第35話 シルフィス動く

 シルフィスは城の広い廊下を歩きながら、心の中で思いを巡らせていた。山田の行方を追っている隠密の部下からの報告を待ちわびている。リリアナとの緊張感あふれる会話を終えたばかりだが、彼女には別の計画があった。

 山田がまだ生きている可能性がある以上、彼を無視するわけにはいかなかった。


 やがて、彼女の元に1人の女性が静かに近づいてきた。隠密のひとりで、長い黒髪を風になびかせながら、跪いて頭を下げる。


「お嬢様..・・・」


「どうしたの?」


 シルフィスは優雅に身をかがめ、部下に視線を合わせる。


「山田とみられる者の足取りを掴みました。彼は現在、王都から半日ほど行ったゴンドリヤの町にいます。そして、どうやら例の2人、カナエとミカと冒険者パーティーを組んでいるようです。」


 シルフィスの表情が一瞬硬くなる。


「カナエとミカが・・・? 本当に、山田と一緒なの?」


「はい、間違いありません。彼らは髪の色を変える程度の簡単な変装で、そのまま冒険者として活動しています。山田は、どうやったのか分かりませんが、身長も体格も以前とはまるで違います。しかし、顔立ちは痩せたらこうなるだろうと思われるもので、ほぼ間違いなく山田だと思われます。」


 シルフィスは考え込むように視線を遠くに向けた。


「なるほど・・・山田が生きていることは分かっては居ましたが、彼が2人を連れて冒険者になっているとは。でも、どうやって?」


 隠密の女性は続けて報告する。


「しかし、彼らはお金が尽きたようで、冒険者として魔石などを換金しています。ゴンドリヤの町でしばらく活動するつもりのようです。」


 シルフィスは少し微笑んで、


「彼は生き抜く力があるようね。追放された後でも、何とかして生き延びる方法を見つけたというわけね。」


「お嬢様、どうなさいますか?」


 隠密の女性が尋ねる。


 シルフィスはしばらく考え込んだ後、決意を込めた表情で答えた。


「私も行きますわよ。山田と話をしなければならない。彼が何を考えているのか、そしてカナエとミカがどうして一緒にいるのか、それを知る必要があるわ。2人に対し同接しているか、それにより私の対応も変わります」


 彼女の護衛や腹心たちも、すでに準備を整えていた。シルフィスは彼女らに向かって命令を出した。


「皆、準備をして。ゴンドリヤの町に向かうわよ。」


「はい、お嬢様!」


 護衛たちは一斉に応じ、迅速に動き始めた。


 シルフィスは再び隠密の女性に目を向けた。


「彼らがどこにいるか、正確な場所を把握しておいて。私が到着したらすぐに知らせてちょうだい。」


「かしこまりました。」


 隠密の女性は深く頭を下げて、迅速にその場を去っていった。


 シルフィスは再び考え込むようにして窓の外を見つめた。彼女の心には山田たちがどんな状況にあるのか、そして彼らがこの国に何をもたらすのかという疑問が渦巻いていた。


「山田・・・あなたはまだ生きているのね。そして、私がここにいることを知っているのかしら?知るわけないわよね。見たことすらないし、第何王女までいるのかすら知らない間に放逐されたのでしたわね」


 彼女の瞳には、決意と少しの不安が混じっていた。しかし、それでも彼女は立ち上がり、自らの意志を貫くために動き出すことを決意した。


「行きましょう、私たちの運命がどこに導かれるのかを確かめるために。」


 彼女は足早に部屋を出て、護衛たちと共にゴンドリヤの町へと向かった。そこには山田とカナエ、ミカとの新たな出会いが待っているはずだが、吉と出るのか凶とでるのか、まだわからなかった。

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