第44話 プチ修行

 この町での滞在も、2日目に差し掛かった。シルフィス様の計らいで、俺は基本的な剣の扱い方を学ぶことになり、ミカとカナエはこの世界での女性としてというより淑女らしくや、基本的なメイドの所作を教えてもらうことになった。もちろん、彼女たちが本当の意味でメイドになるわけではないが、王都に向かう前に少しでも貴族社会での立ち振る舞いを身につけておくためだった。


 俺は町の訓練所で、護衛の騎士たちから剣の基礎を学ぶことになった。正直、剣の訓練をまともにするのなんて初めてのことだったが、力任せに振り回すのではなく、体の軸を使いながら動くことが重要だと教わった。

 ミカとカナエから少し教えてもらったが、本職には遠く及ばなかった。


 訓練中、剣を握った手がしびれるほどの衝撃を感じるたびに、俺の腕が震えた。相手の騎士は軽くあしらっているように見えたが、俺にはこれが限界だった。


「まだまだだな……」


 俺は息を切らしながらも、何とか剣を振り続けた。護衛の騎士は笑みを浮かべ、俺の姿勢や足さばきを丁寧に修正してくれた。


「焦るな。お前はまだ始めたばかりだ。基礎ができれば、あとは慣れるだけだ。」


 その言葉に少し救われる気持ちだった。


 一方、ミカとカナエはシルフィス様に同行していり女性たちから、メイドとしての基本的な所作を教わっていた。食事の際のエレガントな動きや、礼儀作法、さらには王宮での振る舞いについても細かく指導されていた。時折、彼女たちが俺のいるギルドの訓練場に足を運び、俺が剣を振るう姿を見てクスクス笑っているのが見えた。


「ちょっと、見ないでくれよ!」


 俺は恥ずかしさから、思わず剣を持つ手が乱れたが、騎士からすぐに注意されてしまった。


「集中しろ。お前が守らなきゃいけないものは目の前にあるだろう?」


 その言葉にハッとして、俺は再び剣に集中し直した。


 その日の訓練が終わり、汗だくで剣を返すために別の部屋に向かった。部屋には護衛の騎士が待機しており、俺が手にした剣を優しく受け取った。


「よく頑張ったな。お前にはまだ早いかもしれないが、剣は単なる武器ではない。心を映す鏡だ。だからこそ、扱いは慎重にな。」


「心を映す、か……」


 俺はその言葉の意味を深く考えながら、騎士に礼を言って部屋を後にした。


 一方、ミカとカナエもメイドとしての所作を終えて戻ってきた。彼女たちの姿は、いつもより少し落ち着いていて、まるで貴族の令嬢のように見えた。


「どう? やまっち、私たちの新しい立ち振る舞いは?」


 ミカがふざけた様子で、つま先立ちをして俺の目の前で軽く回った。またぎこちないが、カーテシーを見せたが、何故か下着がギリギリ見えない程捲って俺をからかう。だが、俺が真っ赤になると、ちゃんとやってみせた。


「似合ってるよ、二人とも。ちゃんと習ったことが役に立つといいな。」


 俺はそう言って笑顔を返したが、実際のところ、王都に行くのはまだ少し不安があった。


 その夜、宿に戻った俺たちは、これからの旅について話し合った。


「明日、いよいよ王都に向かうんだな……」


「そうね。でも、この町での訓練も無駄じゃなかったと思う。少しでも自信がついたわ。」


 カナエが静かにそう言い、ミカも頷いた。


「私たちも、できる限りのことはやったよね。王都ではもっと大変かもしれないけど、何とかやっていけるはずだよ。」


「そうだな。俺たちはチームだ。どんな困難が待ち受けていても、一緒に乗り越えよう。」


 その言葉に、二人は笑顔を見せ、俺たちは明日に備えて眠りについた。


 翌朝、俺たちは町を後にし、王都へと向かう準備を整えた。剣の感触、そして二人の自信に満ちた姿を胸に、これからの試練に向けて、俺たちは一歩を踏み出した。


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