第17話 安全地帯で休む

 取り敢えず落ち着かないので、先ほど買った荷物を脇に押し退けて座った。


「やっぱりここって不思議なスペースね。でもね、散らかりすぎじゃないかしら?」


 佳苗が首をかしげた。


「あははは。まあ、慌てて買った物を放り込んだだけだからね。片付けはこれからかな」


 俺は照れ笑いを浮かべながら答えた。


「ねえ山田君、私がお片付けしようか?こう見えても得意なのよ。」


 佳苗の提案に俺は驚いた顔をしたが、整理整頓、掃除は得意そうに見える。


「ちょ、佳苗、山田くんって硬い硬い!山田くんじゃなくてさ、やまっちだよ!やまっち!」


 美佳が笑いながら指摘した。


「じゃ、じゃあやまっち、一度お片付けしない?」


 佳苗が改めて言うと、俺は少し恥ずかしそうに頷いた。


「う、うん。佳苗、お願いします!」


 佳苗は手際よく、ものの1分で散らかっていた荷物を整理してしまった。


「うわっ!佳苗すごい!お嫁さんにしたい!」


 美佳は感嘆の声を上げると、佳苗に抱きつき、頬ずりを始めた。


「キャー!」


 佳苗は悲鳴を上げた。


『尊い!尊いです!』


 俺は美少女2人がじゃれ合う姿についつい呟きつつ、美佳の襟首を掴んで引き剥がした。


「美佳、佳苗が困っているよ!」


 美佳は俺を見てあっかんべ~をしたが、うん、可愛い・・・


「あっ!お腹すいた!ねえ、やまっち、何か食べ物ないの?アタシこのままだとお腹すいて倒れちゃうよ!」


 美佳が声を上げた。


「あっ!私たち食べ物持ってきていないわ!どうしよう?」


 佳苗は困った顔をした。


 俺はフッフッフッと笑みを浮かべながら1つの袋を開け、中から豆などの乾物や干し肉、根菜類を取り出して見せた。


「保存食中心だけど、取り敢えず食べ物というか、食材自体はあるよ」


 隣の袋から根菜を出して見せた。


「うーん、これでどうにかできるかな?うん、あれにしよう!」


 佳苗が言いながら、乾物を見つめた。


「この乾物を使って、何か美味しいもの作れるかな?」


「やってみるしかないね」


 俺の問いに美佳も頷き、主に美佳が即席の食材で料理を始めた。


「佳苗、火の管理はお願いね。私が料理するから。」


「わかったわ、火のことは任せて。」


 佳苗は乾物を水で戻し、美佳は火を起こして鍋を準備し、俺は調味料を取り出して調理を手伝った。実は、美佳は料理が得意で、調理師を目指していたのだ。


 水は佳苗が生活魔法を習得していて何とか確保し、安全地帯のドアを開けてそこで拾った木に火をつけ、俺が鍋を持って火にかけていた。


「意外と美味しそうじゃない?」


 美佳が言うと、佳苗も頷いた。


「うん、これならいけるかも!」


「それなら良かった。しばらくはこれで凌ぐしかないからね」


 俺は安心して笑顔を見せた。

 俺たち3人は鍋の中の料理が煮える様子を見守りながら、次第に緊張が解け、笑顔が溢れた。


「キャンプって大変だけど、こうやって協力すると楽しいね」


 俺が言うと、佳苗も美佳も同意した。


「そうだね。これもいい思い出になるよ」


 佳苗が微笑んだが、俺たち3人は自然の中で過ごす時間を楽しみ、友情を深めることができた。

 と言っても、安全地帯の入口前でのことだけどね。いざとなったら安全地帯の中に逃げ込めるようにしていたんだ。

 食事もお互いに感謝しあってキャンプのノリで美味しくいただいた。

 食事を終えた後、テントを出したが不思議がられた。


「えっとこのテントの中で体を拭いてね。それとトイレだけど、外で用を足すのは危険なのと嫌だよね?恥ずかしいかもだけど、テントの中で桶に用を足し、蓋をして外に捨てる感じかな。水はなんとかなるもんね」


 テントの中で体を拭いてもらう。その間俺はどちらかと話をする感じにしたが、早速美佳がからかってきた。


「やまっちが背中を拭いてくれるの?!」


「ば、ばか!なに言ってんだよ!」


「だって背中さ、1人じゃ洗えないに決まっているでしょ!」


「なら私が拭く?」


「ダメダメ。やまっちじゃなきゃ意味ないよ!」


「あううう」


「もう美佳、やまっちをいじめないの。頭から湯気でてるわよ!」


 その後、俺たちはそれぞれ寝る準備を始めた。美佳が毛布を取り出し、佳苗もその隣で準備をする。


「ねえ、やまっち。これからの旅、どうするつもりなの?」


 美佳が俺に問いかけた。


「そうだな。まずはこの安全地帯で体を休めてから、次の目的地を考えようと思っている。しばらくは歩きながら様子を見たり情報を集めたり、スキルの訓練をしたりしようかな。明日になればある程度疲れが取れていると思うか、ステータスについて色々やろう!今話しても頭に入らないと思うからね」


 俺は真剣な顔で答えた。


「スキルの訓練か・・・私たちも何かできることを見つけたいわね」


 佳苗が意欲的に言った。


「そうだな。みんなで協力して、少しずつ前に進もしかないよね」


「アタシさ、馬鹿だからやまっちに任せるわ!」


 俺は力強く言いながら、彼女たちに微笑んだ。


 こうして、俺たちは安全地帯での一夜を過ごすことになった。明日からの新たな挑戦に向けて、心の準備を整えながら眠りについた。旅路は厳しいだろうが、仲間と共に歩むことで、俺は心強く感じていた。

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