第30話 初

 エイラムside


 今朝、またダンジョンが現れた。


 調査局の者が向かったらしい。


 これは一連の人工ダンジョン事件に関係があるのか、ないのか...


 次から次へと事が起こる。


 ーーーーー

 調査員side


 今日も新たなダンジョンが生まれた。


 最寄りにダンジョンがあったことがないことから、全く新しいダンジョンだと思われる。


「やはり今回のダンジョンは新しいタイプのようですね」

 ダンジョンに入ると、今年からウチに配属になった新人が言った。

 彼は少々自信過剰なところがあり、そこが心配だ。


「ああ。そのようだな」


 進んでいくと、ダンジョンの床の材質が変わっていった。


「これは...地面が木なのか?」

 おれは呟く。


「そうでしょうね。これは間違いなく木だ」


 新人がそう言うのを横目に、おれは地面に棒を叩きつける。


 バキ!と音がして、木が割れた。

 そこから下が見える。


 下は140cmほど隙間があって、その先に岩肌が見えた。


「こりゃ、ダンジョンの上に床を敷いたって感じだな...この木は資源として使えるかもしれない。報告書に書いておこう」


「了解です」

 新人が報告書に書き込み始める。


 おれは新人の手を掴み、引っ張った。


 新人がこちらに引き寄せられ、たたらを踏む。


「何ですか?急に?」


「よく見ろ」

 新人がそちらを見ると、丁度彼がさっきまでいた床から槍が突き出されていた。


「槍...?」


「そう。槍だ。どうやらこの下に何かいるらしい」


「なるほど。これも報告書に書いておきます」

 新人は飄々として言った。

 先ほど槍に突き刺されかけたのに、なんて呑気なやつだ。


「ああ。そうしてくれ」

 そう言いながら、おれは床を叩き壊す。

 そして、床下に降りた。


「さーて、何がいるかな...?」

 槍の方を見ると、そこにはゴブリンがいた。


「ゴブリンか」

 そいつを倒すため、近づこうとすると、そのゴブリンの奥でもまた、何かが動いた。


 2匹目のゴブリン。いや、3,4...もっといそうだ。


「...こりゃ、ちょっと分が悪い」


 丁度その時、タイミングよく、新人がおれの降りてきた穴から顔を出す。


「大丈夫そうですか?」


「いや、駄目そうだ。ゴブリンがいっぱいいる。とりあえずそっちに戻る」


 おれは新人の手を借りて、上に戻る。


「ゴブリンぐらいなら大丈夫じゃ?」


「いや、床下の深さは丁度おれの肩ぐらいまで。対してゴブリン達は全身が入ってまだ余裕がある。場合によってはかなりきつい」


「そうですか。それも...?」


「ああ。報告書に書いておいてくれ」


「で、どうします?」

 報告書を書き終わった新人が、突き出てくる槍を避けながら聞いてきた。


「そうだな...とりあえず、上から一通り見て回ろう」


「了解です」


 ーーーー

 おれ達はぐるりと1階層を見て回り、また同じ場所に戻ってきた。


「1階層は...これだけか」

 おれが拍子抜けしたかのように言うと、新人が調子に乗って言った。


「まあ、一階層ですからね」


「そういう侮りは厳禁だぞ」


「わかってますよ」


 こいつは。本当に分かってるのか?


「...ん?ちょっと待て。さっき壊したのって、ここだったよな」


「!...そうですね」


 さっきは確かのここら辺の床板を壊したはずだが、その痕跡は現在、跡形もなくなっていた。


「なるほど...床板は再生すると。おい、それも」


「報告書に書いておきます」


 中々分かってきたじゃないか。


 ーーーーーー

 1階層の探索が終わり、おれ達は2階層に降りてきた。


「なんだ。ここ。行き止まりじゃねえか」

 階段を降りた先には何もなく、壁があるだけだった。

 どういうことだ...?

 何かのトラップか?


 おれが今までに見たことない状況に思考を巡らせていると、新人が言った。


「...いえ。少し見にくいですが、あっちの奥のほうが通れそうです」


 本当だ。あっちの方が空いている。

 こんなことも見逃すなんて、どうも、色々経験すると、初歩的なことを見落としがちになる。


「じゃ、行って...」

 いや、ちょっと待て?

 通れるようにしたなら、何故こんな作りにした?


 これこそまさにトラップじゃないか?


「ちょっと待て!」

 おれは奥に歩き出そうとした新人の首根っこを引っ張る。


 するとそれと同時に、床がぽっかりと空く。

 穴の底は見えない。

 かなり深い穴だ。


「ありがとうございます。助かりました」


「いや。それよりここをどうするか考えなきゃな」

 先ほどの穴は既に塞がっていたが、また通ろうとすると開くだろう。


「...そうですね。とりあえず範囲を確かめましょうか。石を投げてみましょう」

 そう言って新人が石を投げるが、何も反応はない。


「これは魔力に反応するパターンだな」


「...そうだ!上の階から床板を持ってくれば良いですよ」


「床板を?」

 別に床板でも反応しないと思うが...


「そうです。床板で、橋を作ればいいんですよ」


「...なるほど。お前、冴えてるな」


「よし、それで行こう。そうと決まれば床板を取りに戻るぞ」


「ええ。うんと長いのを取ってきましょう」


 ーーーー

 それからおれ達は床板を取って戻ってきた。

 長い板なので、運ぶのが大変だ。


「よし。そっち持って。あ、ごめん。ぶつかった」


 試行錯誤しながら、何とかできるだけ遠くまで通す。

 このトラップが魔力を感知しているなら、床板の上を通れば反応しないはずだが、どうか。


「いいか。落ちたらすぐに引っ張ってくれよ」


「了解です。任せてください」

 おれは身体にロープを巻き付けて、渡れるかどうか試す。


「よし、行くぞ...」

 橋のように敷いた床板の上に、右足をゆっくりと乗せる。


 ちょんっと乗せ、すぐに戻す。


 何も起こらない。


 今度はゆっくり、がっつり乗せ、そのまま。


 何も起こらない。


「よし」


 そのまま、左足も乗せ、ゆっくり進んでいく。


「いいぞ...」


 そのままおれは進み、やっと奥にたどり着きそうな時だった。


 おれが目的地としている、奥の壁の向こうから、モンスターが一匹、顔をのぞかせる。

 ゴブリンだ。


「おっと,,,これはまずい...」


 ゴブリンはおれを見ると、襲いかかってきた。


「引っ張れ!」

 おれは新人に指示する。


 その瞬間、モンスターが床板を掴む。

 そして、ひっくり返した。


「嘘だろ」

 おれの身体はロープに引っ張られ、後ろに引かれる。


 その瞬間落とし穴が作動し、おれは宙吊りになった。


「早く上に」

 そう言い終わるより前に、ゴブリンがおれに飛びかかってきた。


「くそっ」

 ロープは大きく揺れ、おれとゴブリンはもみ合う。


 ゴブリンがナイフを振り上げたので、その手を何とか抑える。


「レイナード。早く!」


 しかし、無慈悲にも落とし穴の蓋は閉まり、おれとゴブリンは奈落へと落ちた。


 ーーーー

「そんな...カインさん...」

 ひとり残された新人は、失意の声を漏らす。


「報告...しないと...」


 そして、そのことを報告するために、助けを呼ぶために、その場を後にするのだった。

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ダンジョン制作秘話 日山 夕也 @hiyama5

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