第14話 初陣

 翌朝、目覚めたぼくは、棚の中のポーションを見て、一息つく。


 あれは夢ではなかったのだ。

 そしてそれは確かに魔物寄せポーションだった。


 全く同じ色の、違うポーションがあるなら話は別だが...


 問題はどうしてあの女性がぼくにこのポーションを渡したかである。


 誰かに頼まれたとか言っていたが、どうなのか。


 ぼくにはその誰かに全く心当たりはないし、どうしてぼくが魔物寄せポーションを欲しがっていると分かったのかも謎である。


 何かの犯罪やトラブルに巻き込まれているのかもしれない。


 しかし。

 しかしである。


 どんなトラブルがあるにせよ、このポーションが違法なものにせよ...


 ぼくはダンジョンマスターになる。ただそれだけである。


 ーーーーーー


 後日。ついにダンジョンが完成した。


 もう秋になってしまったが、ついに完成した。


 もう魔物寄せポーションも撒いた。


 あとは効果が出るのを待つだけ。


 ぼくはソワソワしながら、学校に行った。


 あまりにソワソワしていたのか、クラスメイトに「なんかお前、今日楽しそうだな。」と言われるぐらいだった。


 その日は久しぶりに、すべての授業がとても長く感じて、何度も時計を見てしまうほどだった。


 学校が終わると、ぼくはすぐさま走って家に帰り、また走って、ダンジョンに向かった。

 近づくにつれ、ポーションの効果がしっかり出ていることが分かった。


 ダンジョンの周りには、溢れんばかりのモンスターが集まっていたからである。


 とにかくすごい数集まっていた。


 中に入るどころか、近づくにも骨が折れる、といった具合である。


 せっかく集まったモンスターをぼくが殺してしまうのももったいないので、ぼくはダンジョン寄合所に手紙を出すことにした。


「モンスターが溢れているので、もしかしたらダンジョンかも...」という手紙である。


 匿名のこの手紙を信じる者は少なかったが、ちょうど暇だった人達が、暇つぶしに来てくれることになった。


 ぼくもその中に紛れ込んだ。


 ーーーーーー


 ダンジョンマスターとしては、ダンジョンアタッカー達がぼくのダンジョンに対して、どういうアプローチをするのか、見ておきたいのである。


 行きの道中はとても和やかに進んだ。


 皆半信半疑、いや、ほとんど信じていない様子だった。


「ほう。カナタはスクールに通っているのか。おれもキシャレスクール卒だぜ。テレット先生ってまだいる?」

 ダンジョンに来てくれることになった人の内の一人、ニックが言った。


「テレット先生?いますよ。今は歴史とかそういうのを教えてくれてます。」


 すると、ニックの隣りにいたザックが話に入ってくる。

「あの先生、よく脱線するだろ。でも結構参考になるから、聞いておいたほうがいいぜ。」


「はい。それはもう...。」


 再びニックが質問してくる。

「〇〇はもうスクールのダンジョンクリアしたか?」


「この間、クラスメイトと組んで、クリアしました。」


「あのダンジョン。クリアタイム出るだろ。何位だった?」


「3位でした。」


 すると、ザックがテンション上げて言った。

「おお!3位!そりゃ将来有望だな。俺の友達にも2位取ったやつがいてさ、そいつは大企業に行ったよ。やっぱ優秀なやつは違うんだよなぁ。」


「ザックさんは...」


「あ、いや。ちょっと待て。」

 ザックがおもむろに言った。


「気配を感じる。どうやらこの先に...結構いるな。」


 ぼくは驚いた。

 上級ダンジョンアタッカーともなると、気配を感じることができるのだ。


 ニックが真面目に話しかける。

「強そうか?」


「いや...。しかし数が多いな。」


「なるほど。じゃ、様子だけ見てみるか。」


「ああ。」


 ゆっくりとダンジョンが見えてくる。


 それとともに、外に溢れかえった、ブタのモンスターたちが見えた。


 ーーーーーー


 少し話し合ったが、とりあえず行けるところまで行くことになった。


 外にいるのは雑魚ばかりなので、とりあえず数に潰されないように倒していく。


 ぼくも森で結構出会っているので、慣れたものだ。


 ザックとニックの武器はふたりとも剣だった。


 ただ、ザックの剣はショートソードでもう片手には小さな盾を持っているが、ニックはロングソード1本である。


 ふたりは流石に強かった。


 ぼくが数匹狩る間に、その倍の数は狩るのである。


 それは攻撃力の差というより、経験の差だった。


 ザック達はぼく以上にブタを狩り慣れている。


 効率的な倒し方を、力の入れ方を経験で知っているのだ。


 一方、ぼくの動きには無駄が多い。


 一匹に対して攻撃しすぎたり、力を入れすぎたり。


 その差が出ていた。


 ーーーーーーー


「中もブタばかりだな。」

 ニックが顔をしかめる。ダンジョンに入ったぼく達は、最初の通路部分で、ブタを狩っていた。


「どうしてこんなにいるんでしょう?」

 ぼくはニックに聞いた。


「さあな。ダンジョンの氾濫か、そういうダンジョンなのか...」


「しかし他にはいないようだぜ。」

 ザックが言う。


「油断するな。これだけブタがいるなら、上級ブタがいる可能性も高い。」


「わかってる、よ!」

 ザックが盾でブタを吹き飛ばしながら言った。


 上級ブタか...いるかなぁ...


 ぼくはダンジョンマスターであるにも関わらず、無責任にもそう思った。


 ーーーーーー

 ブタを狩り終えて、通路の突き当たりまで進む。


 平坦な通路はここまで。


 ここからは下に降りなければならない。


「こりゃ、一筋縄じゃいかなそうだな。」

 突き当たりにあった、下にほぼ垂直に降りる穴を覗き込んで、ザックが言った。


 ちょうどここからが、ダンジョンの見せ所である。


 ニックが下に松明を投げ込むと、下にもうじゃうじゃとブタがいるのが見えた。


 ニックが言った。

「流石に報告に戻るか。」


 ザックも答える。

「そうしよう。」


 ぼくは残念な気持ちになった。

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