第40話 女子の話し合い

 ギルドマスターの執務室の中で、シルフィス、ミカ、カナエの3人が向かい合って座っている。そこには部屋の主はいない。

 そしてシルフィスは冷静な表情を保ちながら、慎重に言葉を選んでいる。


「山田様を私の夫として迎え入れることについて、お2人のご意見を伺いたいのですが」


 シルフィスが言葉を切り出す。


 ミカとカナエは一瞬目を見合わせた後、ミカが口を開いた。「どういうつもりなの?」


 シルフィスは一瞬ためらったが、続けた。


「あなたたちの立場も尊重しつつ、山田様を我が国の王族として迎え入れるために、彼を私の夫に迎えようと思います。そして、あなたたちには第二夫人として…」


 カナエがすぐに反応し、話を遮った。


「そんなの絶対に嫌です!私たちの世界では、一人の男性は一人の女性と結婚するものです。そんな考え、到底受け入れられません!」


 シルフィスは落ち着いて答えた。「この国の伝統では、一夫多妻制が一般的です。私の父である国王も、6人の妻を持っています。結婚は政治的な安定のための手段であり、婚姻に愛はなく、子作りの義務から肌を重ねるだけです」


 ミカが疑問をぶつけた。


「愛はないの?愛のない結婚なんて意味がないわ。」


 シルフィスは一瞬の沈黙の後、静かに答えた。


「王族として生まれた私にとって、結婚に愛は必要ありません。愛は…後宮で知るものでしょうか。」


 その言葉を聞いた瞬間、ミカとカナエの目に戸惑いが浮かんだ。ミカは言葉を選びながら続けた。


「そんなの、やまっちが知ったらどう思うか…。彼はそんなことを喜ぶような人じゃない。」


 カナエも頷いて同意した。


「そうよ。やまっちはきっと、そんな話を聞いたら逃げ出すわ。」


 シルフィスは困惑した表情で二人を見つめた。


「逃げる?男性にとっては魅力的な話ではないのですか?」


 ミカはため息をつきながら答えた。


「いいえ、そうじゃないの。やまっちはそんなことを望んでいるわけじゃないの。多分そんな話をしたらこの国を逃げ出すわよ」


 シルフィスは少し考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。


「わかりました。では、彼にその話はしないことにします。」


 カナエがすぐに続けた。


「それが賢明な判断ね。私ももし彼がその話を聞いたら、間違いなくこの国から逃げると思うわ」


 シルフィスは渋々ながらも納得した様子で頷いた。


「わかりました。山田様にはその話はいたしません。」


 ミカとカナエは少し安心した表情を浮かべた。彼女たちはやまっちのことを大切に思っているため、シルフィスの提案に懸念を抱いていたが、彼女が理解を示してくれたことに少しだけ安心した。


「でも、どうしてもやまっちを夫にしたい理由は何?」


 カナエが問いかける。


 シルフィスは真剣な表情で答えた。「それは、私の姉がこの国を支配しようとしているからです。彼女を止めるためには、山田様の力が必要なのです。そして、今の私には彼を王族として迎え入れること位しか、対価として出来ることはないでしょう。」


 ミカが少し考えた後、尋ねた。


「それで、もしやまっちが断ったらどうするつもり?」


 シルフィスは少し微笑んで答えた。


「その時は、お二人と協力して別の方法を考えます。私は決して強引に事を進めるつもりはありません。」


 カナエはシルフィスの言葉を聞いて少し安心したように見えた。


「そう、ならいいわ。私たちもやまっちのことを大切に思っているから。」


 ミカも頷きながら言った。


「やまっちは私たちの大切な人だからね。彼が一番望むことを考えてあげたい。」


 シルフィスは深く頷き、真剣な表情で二人を見つめた。


「わかりました。では、私も全力で協力します。」


 ミカとカナエはシルフィスに目を向け、少し安心した様子で頷いた。彼女たちはこの新しい同盟がうまくいくことを願いながら、山田の元に戻ることを決意した。


「それからもう一つ。」


 カナエが声を潜めて言った。


「やまっちには、貴女を第一夫人、私たちを第二夫人にするなんて話は絶対にしないこと。そんな話を聞いたら、彼、間違いなくこの国から逃げるわよ。」


 シルフィスは困惑した表情で言った。


「どうして?男性には魅力的な話ではないのですか?」


 ミカがにやりと笑って言った。


「やまっちはそんなことを望んでいるわけじゃないの。それが私たちのやまっちなの。」




「わかりました。その話は絶対にいたしません。」


 シルフィスは納得した様子で頷くと約束した。


 3人の女性は、山田のために最善の道を模索しながら、これからの未来に向けて新たな一歩を踏み出すことに決めたのだった。

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