第32話 バスタオルの下は?

 夜になっていたが、俺はもう少ししたら寝ようと横になっており、今日の出来事を思い返していた。

 しかし突然、部屋の扉が静かに開いた。

 と言いたいが、安全地帯の扉が開いたのだ。安全地帯の扉や窓は当然俺にしか設置はできないが、設置さえすれば誰でも開け閉めできる。

 なので、完全に籠もるのならば、出入り口は消さないといけない。

 しかし、今は緊急避難するためにミカとカナエの泊まる部屋と俺の部屋との間を繋ぐように安全地帯に扉を設置していた。


 誰かと思って身を起こすと、そこにはバスタオルを巻いただけのミカとカナエが立っていた。2人の姿を見た瞬間、俺は思わずゴクリと唾を飲んでしまった。


「な、何してるんだよ、こんな夜中に・・・」


 俺は声を震わせながら言う。


 ミカはにやりと笑いながら、俺の方に歩み寄ってきた。


「今日、下着を買えたことが本当に嬉しくてさ。だから、お礼を言いに来たの。ね、カナエもそうでしょ?」


「うん、本当にありがとうね」


 カナエも少し照れくさそうにしながらお礼を言うと微笑んだ。

 だが、俺はどうしても2人がバスタオル姿でいることが気になって仕方がない。


「いや、その、何でバスタオルだけなんだよ・・・?」


 俺は困惑を隠せずに尋ねた。


 ミカがさらに一歩俺に近づき、いたずらっぽく言った。


「もしかして・・・期待しちゃった?」


「そ、そんなことない!」


 俺は慌てて否定するが、期待しまくり心臓がドキドキと早鐘を打っている。


「お礼にね、今日買ったのを見せてあげようと思って」


 ミカが不敵な笑みを浮かべ、カナエもそれに乗る形で悪乗りしていた。


「そう、だから・・・目に焼き付けてね」


 俺は状況を理解できていなかった。まさか、本当にこのまま・・・

 ゴクリとつばを飲み込む。


 だが、ミカはおもむろにバスタオルの端を持ち上げ、「せーのっ!」とカナエと一緒に掛け声を合わせて、バスタオルを取った。


 その瞬間、俺は反射的に手で顔を覆ったが、指の隙間から恐る恐る覗いてしまう。すると・・・そこには、2人が普通の町娘風の服を着て立っていた。思わず拍子抜けし、俺はその場にへたり込んだ。


「残念でした~!下着姿を期待した?」



 ミカが笑いながら言い、カナエもクスクスと笑いをこらえている。


「なんだよ、からかうなよ・・・期待・・・コホン」


 俺は深いため息をつきながら、ようやくホッとした。しかし、その直後、ミカがさらに一言告げる。


「でも、喜んでくれてよかったわ。これで今日も安心して眠れるでしょ?」


 そう言うと、2人はまた部屋の奥に戻っていった。俺はその場で頭を抱え、枕に顔を埋めた。まったく、どこまで俺をからかう気なんだよ・・・俺も君等と同じ高校生・・・男子高校生は色々あるんだぞ!


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 ・

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 翌朝、朝食を終えてから狩りに出かける準備をしていると、またしても2人が部屋の奥で何やらこそこそと話し合っていた。


「何やってんだ、早く準備しないと出発が遅れるぞ!」


 俺がそう言うと、ミカがにやりと笑いながら部屋の奥から顔を出した。


「昨日買った服、ちゃんと見せてあげるわ。待っていなさいよ。」


 ミカはそう言って、再び奥へ引っ込んだ。


 少しして、2人が満面の笑みを浮かべて出てきた。2人とも昨日買ったばかりの、現地の町娘が着るような素朴な服を身にまとっている。ミカはシンプルなブラウスとスカート、カナエは優しい色合いのチュニックに短めのスカートを合わせていた。


 ミカが一歩前に出て、得意げに言う。


「どう?私たち、可愛いでしょ?」


 俺は思わず頷いてしまった。


「ああ、すごく似合ってる。普段と違う感じが新鮮でいいな。」


「でしょ?やっぱりこういうのもたまにはいいわよね!」 


 ミカは嬉しそうにスカートの裾を広げて見せた。


 カナエも少し恥ずかしそうにしながら披露した。


「どうかな・・・私、こういうの慣れてなくて・・・スカート短くて・・・」


 そう言うも、やはり彼女の町娘ふうの姿はとても似合っていた。


「カナエもすごく似合ってるよ。町で歩いてたら、みんな振り返るんじゃないか?」


 俺が冗談めかして言うと、カナエは照れくさそうに笑った。


「ありがとう」


「でも、今日の狩りにはやっぱり普段の服に戻した方がいいだろうな。せっかくの新しい服を汚すのはもったいないしさ。」


 俺がそう言うと、2人は少し残念そうにしながらも頷いた。


「そうね、狩りにはいつもの格好がいいわね。でも、次の休みの日にはまたこれ着て出かけようね。」


 ミカはそう言って、カナエに同意を求めた。カナエも笑顔で応える。


「うん、楽しみだね」


 その後、2人は部屋に戻るとオーソドックスな冒険者スタイルに着替えた。


「ほんとに、こういう日常が大事だな」

 俺はそんな2人を見ながらしみじみと呟いた。

  

 そんな俺の顔をミカは覗き込む。


「さあ、行こうか!」


 ミカが元気いっぱいに声をかけ、俺たちは狩り場へと向かって歩き始めた。

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