第19話 思わぬ反響

 私が出演した、スートの動画。そのコメント欄には、こんな文字が踊っていた。


『今回出てきた男の子、スートのみんなに負けないくらいカッコよくない?』

『ホントだ! 美少年!』

『誰!? スートに新メンバーとして加入しないかな』


 な、なにこれ!?

 ただ怖がってるだけなのに、どうしてこんな反応になるの?

 そりゃ奈津になった時はちょっとかっこいいかもって思ったけど、いくらなんでも言いすぎだよ!

 しかも、そんなコメントを最初に書いたのは麗ちゃんだった。


「どうしてこんなこと書いたの!?」

「だって亜希の、じゃない、奈津のカッコよさをみんなに教えたかったんだもん。私が何もしなくても、どのみち同じことになったんじゃないの?」


 まさかって思ったけど、この反応を見ると、違うとは言いきれないかも。

 しかもこの動画。スートの動画の中でも、かなり反響が大きなものになってたの。

 それを思い知ったのは、次の日学校に行った時だった。


 教室に入ると、クラスのあちこちで、「あの子見た?」「美少年だったね」と、みんなが奈津のことを話してた。


「な、なんでこんなことに。メンバー以外ががスートの動画に出たこと、今までにもあったのに」

「そもそもスートが人気の理由は、イケメン集団ってことだからね。そこに新しいイケメンが現れたら、みんな注目するんじゃないの。メンバーとの絡みも、見ていて面白かったし」


 麗ちゃんはそう分析するけど、とても信じられないよ。

 そして九重くんが登校してくると、騒ぎはますます大きくなる。


「ねえ、あの子いったい誰なの?」

「うちの学校にはいないよね。どういう知り合い?」

「怖がらせるなって怒るところ、よかったよ!」


 みんなが九重君に何人も次々に声をかける。

 私はそれを、ちょっと離れた所から聞いていた。


「あいつは奈津って言って、隣街に住んでるんだよ。色々あって、俺達全員、ダンスを教えてもらってるんだ」

「ダンスって、この前あげてたやつ? あの子、ダンス得意なの?」

「ああ。俺達よりもずっとな。俺達も練習してるから、上手くなったらまた配信するよ」


 奈津を紹介するだけじゃなく、さりげなくこれからの活動を宣伝する九重くん。

 すると、それを聞いた一人がこんなことを言ってきた。


「またダンスやるの? だったらさ、今度お祭りである、ダンスコンテストに出てみない?」


 それを聞いて思い出す。

 うちの街ではもう少ししたら大きなお祭りがあるんだけど、そこでやるイベントの中に、ダンスコンテストがあるの。

 受付さえすれば誰でも参加できて、会場に作られた大きなステージの上で踊れるっていう、人気イベントだ。

 スートといえば動画配信だけど、踊るところを誰かに撮影してもらって、それを配信すればいい。


「いいな。他の奴らにも話してみるか」


 九重くんも乗り気みたいだし、私も、大きなステージで踊るスートのみんなを見てみたかった。

 だけどその時、誰かが思いがけないことを言い出した。


「それじゃ、奈津くんって子もダンスコンテストに出るの?」

「えっ?」


 これには、九重くんもすぐには返事ができずに固まる。

 固まったのは、私も同じ。ダンスコンテストに出るって、私が?


「それは、本人に聞いてみないとわからないな」

「でも、凄くダンスうまいんでしょ。だったら見てみたいな」

「まあ、そうだな……」


 奈津が人前でダンスをするのは嫌だってこと、九重くんも知ってるから、なんて言おうか困ってる。

 さらに、話はそれだけじゃ終わらなかった。


「スートのみんなにダンス教えてるんでしょ。だったら、みんなで一緒に踊ればいいのに」


 えぇぇっ!?

 い、一緒に踊るって、私がスートのみんなと? 同じステージの上で!?

 九重くんはまた曖昧に言葉を濁すけど、それからチラリと私の方を見る。

 もしかして、奈津に連絡してくれって言いたいのかな?

 でも、私がスートと一緒に同じステージで踊るなんて、いくらなんでもそんなことあるわけないよね?

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