第29話 偽装

 俺はわざと異なる方向に微妙に足跡を残しながら、深い森の中を進んでいた。

 一応足跡を消す努力をした感を出しつつ、見る人が見ればわずかながらも痕跡が見つかるように、ミスったように思わせてるようにだ。


 森の中は薄暗く、木々の隙間から漏れ出すわずかな光が道を照らしているだけだった。枯れ葉が足元でカサカサと音を立て、鳥の鳴き声が遠くから響いてくる。


 俺たちは慎重に一歩一歩進むたびに、足跡を消すための対策を重ねていった。例えば、大きな枝で地面を掃いたり、石を使って足跡を潰したりして、追手が簡単に追跡できないように工夫した。あくまでも簡単にはだ。

 しかし、俺がわかる範囲でも完璧にではないので、その道のプロからすれば、これで痕跡を消したつもりなんて甘い!とほくそ笑むだろうと言う感じを狙った。


 森を抜け、広がる平地に出たところで俺は立ち止まり、【安全地帯】を発動した。


 俺のギフトである【安全地帯】は異空間で、任意の場所に入口をと念じれば、【安全地帯】の入口のドアが目の前に現れる。俺たちはドアを開いて中に入った。


 内部は基本的に、1辺が約1mの正1立方体、つまり1㎥のキューブが27個使われており、デフォルトでは3×3×3の正立方体となる形で配置されている空間だ。

 合計27個のキューブで構成されているこの異空間の中は静寂に包まれており、外の喧騒からは完全に切り離すことが可能だ。一度中に入り、中から入口を消すと、入口の位置は外から見て固定されるが、中で別の出口を設けることができる。

 キューブの位置は変更できるが、27個全て繋がっている必要がある。各キューブは、最低でも1つの面は他のキューブに接していなければならない。

 極端な話、キューブを直線上に全て並べることが可能だ。


 例えば、隣のキューブに出口を設けた場合、入口から1m離れたところに出る仕組みだ。この機能により、俺たちは異空間を通って障害物を無視しながら最大で27mの移動が可能となる。


「よし、みんな、ここから安全地帯を駆使して慎重に進もう」


「ねぇやまっち、みんなって言っても、私たち3人しかいないんだけと」


「そこは突っ込まないでよ。みんなって言った方が俺のモチベーションが上がるから」


「ふふふ。そうね、みんな!・・・ね」


 俺は2人に呼びかけ、突っ込まれたが、安全地帯を使うことで足跡が完全に残らないように移動することを決めた。

 安全地帯の中を中腰に歩き、最大27mの範囲内で移動しながら外界に出る場所を選ぶ。これによってベテランのハンターでも、俺たちの痕跡を追いきれなくなるはずだ。さらに目的地の方面と別方向に向かっていたが、安全地帯で少し戻り、そこから別方向に安全地帯を出すようにし、念には念を入れた。これにより、追手はさらに混乱するだろう。


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 昼頃になっても追手の気配は全く感じられなかった。


「うまくいったみたいね。これで追手も見失うはずね!」


 一番楽観的なミカがそう言って微笑んだ。確かに、これまで痕跡を消すのに苦労していたが、「安全地帯」を使うことで、ハンターたちに見つからないよう痕跡を完璧に隠すことができたはずだ。俺たちは途中から本来向かうべき方向に軌道を修正し、再び安全地帯を出て進んでいく。


「この先も気を緩めずに行こう」


 俺は2人に声をかけ、足跡を残さないように注意を払いながら進んだ。夕方になるころには、俺たちはそこそこ大きな街にたどり着いた。街の外れに立つ高い壁が夕日に照らされ、赤く染まっていた。正面から街に入るのは危険だと判断し、街の外周を慎重に進み、人目につかない場所を見つけた。そこで再び「安全地帯」を発動し、異空間を通り抜けて街の壁を超えた。


 街に入ると、まずは宿を探すことにした。カモフラージュのため、俺とミカが夫婦を装い、宿にチェックインする作戦だ。これはカナエが提案したものだった。ミカは「私には無理、1人で宿に入るとすぐにボロが出ちゃう」と言っていたため、俺が話すことになった。


「ようこそいらっしゃいました。何名様でお泊まりですか?」


 宿の受付係が微笑みを浮かべて尋ねてくる。


「夫婦で泊まりたいのですが、部屋は空いていますか?」


 俺はミカの手を軽く握りながら答えた。


「もちろんです。ごゆっくりお過ごしください」


 受付係がキーを渡してくれる。俺たちは部屋に向かい、カナエは少し後から1人で宿に入り、別の部屋を取る手筈だ。これで、追手に見つかるリスクを減らすことができるだろう。


 部屋に入ると、窓から街の風景が見える。人々が行き交い、商人たちの声が響き渡る。俺たちは一息つき、今後の計画を立てるために話し合った。街での滞在をできるだけ目立たないように過ごし、次の目的地へと進む準備を整えるのだ。


「この先も油断せず、慎重に行動しよう」


 俺は改めて2人に注意を呼びかけた。異空間の力を駆使しながら、俺たちは追手から逃れ、新たな冒険の一歩を踏み出しだそうとしたのだった。



後書き失礼します。

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