第27話
翌日、昼前になってからアッシュはようやく牢屋から出ることができた。
といっても、解放されたわけでは全くなく、人質として両手を縛られた状態で屋敷まで連れていかれるのだ。
「ほら、キビキビと歩け!」
「へいへい、……痛ってえな、蹴るんじゃねよ!」
すでに街から屋敷までの距離の半分ほどの距離を歩いていた。アッシュの体は前日の暴行によりボロボロだったが、ナルシスが連れてきたのが一小隊ほどだったおかげでなんとかついていけている状態だ。
ちなみにアッシュは結局、屋敷の場所を話さなかったが、どうやらアリシアのことを王都へ密告した人間が屋敷の大体の場所を伝えていたようで、ナルシスを先頭に小隊はずんずんと森の方へと進んでいた。
「なんだよ、この森は……」
ナルシスがそうつぶやいたのも無理はない。初めてあの森を見たときはアッシュ自身も同じ感想を持ったからだ。
先頭のナルシスが止まったため、小隊の歩みも当然止まる。兵士たち全員が森の様相に恐れを感じているためか、先を急かす者はいなかった。
「おい!そこのお前、今からお前が先頭だ。見ての通り、ここから先は危険だ。気を付けて歩けよ」
近くにいた一人の兵士をナルシスが捕まえ、無理やり先頭に連れて行った。連れていかれた兵士は終始嫌そうな表情を浮かべていたが、隊長であろうナルシスの命令に逆らえるはずもなく、ゆっくりと恐る恐る森の中を進み始めた。
先頭から逃げたナルシスは森を進んでいく行軍をさかのぼり、アッシュの横まで来ると体を反転させ、今度は流れに合わせて歩き始めた。
臆病者のナルシスは魔女の住むという森の中で一番危険が少ないであろう行軍の中央に向かい、そこにたまたま逃げ出さないように中央に配置されていたアッシュがいたというわけなのだが、ナルシスとしてはそれはそれで僥倖だった。
「よお、ミハエル。お前、こんなところにいたのか。ちょうどいいから、話し相手になってやるよ」
「……けっ!そうかよ」
アッシュを見つけたナルシスは上機嫌に話しかけていたが、アッシュはその様子がひどく気分が悪かった。先日のアッシュの頭突きで負った傷の治療跡がナルシスの鼻にあったのも気分の悪さに拍車をかけていた。
そんなアッシュのことなど気にせずにナルシスは一人でしゃべり始めた。
「今回の魔女狩りはな、お前のパパ上が直々に俺を隊長として任命してくれたんだよ。この小隊も俺が自分で選んで編成した精鋭ぞろいなんだ。どうだ、すごいだろう」
ナルシスの自慢話をアッシュは適当に聞き流していた。
そもそも興味もなかったし、本当に自分の父がナルシスなどを隊長に任命したとは全く思っていなかった。それくらいナルシスの実力は隊長という役職には見合わないものだった。彼が精鋭というこの小隊だって、装備はそこそこいいが練度は低く、精鋭というにはあまりにお粗末だった。おそらくナルシスが自分のいうことを聞く兵士ばかり集めたのだろうとアッシュは予想した。
その予想はおおよそ合っており、隊長になったのはナルシスが自ら立候補したからであったし、小隊の編成についても自身が扱える程度の実力の兵士しか集めていなかった。
「俺はこんなエリート街道まっしぐらに進んでいるのに、お前はみじめだな。家から逃げ出さなければ、今頃出世できていただろうに」
「————お前にはわかんねえだろうよ。俺がどうして家を出たかなんてな」
アッシュの突き放した物言いに、察しの悪いナルシスもさすがにアッシュに会話する気がないということがわかったようでそれからは話しかけるようなことはしなかった。
「隊長!魔女の屋敷が見えました!」
先頭の方を歩いていた兵士がナルシスのところまで来ると、そう報告をした。
ナルシスはその言葉を待っていたと言わんばかりに獰猛な笑みを浮かべると、
「————さあ、魔女狩りだ!」
と宣言した。
それをアッシュは死んだ目で見つめていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます