第11話 夏のダンジョン
今回の話には、地震などの描写が少しだけですがあります。
苦手な方は読み飛ばしても大丈夫な話ですので、遠慮なく読み飛ばしてください。
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ダンジョンスクールに夏休みはない。
皆できる限り速くダンジョンアタッカーになりたいと考えているような人ばかりだから、むしろ夏休みを導入したら、抗議が殺到するだろう。
今の季節は夏。
ぼくらは夏にふさわしい、水辺のダンジョンに来ていた。
「良いですか?順番に、ゆっくり入っていってください。パニックにならないように」
水辺のダンジョンは入口が水に沈んでいる。
そこを潜って、中に進んでいくのだ。
潜る、といっても、少し顔をつける程度。
すぐに空気のある、ダンジョン内に出る。
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一部の上級ダンジョンだと、ダンジョン全部が水の中のところもあるらしい。
それに比べればどうってことはない。
水に潜ってダンジョン内に入った。
「全員揃ってますか?各グループ確認してください」
誰かが溺れていたり、迷子になるといけないので、点呼を取る。
どうやら全員揃っているようで、点呼が終わると進み出す。
ダンジョン内は暗く、天井から時折、水滴が垂れてきた。
更にひんやりしていて、体が濡れていることもあって、少し涼しく感じる。
防水性の暖かい服を着ているのが救いか。
中までは濡れていない。
少し進むとまた水没した通路がある。
水中にモンスターがいないか、皆で注意深く探してから、水の中に入った。
今度の深さはお腹辺りまで。
ジャブジャブとお腹で水をかきながら進む。
水から上がると点呼。
点呼しているところでモンスターが襲ってきたので、先生がそれを倒した。
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ちなみにこのダンジョンは学校内のダンジョンではない。
キシャレ街から少し離れたところにある、初級ダンジョンである。
この前、晴れて、初級試験に皆合格したので、満を持して、ダンジョンでの実地学習が始まったのだ。
初級試験は、簡単なものだった。
昨今のダンジョンアタッカーを増やしたいという、国の方針も関係しているのかもしれない。
ひとりで3階層ダンジョンに潜れるぐらいの力があれば、余裕を持って取れる程度で、みんなその程度の力はつけてきていた。
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それからしばらくして、3階層の一番奥に辿り着く。
「わぁ!」
皆が感嘆の声を上げる。
ライトで照らされた壁や天井が薄く光り、その概形が絶景を作り出していた。
「どうですか。皆さん。綺麗でしょう」
先生が言った。
「ここ、ミズノダンジョンはしばしば絶景が見られることで有名なのです」
「私が今日、皆さんをここに連れてきたのは、この景色を見てほしかったから。ダンジョン攻略は大変なものです。時に怪我をして、時に命を落とす。それでも、苦労した先には、このような喜びがあることもあります。それを忘れないでください」
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それからしばらく、絶景を堪能し、帰ろうとした時にそれは起こった。
ゴォーと、低い音が鳴り出し、地面が振動する。
地震?
そう考える間もなく、2階層の方から水が流れてきて、
「皆さん、水に備えて...」
先生の言葉が途切れる。
水に飲み込まれ、流される。
無我夢中で近くの岩につかまって...
水の流れが落ち着くとぼくは水面に顔を出した。
天井に手が届きそうだ。
他にも、何人かの生徒が浮かんでいる。
先生もいた。
「こっちだ!」
護衛のダンジョンアタッカーの人が、まだ沈んでいない陸地から叫んでいる。
ぼくはなんとか、そちらにたどり着いた。
既に陸地に上がっていた、トラトスが手を貸してくれたので、その手を握って、陸に上がった。
その時、もうひとりのダンジョンアタッカーの方が、水面から一人の生徒を抱えて顔を出す。
救助に行っていたのだ。
ぼくもこんなところでゆっくりしている場合じゃない。
そう思って、救助に行こうとしたが、ダンジョンアタッカーの方に止められる。
「素人が来るのは危険だ」
その通りである。
ぼくは自分の無力さを実感した。
ーーー
「どうして急に、こんなことが起こったんでしょう?」
奇跡的に、いや、ダンジョンアタッカーの方のおかげで全員が揃った後、先生が聞いた。
「わかりません。僕もこんなこと初めてです」
「...この後はどうします?」
「とりあえずぼくが、外の様子を見てきますので、皆さんはここで休んでいてください」
「...わかりました。お願いします」
ーーー
ダンジョンアタッカーの方が出ていってから。
皆で持ってきた食料を少しだけ食べる。
「おいしい...」
誰かが呟いた。
それからは無言で、ダンジョンアタッカーの方の帰りを待つ。
ポタ、ポタ、と水の滴る音を何度も聞いて、
もしかして、このまま、帰ってこないんじゃないか。
そんな心配が頭をよぎった。
と、そのとき。
心配とは裏腹に、誰かが戻ってきた。
水面から誰かが顔を出す。
「救助が来たぞ」
それは外の様子を見に行ってくれた、ダンジョンアタッカーの方と、それに着いてきた救助の方だった。
ぼくらは、救助の方に連れられて、外に出る。
どうやら今回のことは、地震によって外の水が入り込んできたことで起こったらしかった。
外の水はすっかりなくなって、湿った土だけが残っていた。
ーーー
ダンジョンの外に出て、誰かが呟く。
「もう夕方か...」
夕焼け色の空には、美しい夕日が浮かんでいた。
『時に怪我をして、時に命を落とす。
それでも、苦労した先には、このような喜びがあることもあります。』
そんな先生の言葉を思い出して、
ただただ夕日の綺麗さに、癒やされた。
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