第45話 馬車に揺られるが
王都に向かう馬車の中で、俺はシルフィス様に生暖かい目で見られていた。理由はお察しの通りだ・・・
異世界の景色に夢中になって、まるで子供のようにはしゃぎ回っていたからだろう。馬車の窓から見える広大な風景に心が躍り、まるで初めての遠足のような気分だった。
「ちょっとやまっち、はしゃぎ過ぎよ!」
ミカが呆れた声を上げ、カナエも同じく眉をひそめていた。彼女たちの反応には正直、少し申し訳ないと思ったが、それでもどうしても抑えきれない興奮が込み上げてくる。これまでだって異世界の景色は見ていたが、いつも緊張感が漂う逃避行の最中だった。そんな状況で景色を楽しむ余裕なんてあるわけがなかった。
だが、今は違う。守られ、安全だと感じる中で、初めて異世界の景色を心から楽しめた。
「だってさ、これすごくねえか!?あの遠くに見える山脈とか、人工物が全然見当たらないんだぜ!」
俺は笑顔で2人に振り返ったが、ミカもカナエも呆れた顔で俺を見ている。だが、俺にはそんな彼女たちの反応も気にならなかった。俺の心は既に目の前に広がる異世界の光景に釘付けだった。
馬車の中は女性ばかりで、の男が俺1人なのもあり、気まずくて景色を見ていた。
実際のところ、俺たちはシルフィス王女の付き人や家来に扮して王都に向かっている。表向きにはシルフィス様が一行のトップだが、実際のリーダーは俺だ。対外的には彼女に仕え、彼女が指揮を執っているように見せかけているが、実際の指示や計画は俺が立てる。
だが、王都に向かう旅については、シルフィスの配下の騎士が仕切っている。俺は護衛として馬車の中でくっちゃべり、シルフィス様から国の現状を聞かされる。何もやることがないから暇で、景色を見たり話を聞いたりしていた。
「山田様、聞いていますか?」
時折、シルフィスが咳払いをしながら穏やかだが苛立ちを感じるように注意してくる。そのたびに、ミカがため息を付く。
「やまっち、また怒られてるよ」
ミカのからかいにカナエからも怒られる。
「シルフィスさんが一生懸命に話してるのに・・・」
一方、エライニスはといえば、俺にひたすら世話を焼こうとしていた。何度も「お疲れでしょう、山田様。お菓子をどうぞ」と言っては、お菓子を差し出してくる。しかも、それを
「アーン」と口に入れてくれようとするのだ。
「いや、そんなことしなくていいよ! 自分で食べられるから!」
俺が慌てて断ろうとするが、エライニスは引き下がらない。結局、俺が自分で食べようとしたお菓子を手から取られ、「アーン」とさせられそうになったところで、カナエがそのお菓子を取り上げた。
「やまっちに何してんのよ!」
ミカもすかさず文句を言い、カナエが続ける。
「エライニスさん、それは私たちがやりますから」
2人共鋭い目つきでエライニスを睨んだ。
その二人の言葉に、エライニスは一瞬怯んだが、すぐににっこり笑い、手を引っ込めた。
「失礼いたしました、カナエ、様ミカ様。山田様、どうぞご自由にお召し上がりください。」
彼女は何事もなかったかのように笑顔を浮かべているが、ミカとカナエはまだ不機嫌そうだった。そんな様子に、俺は少し居心地が悪く感じながらも、2人が自分のことを気にかけてくれていることに、ほんの少しの嬉しさを感じていた。
「ありがとう、エライニス。でも、本当に自分で食べられるから、大丈夫だよ。」
そう言って俺はお菓子を口に入れ、景色に再び目を向けた。
馬車はゆっくりと進み続け、窓の外には次々と新しい景色が広がっていく。遠くに見える山々は青く霞み、近くの草原には色とりどりの花が咲き乱れている。風が吹くたびに花びらが舞い上がり、まるで自然が歓迎してくれているかのようだった。
「やっぱり、異世界ってすごいなぁ…」
俺はつぶやきながら、再び窓の外に目を向けた。馬車の中は静かで、聞こえるのは馬の蹄の音と風の音だけだった。そんな中で、俺は心からこの瞬間を楽しんでいた。
エライニスは、気にするなと言っても、贖罪しようとする姿は変わらず、痛いほどだった。
あの時のエライニスと、今のエライニスが同じ人物とは思えないほどの違いに戸惑う。確かに髪型とかで印象は変わるが、あの時俺を嵌めた張本人に間違いない。女ってわからない・・・どちらが演技なのだろうか?
シルフィス様からは今宵エライニスを寝所に・・・と言われたので、拒否したが、それがエライニスができる贖罪と言っていた。
別に贖罪はもういらないが、贖罪した感を出す何かを求めるというか、お願いしないとずっとこうなんだろな・・・
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