第20話 みんなと一緒に踊りたい
その日、いつものように五十嵐先輩の家に集まった私達。
普段なら早速ダンスの練習をはじめるところだけど、今日は今日は違ったの。
「昨日の動画、思った以上に反響が大きかったが、奈津は平気か? 騒ぎになるのが嫌なら今からでも非公開にするが、どうする?」
真っ先にそう言ってくれる五十嵐先輩。
そういえば五十嵐先輩は、私がダンス教えてって頼まれた時も、この動画を公開するか決める時も、無理はしなくていいって言ってくれたっけ。
「大丈夫。驚いたけど、嫌ってわけじゃないから」
たくさんの人に注文されて恥ずかしくはあったけど、実は心の余裕はある。
だって、注目されてるのは亜希じゃなくて奈津だもん。
そう思うと、ある程度気が楽になってくる。
だけど、問題はこれから。
「それより、その、今度あるお祭りで、オレがみんなと一緒に踊るって話が出ているんだけど……」
「ああ。知ってるよ。動画のコメント欄にも、そんな書き込みが増えてきた」
「そうなんだ……」
想像以上に反響が大きくて、自分のことを言われてるはずなのに、全然実感がない。
だけど、無理だよね。
「なんか、騒ぎになってごめんね。みんなのダンスにオレが混じるなんて、そんなの無茶なのに」
昨日のちょっとしたゲーム配信に出るならともかく、お祭りのステージで踊るなら、スートの動画企画の中でもけっこうな大舞台、
そこに私が混じるなんてありえない。
そう思ったけど、それを聞いたみんなは、一斉に怪訝な顔をした。
「いや、それは別に無茶じゃないよ」
「僕達よりうまいんだし、むしろ一緒にいてくれたら心強いんだけど」
えっ? みんな、そんな風に思ってたの?
「でも、元々はスートのみんなのダンスでしょ。オレは、教えてるだけだから」
「まあ、最初はそうだったんだけどな。けど、そんなのやってるうちに変わっていくもんだろ。少なくとも、俺はお前に教わるだけでなく、一緒に踊ってみるのも面白いと思う」
「そ、そうなの?」
どうしよう。
そんな風に言ってもらえること、凄く嬉しい。
学校で、みんなが私のダンスを見たいって騒いだ時もそうだった。
実はあの時も、ちょっとだけドキドキしていた。ダンスを見たいって言ってもらえて、嬉しかった。
なのに次に出てきたのは、弱気な言葉だった。
「でも、オレなんかが、みんなと一緒に踊っていいのかな?」
みんながいくら一緒にやりたいって言ってくれても、どうしても不安になる。
昔言われた言葉が、頭の中に響くんだ。
『奥村のダンスって、キモイよね』
『動きのキレはあるけどさ、そもそも顔がブスじゃん。あれじゃどんなに頑張ったってカッコよくはならないよ』
『言えてる。むしろ、ブスが必死になってるなって笑える』
それは、まだ私が楽しくやっていた時に言われた言葉。
それを思い出したとたん、さっきまでワクワクしていた気持ちが、急に沈んでいく。
やっぱり私には無理。そう言おうとしたけど、その前に九重くんが、少し怒ったように言う。
「オレなんかって言うな。前にも同じこと言ったよな」
「あっ……ご、ごめん」
そうだった。
約束したはずなのに、つい忘れてしまってた。
そしたら今度は、五十嵐先輩が言う。
「そう、難しく考える必要はないんじゃないか。俺達みんな、奈津と一緒に踊りたいって思ってる。なら後は、奈津がやりたいかどうかじゃないか?」
そうなのかな?
正直、怖いって思いは、今もあるの。
人前で全力でダンスして、また昔みたいなことを言われたらって思うと、体が震えてくる。
だけど……
「やろうよ奈津。奈津と一緒にステージ立ちたいよ」
「こら、怜央。無理に誘わない。まあ俺もできれば、奈津には一緒に踊ってほしいけど」
今の私は、キモイって言われた亜希じゃなくて、奈津。
そして何より、一緒に踊りたいって言ってくれる、スートのみんながいる。
「お、オレは……」
大勢の人の前で踊るなんて、絶対無理。そう思ってた。
だけど、亜希じゃなくて奈津なら、スートのみんなと一緒なら、勇気が出せるような気がした。
「オレも、みんなと一緒に踊りたい。同じステージに立って、ダンスしたい」
ハッキリ告げた、自分の気持ち。
するとそれを聞いたみんなが、パッと笑顔になる。
「決まりだな! 今さら嫌だってのはなしだぞ」
「コンテストには五人で出場だね。ありがとう奈津!」
一緒に踊るって言って、みんなが喜んでくれる。
それだけで、胸の奥から熱いものが込み上げて来る気がした。
お礼を言うのは私の方だよ。
不思議だね。
少し前の私なら、やりたいなんて絶対に言えなかったのに。
奈津になって、スートのみんなと一緒にいて、今までの自分から、少しずつ変わっていってる。
その変化が、なんだかとても嬉しかった。
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