第8話 冒険者登録と遭遇

 冒険者ギルドの扉を押し開けると、中は活気に溢れていた。冒険者たちが情報を交換したり、依頼を探したりしている。アニメや小説などの知識から冒険者ギルドってこんなかな?と想像していた範囲の様子に少し安堵した。


 俺は深呼吸をすると受付に向かっていき、目的を告げた。あえてぶっきらぼうに、なるべく冒険者らしくを心がけた。


「登録したいんだけど。」


 受付の女性は笑顔で応じてくれた。


「もちろんです。必要な書類をこちらに記入してください。」


 俺は書類に目を通し、必要事項を埋めていくと言いたいが、残念ながらこの世界の文字は読み書きできない。


「申し訳ないですが、その・・・」


「大丈夫ですわ。代筆ですよね?ステータスを見てもよいですか?」


「構いません」


「分かりました。必要事項を聞きますので答えてくださいね」


 名前、年齢、クラス。得意魔法。俺は【ガンロウタ】と偽名を記入してもらった。ステータス隠蔽のおかげで、ステータスからは本当の身元はバレないだろう。

 得意は回復魔法だとし、スキル持ちだと伝えると少し驚かれたが、それだけだった。


「これで大丈夫かな?」


 受付の女性が書類を確認すると頷いた。


「大丈夫です。これであなたもギルドの一員です。これがFランクのカードです。では次にステータスを拝見します」


 言われるがままに、城にあったのと似た魔道具に手をかざす。


 ・

 ・

 ・


「ちょっ、こ、これ、貴方は何者ですか?凄いステータスですよ!」


 取り敢えず職業と言うか、クラスが冒険者となったのが分かる。クラスを変更するのに必要だったようだ。


 受付のお姉さんがオロオロしていたが、半ば奪うようにカードを受け取るとその場を後にした。


 その時、俺は彼女を見つけた。委員長がこちらの方に歩いてくる。どうやら彼女はギルドに登録するために来たらしい。クラスの奴らも何人かいる。俺は心の中で叫んだ。


『委員長!』


 彼女は俺を見て、少し驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になり会釈をしてすれ違った。


 俺は委員長の背後からそっと近付いた。


「委員長!」


 彼女のことを委員長と呼ぶのはクラスでも一部の者だけだ。


「あなた追放されたんじゃ?なぜギルドに?」


 俺は頷いた。


「ああ、色々あって戻って来た。冤罪だと委員長に知ってもらいたかったんだ」


「でも現行犯って聞いたし、服も・・・」


「委員長、時間がない。トイレに行く振りをして欲しい。そこでなら少し話せる」


「そんなこと言われても・・・」


「俺は城に見つかったら命がない。そのリスクを背負ってまで来たんだ。頼む!少しだけ時間をくれ!」


「分かったわ。貴方の方が先に行って。一緒だと怪しまれるわ」


 俺は来てくれることを祈り、トイレに向かう。この世界のトイレは個室だが、男女の区別はない。


 待つこと2分、委員長が現れた。


「あれ?いないの?」


「俺だよ」


 声を掛けるとキョトンとしていた。


「三郎だよ。ステータス操作で体重を減らして身長を伸ばしたんだ。三郎と分からないだろ?」


「喋り方はそうね。私、貴方があんなことするなんて驚いたわ」


「まず、こっちに来て」


 トイレの先に少しだけ奥まったところがあるので、そこだと周りから見えない。


「どうするつもりなの?」


「多分だけど、委員長は魅了か何かを食らっているはずだから、先ずはそれらを解除する。異常状態回復薬を顔にかけるから、目を瞑って。直ぐに顔を拭くか洗えば良いから。お願いだ!もし騙したりしたら叫べば俺は捕まり、処刑されるから」


「分かったわ。やって頂戴」


「あっ!眼鏡外そうね」


 眼鏡を外した委員長はやはり綺麗だ。そんな顔に白いドロッとしたポーションを掛けるのは絵面的に気が引けたが、それでもぶっ掛けた。一瞬びくんとなるが、体から黒い靄が出て来て霧散した。


「えっ?私、何してたの。うん、分かるんだけど、お城からここまであまり記憶がないわ」


「じゃあ今から言うことを急いでやって!それと今って体重はどれくらい減らすのが理想?時間ないから」


「この前食べすぎちゃったから3キロかな・・・」


 そんなようには見えないが・・・やり方を教えるも・・・できなかった。


 もしやと思い、俺は手を握ってステータス操作を試みた。するとどうやら彼女のステータスを俺が触れそうな感じだ。試すと操作できるが、全て彼女の許可がいる。それでも行うと3キロ減らすことができ、ポイントが3000増えた事が分かる。お腹を押さえ驚いていた。


「うわっ・・・!凹んだわ!それとさっきの液体は消えたのね」


「急いで状態異常耐性とステータス隠蔽を・・・」


 やはり取れなかった。パラメーターへの割振りはできそうだが、スキルは無理そうだ。やはり俺が操作を代行すると行ける。ステータス隠蔽は取れず、代わりに俺ならできた。


「分かったと思うけど、皆、精神操作をされている。俺の冤罪の証明にはならないけどさ」


「ううん。私、信じる。なぜ疑ったのかわからなかったけど、さっきの薬のお陰でそんな馬鹿なことする訳無いって今なら分かるわ。私はどうすれば?」


「悪いが今の俺には委員長を何とかするのが精一杯だ。命を張ってまでクラスの奴らを救う謂れも力もない。委員長はどう?」


「確かにそうね。助けたいかどうかは置いておいて、力はないわね」


「明日の予定は?」


「ここで初心者講習だそうよ。2日やるんだって」


「分かった。2日後に逃げよう。それまで悟られないように皆と同じようにするんだ。こちらで色々準備する。大事なものだけ持って逃げるんだ。買えるものは要らない。良いね?他の者は力をつけたら助けよう」


「う、うん。分かったわ」


 そうして取り敢えず委員長は皆の所に戻ったが、長い!と文句を言われていたな。

 ごめんよ。

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