第22話 静かな恐怖
怪我もなく戦闘を無事に終えた後、反省会を終えた俺たちは森の中でもう少し休憩を取ることにした。
とは言うものの怖いので安全地帯の中に入り、入り口と出口を出して森の空気を堪能している。
両方同時に出せるのだ。
戦いの疲労がじわじわと広がりつつあったが、魔物を倒した達成感がそれを上回っていた。
ステータス的には問題ないはずだと思うのだが、変に力が入っていたのか、疲労感がかなりあった。
息を整えつつ、体を伸ばしている時に聞こえる木々のざわめきと、鳥のさえずりが心地よく耳に響いていた。
油断もあるが、少ししてからどうせならと、安全地帯の外に出て横になっていた。
しかし、その静寂は突然崩れ去った。複数の足音がこちらに向かって近づいてくるのを感じたのだ。胸が一瞬で高鳴り、警戒心が一気に全身を支配した。
「2人とも、急いで安全地帯に入るんだ!」
俺は声を低くし、急いでカナエとミカに指示を出した。
入口を消すと、草むらの陰に隠れる位置に小さな窓を作り出した。
昨夜の検証で、この窓から外の様子を確認できることがわかっていたので、それを活用することにした。
「この辺りに誰かいた気配がしたぞ!」
男の声が近づいてきた。荒々しく、疑い深い響きが耳を突き刺した。カナエとミカが緊張した面持ちで俺に寄り添い、身を寄せ合うようにして震えている。
「ひょっとしたら・・・コイツラじゃねぇか?当たりか?」
別の男の声が続く。彼らの間で笑い声が漏れる。その軽薄な響きが、俺たちの不安を一層煽った。
「女の足じゃ大した距離は進めないぞ」
「確か、女2人だったな?」
「ああ。ツチモトがなんかこのエリア方面に気配がしたからって来たが、当たりのようだな」
俺たちを探していることは明らかだった。カナエとミカの表情は一層硬くなり、不安と恐怖がその瞳に宿っていた。
「大丈夫だから、心配しないで」
俺は彼女たちを宥めるように、優しく声をかけた。
「扉を出さなきゃここには入れないし、彼らは俺たちの存在に気が付いていないさ」
そうは言ったものの、内心は不安でいっぱいだった。彼らが本気で捜索している様子を見れば、油断はできない。特にミカの様子がいつも以上に不安定で、震えが止まらないのが気になった。
窓を消し、俺は静かにミカに問いかけた。
「怖がるのは分かるけど、どうした?」
ミカは震えながらも、勇気を振り絞って口を開いた。
「う、うん。私が逃げなきゃって思ったのは・・・」
彼女は言葉を探すように一度息を飲み込んだ後、意を決して続けた。
「本当は・・・クラスの男子たちが怖かったの。彼らがどんどん近づいてきて、身の危険を感じたの」
彼女の言葉が、俺の心を締め付けた。召喚された翌日から、クラスの男子の一部が彼女たちに対してオラオラと威圧的な態度を取っていたという。彼らは自分たちの力を誇示し、無理やりにでも自分の側に引き入れようとした。
「ミカ、俺の女になれよ!」
「カナエ、お前は俺が助けてやるから、俺の女になれ!根暗なお前をもらってやるぜ!」
そんな言葉を浴びせられ、彼女たちは恐怖と嫌悪感に耐え切れなくなり、逃げることを決意したのだ。
「ミカ、話してくれてありがとう。君の気持ちを理解したよ」
俺は優しくミカの肩を叩き、彼女の気持ちに寄り添った。
「俺は君たちを守るから。『俺の女になれ』なんて言うような奴とは違うよ」
ミカは少しだけ笑みを浮かべたが、その表情にはまだ不安が残っていた。
「私も・・・」
カナエが静かに言葉を継いだ。
「彼らの態度が日に日に酷くなって、逃げるしかなかったわ。数日以内に何か、その、多分乱暴されるのは間違いないと感じたの。だから怖くて仕方なかったの」
俺は彼女たちを安心させるために、力強く言った。
「大丈夫、ここは安全地帯だ。彼らは絶対にここに入って来られない。それに、いざとなったら、俺が必ず守るから!」
俺の言葉に少しだけ勇気を取り戻したのか、2人は俺にしがみついたまま、静かに頷いた。
外から聞こえていた男たちの声が次第に遠ざかっていった。しかし、俺たちはしばらくその窓から外の様子を見守り続けた。完全に足音が消えたとき、ようやく俺たちは安心して息をつくことができた。
「これからどうするの?」
ミカが心配そうに尋ねてきた。
「まずは落ち着いて考えよう。今は安全地帯にいるし、少し休んでから次の行動を決めよう」
俺は努めて冷静に言ったがカナエが頷いた。
「そうね。今はここが唯一の安全な場所だもの」
「それに、俺たちはステータスポイントやスキルを得たんだから、自信を持って進もう。今は我慢だ。無理にここを出たら見つかるかもしれないけど、彼らがこのドアを探しても絶対に見つからない。数時間捜索して諦めれば、俺たちはまた動ける。だから、今は休もう」
俺の言葉に、2人は少しずつ安心している様子を見せた。ミカとカナエの不安を和らげるために、俺たちは再び心を一つにし、次の挑戦に向けて準備を整えることにした。
外の危険が完全に去るまで、俺たちは安全地帯でしばらく休むことにした。静かな空間にいるとはいえ、恐怖がまだ体の奥に残っていたが、俺たちは再び歩き出すその時に備え、体を休めることにした。
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