After:第6話
部屋割りが決まってしまえば、夜になるまで早いものだった。
空き部屋を客室に改装したり、アリシアの部屋を掃除して、アリシアの部屋の荷物を片付けて、アリシアの部屋にもう一つベッドを置けるだけのスペースを作った。ほとんどの時間が掃除ができないアリシアの部屋で費やされたことは言うまでもない。
客人が来ることすら珍しい屋敷では、人が泊まるというだけでも大騒ぎが起きるのだ。今回の来訪は突然のことだったのでなおさらだった。
夜になり、アッシュが食事を作り始めたので、その間にアリシアとステラは先にお風呂へ入ることにした。
そして大浴場に入るなり、ステラは驚愕の声をあげた。
「ひっろーい!……なんですの!ここは!?」
「なにって、ただのお風呂場よ。いつもはもっとこじんまりした一人用のお風呂なのだけど、お客さんもいることだから大浴場にしてみたの。————その様子だと気に入ってもらえたようね」
得意げなアリシアの言葉も聞かずにステラは湯船に飛び込んでいた。
バシャーンと湯船で大きな水しぶきが起きた。ダイニングと変わらない広さを持つ湯船をみてテンションが上がるのは無理もないだろう。王都にだってこんなものはない。
「ステラさん、先に体と髪を洗ってからにしなさい」
「むぅ、はぁい、わかりました」
ぷかぷかと泳いでいたステラもアリシアに諫められると渋々湯船から上がった。さすがに湯船から出ると寒いのか、その年齢ほど育っていない体をぶるりと震わせた。
「やっぱり冬国ですのね。お湯から出ると寒いですわ」
「ちゃんと洗い終わったら、もう一度湯船に入りましょう。ほら、こっちにきて」
シャワーの使い方などをレクチャーしながらお風呂に入る様子は、まるで年の離れた姉妹のように見えるような仲睦まじさだった。
「そういえばステラさんって、ちょっと他人行儀じゃありませんか?ステラって呼んでいただきたいですわ、“お姉さま”」
「お、お姉さま!?……というか、一国の王女様を呼び捨てにするのは、ちょっと……」
二人で湯船を浸かっていると急にステラがそんなことを口にした。あまりにも寝耳に水なことを言われたものだから、アリシアは驚愕の声をあげていた。大浴場ということもあり、その声はよく響いた。
「まあ、魔女さまも相手の位を気にされるのですね。でも、私がいいと言っているのですから、気になさらないでください。それにミハエルが一緒に暮らしている方から“さん付け”されるのは寂しいですわ」
湯船のなかでくねくねしながら恥ずかしがるステラの姿はなんとも愛らしいものだったが、アリシアはそれに半ば呆れを感じていた。
(この子、二言目にはミハエル、ミハエルって、ほんとにアッシュのことしか考えていないのね)
ステラはじっとアリシアを見つめていた。
まるで小動物のようなステラの顔は同姓であるアリシアからもかわいらしいと感じるものだ。だからこそ、なんとなく彼女の提案を断るのが気が引けた。自然と、はあっと小さく息を吐いていた。
「少しのぼせてしまったようだわ。そろそろ出ましょうか、————ステラ」
その言葉にステラは顔をほころばせると
「はい!お姉さま」
元気よく返事を返した。
なんとなく絆されたようで嫌な感じがしたが、アリシアはのぼせたせいだと自分に言い訳をした。
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