第29話 落とし穴
今回のダンジョンのテーマは、登るダンジョン、である。
ダンジョンとは地下にあるものだから、仕方のないことだが、
巷にあるダンジョンはどれも下に降りていくタイプばかり。
それは各階層に割り当てられるポイントも関係しているのだが、ぼくはそれをどうかと思っていた。
確かに、下に進んでいくダンジョンはわかりやすく、作りやすい。
ポイントの割り当ても、それを作ることを推奨している。
しかし、分かりやすいということは、ダンジョンを作りやすくしてくれると同時に、攻略もしやすくしていると思うのだ。
この前、ぼくが遠征で行ったハニーベアダンジョンは、まさにそれが顕著に現れていたように感じる。
ダンジョンは1階層から下に行くにつれて難しくなっていく作りだから、力の及ばないぼく達でも、その都度、撤退か、攻略か、自由に安全に選ぶことができた。
それでは攻略されるのは時間の問題だ、と思うのである。
実際、ぼく達も、段階を踏んで、経験を積みながら攻略することができた。
それを解消するための、登るダンジョンである。
登るダンジョンの作りはこうだ。
まず、1階層は入場ポイントを稼ぐために普通に作る。
2階層からが本番である。
2階層に入るとまず、落とし穴がある。
この落とし穴、引っかかったものを一つ下の階層に落とすというもので、下手したらダンジョン攻略の手助けをしかねない、諸刃の剣だが、その分安く使うことができる。
2階層に入って、ダンジョンアタッカー達はまず、落とし穴を通って、4階層まで行くことになるのだ。
4階層に落ちたダンジョンアタッカーは、階段というセーフティーエリアもなしに、いきなり4階層のモンスターと戦うことになる。
落とし穴は登れないので、撤退の選択肢もなくなる。
ここで問題となるのが、ダンジョンは一番下まで行けて、帰ってこれるように作らなければならないというルールである。
落とし穴を登ることはできないので、落とし穴とは別に、1階層に戻るルートを作らなければならない。
そこで階段を、1→2→(落とし穴)→4→2→3→5、とこの順番で階層が行き来できるようにつけた。
4階層からは2階層に登ることができ、2階層からは1階層から降りてきた階段で、上に戻ることができる。
ここで、ん?と引っかかることがないだろうか?
そう。2階層から1階層に、降りてきた階段から登ることができるということは、2階層では、4階層に落ちるを避けて、直接3階層への階段を目指すことも可能ということである。
一方通行の壁などがあればよかったのだが、そのようなものはなかった。
だから、頑張れば、4階層に行かずに、そのまま攻略が可能となってしまったのだ。
できる限り、落とし穴は避けられないように作ったが、それがどのくらい働いてくれるかは未知数である。
ーーーー
それをタヌキに提案したところ、いいねと快諾してくれたので、それでダンジョンを実際に作ってもらった。
そしてぼくは、そろそろ帰らなければならない。
家の前を張り込まれているかもしれないからだ。
その場合、ぼくが家にいないことがバレたら、夜中の内にどこかに抜け出していたことになり、ますます怪しまれる。
だから帰ることにした。
今は早朝。朝の4時である。
このダンジョンのファーストコンタクトが見れないのは、非常に残念だったが、録画しといてくれるそうなので、また今度見せてもらおう。
ーーーーーー
朝の4時半。家の前についた。辺りは少し明るくなり始めていた。
また窓から忍び込むことができるだろうか?
それとも、このまま6時ぐらいになるのを待って、商店街で買い物して帰ろうか。
張り込んでいる捜査員達に、あたかも、ぼくは普通に買い物に行って帰ってきただけですよと思わせるのだ。
ぼくが家を出ていくのを見逃しただけですよと、思わせるのだ。
いや、それは少し無理があるか。
普通に夜中から出かけていると思われて終わりかもしれない。
やっぱり忍び込むことにする。
家の窓が見えそうなところを少し探してみたが、それらしい人影は見当たらなかった。
表の方だけを見張っているのか。
わからないがぼくは勇気を出して窓から家に、忍び込んだ。
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