第38話 油断

 前書き失礼します。39話【対価に待った掛かる!】の前、1話抜けてました。本話【油断】です。


 ギルドにて昨日の報酬を受け取り、しばらくはお金に困らないという安心感が広がっていた。昨日ギルド周辺で感じた不審な視線も今日は感じない。俺たちはもう追手の心配をしなくていいほだろうと、少しばかり油断していた。


 翌朝、俺たちは再び町の周辺で、魔物を狩ることに励んだ。戦闘経験を積み、ステータスに頼ったゴリ押しから脱却するのが第1目的だ。


 そして安全地帯の快適度をさらに上げたいし、いろいろと買い足したいものもあり、お金を稼ぐためでもある。魔物を狩るだけでなく、ギルドに顔を出して依頼達成の報告をすることも重要だ。


 14時ごろ、俺たちはギルドに戻った。今日の受付嬢は見慣れない顔だった。彼女に依頼達成の報告をすると、書類を確認してから顔を上げた。


「お疲れ様です。今回の依頼達成をもちまして、あなた方の冒険者ランクがEランクに昇格しました。」


「Eランク?」


 俺は少し驚いた。俺たちの努力が認められた証だが、まさかこんなに早く昇格するとは思っていなかった。


 ミカが嬉しそうに俺の腕をつかむ。


「やまっち、これでまた新しい依頼も受けられるわね!」


 カナエも微笑んで頷いた。


「そうね、もっといい報酬の依頼も増えるはずよ。」


 だが、受付嬢は少し真剣な顔つきで続けた。


「Eランクへの昇格に伴い、いくつか確認事項があります。こちらについてきていただけますか?」


 俺たちは何も疑うこともなく受付嬢の後に従った。普通の打ち合わせ室に案内されると思っていたが、彼女が向かった先はギルドの奥、普段は立ち入り禁止とされているエリアだった。そこには豪華な扉があり、まるで俺たちが進むのを立ちはだかっているかのごとくだ。


 受付嬢がその扉を軽くノックすると、低い声が返ってきた。


「入れ。」


 受付嬢が扉を開け、中に入ると広々とした部屋が広がっていた。高価そうな家具が並び、中央には一人の女性が立っていた。彼女の存在感は明らかに異質で、俺たちの注意を一瞬で引いた。


 ミカとカナエが同時に息を呑んだ。

「あっ!王女?」


 俺もすぐに気が付いたた。彼女は城で見た第2王女と似ているが別人だ。確かに目を見張るほどの美人だがだが、それ以上に彼女の目には優しさと困惑が混じっていた。


「お待ちしておりました、山田様。」

 彼女の声は穏やかだった。


 その瞬間、俺は危険を感じて反射的に安全地帯の扉を出した。


「ミカ、カナエ、入れ!」


 2人はすぐに駆け込んだ。俺も続けて中に入ろうとしたが、その時だった。


「山田様、どうかお待ちください!私は味方です!」


 彼女の声には必死さがあった。


 俺は振り返り、安全地帯の扉を閉める前に彼女がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。


「違うのです!どうか私の話を聞いてくださりませんか?」


 シルフィスは切迫した表情で訴えてきた。


 俺は一瞬戸惑ったが、彼女の真剣な眼差しに嘘偽りがないことを感じ取った。ミカとカナエも同じように感じたのか、緊張した面持ちで俺に目配せをする。


「分かった・・・話を聞かせてもらおうか。」


 俺は扉の前から退き、シルフィスに入るように促した。


 シルフィスは深くお辞儀をし、安全地帯に足を踏み入れた。彼女の動きには躊躇いもなく、俺たちに敵意がないことを示しているようだった。


「まずは、あなたたちを驚かせてしまったことをお詫びをいたします。」


 シルフィスは丁寧に頭を下げた。


「私はシルフィス。山田様も知っている第2王女の妹でもあります。姉があなたたちにしたことに対して謝罪したくここに参りました。」


 ミカが警戒しながら尋ねる。


「どうしてあんたが謝るの?お姉さんがやったことなんでしょ?」


 シルフィスは静かに頷いた。


「確かに、姉の行動は私の意志ではありませんでした。しかし、王家として、そして妹として、あなたたちに不利益を与えたことを謝罪し、できる限りの償いをしたいのです。」


 俺は彼女の目を見つめた。そこには真摯な思いが宿っていた。


「なぜ俺たちをここまで追ってきた?俺たちはただ平穏に暮らしたいだけだ。」


「それは…姉があなたたちに何をしたのかを正確に知りたかったからです。そして、もしあなたたちが本当に困っているのであれば、力になりたいと考えました。」


 カナエが少し柔らかい声で言った。


「私たちに味方するというの?」


「はい、そうです。」


 シルフィスは強く頷いた。


「どうか、私の真意を信じてください。姉とは違い、私はあなたたちに害を与えるつもりはありません。」


 俺たちはしばらくの間、沈黙の中でお互いの顔を見合わせた。そして、俺はゆっくりと息を吐き出し、決断した。


「分かった。しばらくは君の言葉を信じよう。」


 シルフィスは安堵の表情を浮かべた。


「ありがとうございます、山田様。私はあなたたちを守るために全力を尽くします。」


 この不意の出会いは、俺たちの旅に新たな展開をもたらすことになるのだろう。そして、シルフィスの存在が今後どのような影響を及ぼすのか、それはまだ誰にも分からなかった。

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