第16話 呼び名
安全地帯の中に入ると、荷物が乱雑に置かれていた。正確には転がっていた。買い物した物がそのままで、しかも急いでいたから文字通り放り込んでいたからだ。
安全地帯の様子を見回しながら、俺はため息をついた。
「とりあえず今日はこのままここで過ごそうか。2人とも黙ってついてきてくれてありがとうな。それと、ざっくりと2人の知りたいことを話すよ。」
美佳は腕を組んで俺を見つめた。
「本当にいろいろと知りたいわね。でもまず、なんでこんなに痩せたの?」
佳苗も頷くが、まず知りたいのはそこかと少し驚く。女性にとってスタイルが大事なのか?美佳の質問に俺は少し考えた後、続きを話し始めた。
「その前に、まずはこれを話さないとな。メイドによる自作自演の話だ。俺は嵌められたんだ。」
美佳はため息をつきながら、俺に言った。
「そんなの分かっているわよ。あんたがそんなことできるわけないでしょ?それに、あんな感じの女が好みなわけ?だったら趣味悪いわよ!」
「いや、全然好みじゃないんだ。俺は嵌められただけだ。」
「だからそれは分かっているって言ったじゃん。あんたにおっぱい触ってもいいよと言っても、恥ずかしがって触れないに決まっているわ。それよりも、なんで嵌められたの?まさか何かやったわけ?」
佳苗は神妙な表情で俺を見つめ、涙ぐみながら言った。
「ごめんなさい。その、信じてあげられなくてごめんなさい・・・あの時は・・・」
カナエが土下座して謝りそうになったのを見て、俺は慌てて止めた。
「佳苗やめてくれ。精神に対して状態異常をかけられていたんだから仕方がないよ。君のせいじゃないんだ。気にしないで」
佳苗は涙を拭いながら、頷いた。
「ありがとう、山田君・・・」
美佳が腕を組んだまま、鋭い目で俺を見た。
「で、なんでそんなことになったのか話しなさいよ!」
俺は深呼吸をし、説明を続けた。
「召喚直後に状態異常に対する耐性を得られるスキルを取ったから、精神支配が効かなかったんだ。王に忠誠を誓えばこの体を好きにしてもよいと言われたけど、もちろん断ったよ。そうしたら、あの変態女が自分の服を破って悲鳴を上げたんだ。」
美佳は少し驚いた表情を見せた。
「なるほどね・・・そっか。私は風呂に入っていたから翌日までその騒ぎのこと知らなかったんだよね。それで嵌められたのね。まあそれは分かったけど、それよりもさ、そのスキルを取ったって何なのよ?」
俺は頷いた。
「それだけど、先に痩せた理由を話さないとなんだ・・・実は召喚直後にスキルを見ていたら体重を操作できることが分かったんだ。体重をポイントに変換できるんだけど、ステータスにある体重を詳しく見ていたら、たまたま触れられたんだ。2人にはできない?」
美佳は俺に疑いの目を向けた。
「本当に?じゃあ試して見るわよ。」
しばらくの静寂の後、美佳が口を開いた。
「確かにステータスの中に体重が有るわね。でも体重なんて触れないわよ。佳苗はどう?」
「私も美佳ちゃんと同じね。」
「だ・か・ら!私のことは美佳って呼んでって言ったでしょ!」
「うん。じゃあ美佳って呼ぶわ。」
「素直でよろしい!で、ヤマピーなら私たちの体重を触れるんじゃないの?何かヤマピーはしっくりこないな。やまっちね!ならさ、やまっちが出来るなら私も少し体重を減らして欲しいんだ!」
「美佳のどこに減らす体重があるんだよ。って説明の後で試そうか。取り敢えず続きだけど、体重を減らして得たポイントを使えばステータスを増やせられるんだ。筋力や敏捷などを増やすことができ、身長も増やすこともできたんだ。それとスキルも取得することができるんだ。」
俺は美佳に手を差し出した。
「まあとりあえず手を握って」
そう言うと躊躇わずに手を差し出してきたので、俺は深呼吸をしてから美佳の手を握った。
しかし、体重操作と念じるもできなく、頭をくっつけなければできないと頭の中にメッセージが聞こえた気がする。
「手ではできないようだ。なんか頭の中に俺の額に相手の額を合わせないと駄目だって聞こえてきたんだ。試してみるか?大丈夫そうならくっつけてみてくれないか?」
美佳は少し照れながらも、額を俺の額に近付けた。
「もしやろうとしても止められないけどさ、そのままキスしたら怒るからね!まだ誰にもこの唇を許したことないんだからね!」
俺は集中して試す・・・あかん、いらないことを言うもんだから集中できない。唇に意識がいく。このまま数センチ顔を押し込むと、彼女のファーストキスを・・・・駄目だ、真面目に・・・集中しないと・・・意外だったな。交際も派手かと思ったら、奥手なんだな・・・よし、成功した。
「どう?2キロ減ったと思うけど?」
美佳は驚きの表情で自分の体を触りながら言った。
「本当に減ったわ・・・!お腹凹んでるわよ!やまっち、すごいじゃない!佳苗もやってもらったら?」
佳苗も興味津々で見つめていた。
「私も試してみたいわ!私も美佳と同じ2キロでお願いします」
佳苗も躊躇わず、美佳と同じように額をくっつけてくれた。お互い恥ずかそうにしていて、やはり唇が気になるも、やることをやらねばと集中した。
そして佳苗の体重も2キロ減らすことに成功した。
「終わったよ」
そう告げると、佳苗も驚きと感動で目を輝かせた。
「すごい・・・本当にすごいわ!」
美佳は少し頬を赤らめながらも、嬉しそうに言った。
「まあ、認めてあげるわ。あんたのこと、少しだけ信じるわ。でも調子に乗って変なことしたら許さないんだからね!」
俺は微笑みながら頷いた。
「分かっているよ。美佳、これからも協力していこうな。後で、今得たポイントについて話すよ」
こうして、俺たちは安全地帯で一夜を過ごす準備を整えた。これからの旅路は厳しいだろうが、仲間がいることで心強く感じられた。
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