After:第3話
「まさか、それは魔水晶!?」
ステラが取り出した紫色の水晶を見たアリシアは驚愕の声をあげた。
(ますいしょう?……魔水晶ってなんだ?)
それに対して、アッシュは見ても聞いても、ステラが取り出したものがなんなのか全然わからなかった。約半年ほどアリシアと暮らしていたが彼女の力に関しても、その応用であろう不思議な道具についても、あまり教えてもらっていなかったからである。
「しかも紫なんて……、ということは、“彼ら”が首謀者ね」
アリシアはなにか合点がいったようだが、どこにそんな要素があったのか、置いて行かれたままのアッシュの頭の中には???しかなかった。
「……せんぱい、話わかる?」
いつのまにやらアッシュの肩に上ってきていたリッキーに小声で説明を求めたが、彼もアッシュと同様のようで小さな頭を左右に振るだけだった。リッキーもアリシアの力に関してはよく知らないのだ。
「後ろの二人、うるさい。説明してあげるから少し待ちなさい。……すみません、これについて彼らに説明をしてもいいかしら」
「はい、私たちも伯爵からいただいた時に使い方は聞きましたが、正直コレがなんなのか、よくわかっていませんの。一緒に教えてもらえると助かりますわ」
アリシアとしては、最低限の知識があるアッシュとリッキーに手早く説明できればよかったのだが、ステラ達からも説明を求められてしまい、結果的に一からしっかりとした説明をしなければならなくなった。
「わかりました。すこしだけ、長くなるかもしれませんがご容赦ください」
コホンとわざとらしく咳をした後、アリシアはそう前置きをした。はい、お願いしますとステラが返事を返すと、魔水晶を拾い上げたアリシアの講義が始まった。
「まずは前提知識から。目には見えないですが、世界には“魔力”という自然の力が溢れています。これを操る術を“魔法”と言い、これを使えることが私が魔女と呼ばれている所以です。————?」
まだ講義のための前提を話していただけなのだが、ステラが目を輝かせながら真剣な表情で聞いていた。それがあまりにも真剣なものだから、驚いたアリシアは講義を止めてしまった。
「あの、ステラさん?あんまり、そういう、キラキラした目で見られると、なんだか、恥ずかしいのだけれど……」
「すっ、すみません!……なんだか、おとぎ話に出てくるお話みたいで、つい、聞き入ってしまいました。頑張って我慢するので、続きをお願いします」
このやりとりでアッシュは思い出した。昔、まだ城に出入りしているときにステラにいろいろな絵本やら童話やらを読まされた記憶を。その時から彼女は魔法使いが出てくるようなお話が好きだったのだ。目の前に本物?がいるなんてなれば、目を輝かせるのは当然かもしれない。
「ま、まあ、いいでしょう……。続けるわ。魔水晶、この水晶は魔力をためることで刻んだ魔法の術式を行使することができるものなの。簡単に言えば、だれでも魔法が使えるようになるってこと。魔水晶の質によって刻める術式も限られるから、なんでもできるようにとはいかないけれどね。
魔水晶の質は黒に近いほど質が高く、ためられる魔力も多い。逆にほとんど透明なものは魔水晶としての役割を果たさない。紫色の魔水晶ほどになれば、ほとんどの魔法を刻めるでしょうね。私も初めて見たから実際にはわからないけれど。実際、この魔水晶には魔力消費の多い転移魔法の術式が刻まれているみたい……、なにこれ!?」
刻まれている魔法の確認のために魔水晶を眺めたアリシアが急に素っ頓狂な声をあげた。周囲の皆はなにが刻まれているかがわからないために困惑するしかない。
「おい、アリシア。なんなんだよ、急に」
「ごめんなさい。この魔水晶、転移魔法が刻まれてはいるんだけれど、めちゃくちゃな術式が刻まれてるの。こんな術式で魔法を使ったら、無駄に魔力を使うだけじゃない。というか、これじゃ一回の転移で魔力全部使い切っちゃうし、コレに術式刻んだやつバカじゃないの!?」
最初は冷静だったが、あまりに理解できないのか、だんだんとヒートアップしていき、最後は叫びに近かった。
聞いたアッシュは気圧されていたし、今日あったばかりの二人に至ってはちょっと引いていた。
「ふー、……すみません、取り乱しました。ちなみに帰りの分の魔晶石はもらってないですよね」
「ええ、これしかもらっていないからてっきり帰りも使えると思っていました。……だから、さっき抱き着いた時使えなかったのね」
最後にぼそっとなにかを付け足したようだったが、ステラ本人以外には聞こえていないようだった。
「困ったわね。薬のストックも少ないし、行きくらいはどうにかできるけど、帰ってこられないわ。魔水晶の術式を書き換えるにしても、中に魔力がないんじゃ三日くらいはチャージさせないと」
「————ということは?」
「このお屋敷に何日かお世話にならないといけないのね。————よろしくお願いね、ミハエル」
愕然としたアッシュに対してそう告げたステラはなんだかとても嬉しそうだった。
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