第31話 関西弁

 ギルドでお金を受け取ると今回の換金で得た金貨二枚について話し合った。俺の手待ちがまだ少しあるので、手持ちの金貨一枚を明日の宿代として残し、残りを買い物に使うつもりでいることを伝えた。それで取り敢えず今回得た金貨は2人に一枚ずつ渡して買い物に充ててもらう。


「それで、必要なものを買うけど、何か要るものはある?」


「あの…下着を買ってもいい?」


 俺が聞くと、ミカが少し遠慮がちに尋ねてきた。


「下着か…。でも、クリーン魔法で服をきれいにできるよね?」 


「やまっち、女の子にそんなこと言うなんて失礼よ!」


 俺の失言に対しミカとカナエが顔を赤らめながら、声を揃えて抗議してきた。


「ごめん、言い方が悪かった。買い物には必要なものを買うようにしよう」


 俺は彼女たちに謝罪し、金貨一枚を下着や生活必需品の購入に使うことにしたが、焦りから変なことを口走った気がする。


 宿の部屋に戻ると、俺たちはこの先どうすべきかを話し合うことにした。まず、長距離を歩くことに慣れていないのが問題だと話しが始まる。俺も含めて、これまでずっと教室にいたせいで、俺たちは上履きのまま異世界に召喚され、いきなり外を歩くことになった。城で支給されたブーツを履いてみたものの、足に合わず、ひどい靴擦れを起こしてしまった。何度も俺の回復魔法で治したけど、それだけで体力は削られていく。


「そもそも、あたしたちの体力が圧倒的に足りないんじゃないの?こんなんで国を出るなんて、無理に決まってるでしょ!」


「地理もわからないし、どれくらいの時間がかかるかも予想がつかない…馬車を買うお金もないし、買えたとしても馬の扱いなんてわからない。現実的じゃないよね。」


 ミカが少し苛立った口調で言うと

 カナエもため息をついて答えたが俺も同意見だ。


「馬車どころか、馬の世話なんて俺たちには無理だし…いくらステータスを上げたって、これじゃあ無茶すぎる。」


 結局、俺たちは国を出る計画を一旦白紙に戻し、情報収集と資金稼ぎを優先することに決めた。そして、数日後にもう一度話し合って、今後の方針を決めることにした。


 その後、温泉に入って疲れを癒すことにした。湯船に浸かりながら、俺たちはふとした贅沢に浸った。久しぶりの温泉で気分も少し晴れた気がする。


 宿の温泉でゆっくり疲れを癒した後、俺たちは宿の食堂で食事をすることにした。思いっきり食べられることを考えると、自然と笑みがこぼれる。


「今日はたっぷり食べようぜ!」俺が笑顔で声をかけると、カナエとミカも目を輝かせて同意した。


「体重を気にせずに食べられるなんて、夢みたい!」


 カナエが楽しそうに言う。


「ほんま、こんなに食べられるの、異世界に来てからの唯一の幸せやわ…」


 ミカが一瞬、素直な気持ちを漏らしたが、すぐに照れ隠しで顔をそむけた。

 しかし、何故か関西弁だ。


 俺たちは次々と料理を注文し、テーブルがすぐに豪華な料理で埋め尽くされた。料理の量は常識を超え、まるで宴会のようだ。それでも俺たちは次から次へと平らげていく。


「もうこれで最後にしとこうかな…」カナエが食べ終わった料理を見つめ、微笑む。


「いや、まだいけるっしょ!」


 俺はさらに追加で注文した。


「ほんまに、どんだけ食べる気やねん…」


 ミカがツンとしながらも、自分もまだ箸を止める気はないようだ。


 やがて、俺たちは満腹感とともに、限界を迎えた。カナエが最後の一口をなんとか口に運び、ミカもようやく箸を置いた。


「もうだめ…お腹いっぱい…」


 カナエが苦笑いを浮かべ、腹をさすりながら言った。


「まったく、こんなに食べるなんて、我ながら信じられへんわ…」


 ミカも同じくお腹をさすり、満足そうな顔をしている。


「はは、でも、これも体重操作のおかげだな。太らないって分かってるから、思いっきり食べられるんだ。」


 俺もお腹を叩きながら笑った。


 そんな俺たちの様子を見ていた他の客たちは、明らかにドン引きしていた。驚きと困惑が入り混じった表情で、俺たちを見ている。


「ちょっと、見られてるよ…」


 カナエが周りを気にして小声で言った。


「まあ、いいさ。俺たちが異世界でこんなに楽しく食事できるのなんて、そうそうないことだからな。」


 俺は気にしないふりをして肩をすくめた。


「ま、あんたがそう言うなら…」ミカが少し照れくさそうに笑った。


 こうして俺たちは、異世界での束の間の幸せを味わいながら、次の挑戦に備えてエネルギーを蓄えた。周りの視線なんて気にしない、今はただこの瞬間を楽しもうという気持ちでいっぱいだった。




 しかし、その夜、俺たちは部屋割りについて議論を始めた。


「ねえ、やっぱり一緒の部屋がいいんじゃない?」



「そうだよ、やまっち。私たち二人だけ

 だと、もし何かあったら不安だし…」

 ミカが提案すると、カナエは同意し俺は頭を抱えた。 

「でも、俺は男だし…二人と一緒にいると理性が保てなくなるかもしれないから…」


「そんなこと言わないでよ。あんたが我慢すればいいんでしょ!」


 ミカがムッとした表情で反論した。


 「そうそう、やまっちなら我慢できるって信じてるから」


 カナエも続く。


 「分かったよ。じゃあ、安全地帯を使って二人の部屋と俺の部屋を繋げよう。入口と出口を開きっぱなしにすれば、すぐに助け合えるし」


 俺は彼女たちの無茶振りに圧倒されながらも妥協案を提示した。


「それなら安心だね!」


 ミカとカナエは笑顔になり、俺たちはその方法で部屋を繋ぐことにした。


 こうして、俺たちは不安と安心、してはならない期待を胸にするなど各々の思惑の中、休むのだったが、ミカの関西弁はなんだったんだろうか?

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