第7話 装備

 早朝の街は静かだった。目を覚まし、改めて自分を見つめ直す。学生服のエチケットブラシで顔を確認すると、父親に似たハンサムな顔が映っていた。今の姿や低い声質からは、誰も山田三郎だとは気づかないだろう。


 委員長を救うか否か考えたが、やはり助けるために動くことに決めた。皆の様子やあのメイドもどきの言動から、魅了系の精神操作をしたのだろう。残念ながら今の俺には魅了を破る手立てはないが、城のレイアウトは覚えている。聞き込みをして道具屋か何かで解決策を探すことにする。その前に、このぶかぶかの服をどうにかしないといけない。防壁に沿って少し歩き、街に入る方法を考えた。

 安全地帯の特性は、入口は固定だが、出口は任意の場所には設定可能だ。確か入口から見て出口は現実世界では相対的な位置は同じだから、理屈的には可能なはずだ。


 安全地帯を出し、反対側に出口を設定して街に入る。思ったとおりだったが、拍子抜けするほどあっさりといけた。委員長を助けるための計画を練りながら、防壁沿いに歩いた。彼女は決して好きでもないが、放っておけない。


 彼女は真面目な委員長キャラで、読書を好み、休み時間にはいつも何かの本を読んでいた。気が強く、よく文句を言っている。メガネ姿は美人には見えないが、メガネを外すと綺麗な子で、髪型さえ変えればもっと良くなるだろう。


 彼女にだけは、俺が強姦しようとしたと勘違いされたくない。交通事故の後遺症で足に障害を抱えて以来、世界は変わった。彼女はいつも通りに接してくれ、時には支えてくれた。彼女が困っているときには、どんなことがあっても助けたい。彼女が僕に示してくれた優しさを、僕も返したいんだ。


 城のレイアウトはある程度記憶している。安全地帯を出し、反対側に出口を設定すれば門を通る必要はない。追放された俺が町に戻っていることを発覚するリスクを避けつつ、委員長を救う方法を探ることができる。


 まず服屋に向かった。文字は読めないが、看板から推察できる。識字率が低い世界なので、絵で示された看板はかなり助かる。ぶかぶかの服じゃ、目立つし動きづらい。程なくして服屋を見付けた。店内は色とりどりの服で溢れていて、選ぶのに一苦労だ。でも、すぐに俺に合いそうな服を見つけた。それはシンプルで動きやすそうなものだ。ちょっとした背嚢もあり、財布やら不足しているもの、予備の服、ローブなども選んだ。


「これにするよ。」


 店主は俺の選んだ服を見て頷いた。支払いを済ませて、さっそく着替える。ピッタリだ。これなら動きやすい。金貨1枚が飛び、残金は金貨49枚。服は2セット買ったが、それでこの値段だ。多分3万円程の価値だろう。つまり150万円程の支度金を用意していたのだろうと思う。


 次に薬屋を訪れた。魅了解除のことを尋ねると、店主は棚を指差して「状態異常回復薬があるよ」と教えてくれた。栄養ドリンクほどの小瓶に入った薬を手に取る。使い方は簡単、顔にぶっかけるだけだって。


「これでいい。」


 俺は薬を買い、ポケットにしまった。これで準備完了だ。残金は金貨48枚。


 腹が減ったので宿屋の食堂に向かい、ガッツリ食べることにした。金貨を出すと変な顔をされたが、昼食用にパンと野菜を包んでもらい、合わせてお釣りは銀貨9枚だった。


 次に食料品店で保存食を買い、近くの道具屋で鍋などの調理器具を購入。着火用の魔道具や薪も買った。野営するにしろ、火を起こせないと辛いだろう。魔道具は金貨2枚だった。残金金貨45枚、銀貨4枚。


 買い物ついでに情報収集をすると、冒険者という選択肢があることが分かった。『それもあり、まずは装備だよな』と考え、武器屋に向かった。


 そこには気の良さそうなおっさんがいた。


「すみません、冒険者をしようと思うんですが、俺の体格だと剣はどうですか?」


「剣に不安があるなら、小型の盾と槍か棍棒がいいだろう。あと、ナイフも持っておくといい。魔物を倒したら魔石を抜き取るのに使うからな」


「なるほど、ありがとうございます。勉強になります」


「お前、ほんとうに冒険者志望か?物を知らなすぎるぞ」


 結局、皮の胸当てと少し重い鉄の槍、解体用のナイフ、サブウェポンの大型ナイフとケースを購入した。


「盾はどうする?」


「鉄製の小型のものにします。重いけど湾曲してて鍋としても使えるんですよね?一応サブや練習用に木のお願いします」


「そうだ。縁の部分を挟む道具も付けとくよ」


 鉄の盾はかなり重かったが、軽々と扱う俺を見ておやっさんは驚いた。


「ほう、見た目と違って力があるな。金ができたらまた来いよ」


 今の俺の懐事情に配慮してくれた。初心者は木の盾を選ぶが、破損しやすい。軽くて取り回しも良く、盾で殴ることも可能だから、初心者は盾を持つのが良いと言われた。だけど、なんか頼りない感じがしたから、鉄一択だった。

 木の盾も買ったのは、初心者が鉄の盾を装備していると目立つので、人がいるところだと木の盾を装備するカモフラージュ用で買った。


 残金金貨38枚、銀貨3枚。


 次に冒険者登録をしに行くことにした。魔石などは冒険者じゃないと冒険者ギルドは買い取りをしてくれないらしい。取り敢えず魔物を倒す最低限の装備だぞと言われたが、多分ステータス的に何とかなるさ。

 まあ、最悪安全地帯に逃げ込めば良いからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る