第5話 放逐

 俺はメイドを騙して部屋に連れ込むと、無理やり行為を迫った、つまり強姦しようとしたと非難された。

 この国では強姦は死刑だが、召喚者である俺は不本意ながら追放で済ますと一方的に宣言した。


 騒ぎを聞きつけたクラスメイトたちが次々と俺が拘束されている会議室に集まり、俺をゴミを見るような目で見た。町の外、つまり魔物がいる防壁の外に、着の身着のままで放り出されることになった。


「待ってくれ!僕はやっていない!これは冤罪だ、罠だ!そんなことする訳ないだろ!皆、信じてくれ!」


 クラスメイトに向かって叫んだが、彼らは「やっぱりな」とか「犯罪者は死ね」とか、「女の敵だ」と罵った。普段庇ってくれる委員長も俺と目を合わせようとしなかった。


「三郎君のことを信じたいけど、現行犯じゃどうにもならないの。ごめんなさい」


 最後の望みである委員長からも信じてもらえず、再び猿ぐつわをされて屈強な兵士に担がれて運ばれていく。絶望に打ちひしがれ、抵抗する気力が失せて動けなかった。


 どれくらいの時間運ばれただろうか?引きずられたり担がれたりしたりと、乱暴に運ばれていた。

 そして最後は担がれており、突然落下感があり次の瞬間ドサリと地面に打ち付けられた。

 着の身着のまま、魔物の生息圏である防壁の外に文字通り放り出されたのだ。


 俺を引きずって来た兵士たちを指揮している騎士が、ナイフを手に取ると乱暴にロープを切った。


「くずが!」


 騎士は怒鳴りながら俺は背中を蹴り飛ばした。

 それにより俺は無様に倒れ、地面を無様に転がって這った。そして俺に向かってつばを吐くと、門番に門を閉めさせた。


「こいつが来ても絶対に入れるな!貴様、処刑されないだけありがたく思え!もし王都に戻ったら問答無用に投獄するからな!」


 門番に念を押していた。俺がこの後この町へ入ろうとしたら、問答無用で牢に閉じ込めるとも言われ、俺は1人閉ざされた門の前で途方に暮れた。右も左も分からず、いきなり窮地に立たされたが、この場に留まっても仕方がないので、町から離れるべくその場を後にした。


 暫く街道を歩き、視界から門が消えたとき、俺は【安全地帯】を発動させ、現れた扉を開いて中に入ろうとした。


 暗い夜中に山道を1人で外をうろつくのは、例え平和な日本であっても自殺行為だ。ましてやここは異世界、何が出て何が起こるかわからない。


 多分ほとんどの者が寝静まる時間だというのもあり、辺りは暗く、不気味に見えた。

 月明かりから遠くの山の稜線がなんとなく見え、鳥や獣の唸る声が不安を掻き立てる。

 取り敢えず明るくなるまでやり過ごすことにした。


 しかし、安全地帯を出して扉を開けて中に入ろうとした瞬間、突然背中に鋭い痛みを覚え、安全地帯の中へと吹き飛ばされた。


 えっ?と唸りながら振り向くと、そこには額から角を生やした1体の獣がいた。


 城で支給された剣を安全地帯に入れていたが、たまたま吹き飛ばされたのが剣があったところだった。

 手に剣が触れた瞬間、無我夢中になり剣を手に取り、両手で握って構えた直後、ぐさりとした鈍く嫌な感触が手に伝わってきた。


 たまたま獣が飛びかかってきたところに、俺が構えた剣先があった。

 そして、向こうから来たよ!となって倒すことが出来たのであり、俺の実力ではなく運が良かっただけだ。


 とりあえず蹴り出す形で、覆いかぶさっている獣を払いのけると、痛む体にむち打って起き上がると、安全地帯の扉を閉めた。


 この時怪我を負っていたのだが、アドレナリンがドバドバと出ており、深刻さを感じるほどの痛みを感じていなかった。


 色々な意味で震えながらも、死体を脇に置くと現状を確認し始めた。


 城にて割与えられた客室の中でざっとスキルを検証していたが、俺の安全地帯、つまり部屋というか異空間の大きさは、一辺が3メートルほどの立方体のようだった。その中に物を置いて自分だけ外に出ても、中の物はそのまま残り、単なる異空間収納としても使える。


 それもあり、学生服や支度金、支給されたこの世界での普通の服は安全地帯に入れついたこともあり手元に残っていた。


 幸いなことにブーツもある。

 今の俺が身に着けているのは部屋履きだが、裸足とは大違いだ。それでも石を踏んだのか足が痛い。

 おまけに打ち付けたからか、獣にやられたのか背中がかなり痛い。


 痛みなのか、この理不尽な状況なのか自分でも分からないけど、泣きたくなるのを抑え、今は先程とは違い必死に能力の把握に努めなければならなくなった。


【安全地帯】は現実のエリアで入り口を作り、中に入って同じ位置に出口を作ると、入り口と同じ位置に扉が現れる。しかし、出口を別の壁面に設定すると、入り口から同じ距離だけ離れた位置に出口が形成される。


 つまり厚さ3m以内の壁であれば壁抜けができるということだ。

 

 これは戦闘中に敵に囲まれた場合、3メートル四方の範囲内であれば、別の場所に逃げ道を作ることができるということだ。ただし、敵に完全に囲まれてしまった場合は、敵が去るまで安全地帯の中に留まる必要がある。


 注意すべきことは、扉を閉めれば大丈夫だが、扉が開いている限り、殺意剥き出しの相手でも入ることが可能だということだ。それは先ほど身を持って経験した。


 壁の外、つまり町の外には魔物が潜んでいると聞いてるから、安全を期すために明るくなるまでこの安全地帯で過ごすことにした。

 と言うか、聞いていたのではなく、実際に襲われた。


 これからの生存のために、まだ割り振っていないポイントやステータスについて深く考え、どのように割り振るかを決める必要がある。

 痛いだの不安だのと、泣き言を言っている暇はない。


 スキルの検証も必要だ。

 例えばクールタイムや回数制限があるのか?

 安全なところでないと怖くて試すことができないが、外にいる時に安全地帯を一度閉じると、次に出せるのがどれくらい後なのかは、かなり大事というか、知らないと命取りになる。


 さて、何から手を付けるか?どうするかな?と頭を捻った。

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