実に前向きになってきてたんだと思う。
ついさっき、長嶺と会うまでは。
「昔のこと思い出して、踊るのが怖くなったのかよ」
「多分、そうだと思う」
ダンスを辞めた原因と出会ったんだ。心の傷が開いたって不思議じゃない。
コンテストに出たくないって言うのも、無理のないことなのかもしれない。
その時、会場に設置されているスピーカーから、声が響く。
『間もなく、ダンスコンテストを開始します。出場される方は、ステージにお集まりください』
もう行かなきゃならない。
けど、奈津はどうする? このままだと、とても来てくれるとは思えなかった。
内藤が、不安そうな顔で俺を見る。
「ど、どうしよう……」
不安なのは、もちろん俺も同じだ。このまま奈津が来なかったら、どうすればいい?
だけど、そんな気持ちを必死で沈める。
きっと、一番不安なのは俺達じゃない。
「内藤。お前は、奈津を探してくれないか。俺はこれからステージに行って、他の奴らに何があったか話してくる」
「それって、亜希の昔の話とか、コンテストに出ないって言ったこととかだよね?」
内藤の顔に、ますます不安が拡がっていく。
この話をみんなが聞いてどう思うか、心配しているんだろう。
俺だってこんな話、言わなくてすむなら、その方がいいと思う。
だけど、みんなに何の説明もしないわけにはいかなかった。
「大丈夫だ。アイツらは、何を聞いたって、奈津のことを嫌ったり悪く言ったりはしねえよ。信じてくれ」
内藤も、本気で奈津のことを心配している。
だからこそ、ここは俺を、俺達を信じてほしかった。
「……うん。私は亜希を探すから、そっちはお願い」
「ああ、任せろ」
これで、やることは決まった。
俺はみんなのところに行くために、内藤は奈津を探すために、俺達はそれぞれ駆け出して行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます