第18話 黄金色のハチミツ
3階層は蜂の住処である。
「キャー!」というマリーの叫びとともに、走り抜ける。
先ほど喋れなかった分、かなり声を出した。
ーーー
そして4階層。
4階層は暗闇である。
ライトも、松明も、すべての光は吸収されて、照らせるのは自分の手元までがやっとだった。
そしてここに住むのは、クマ。
暗闇からクマが襲ってくるらしい。
「静かだな...。」
「ああ。とてもクマがいるようには見えない。」
「...2人とも、見て。」
マリーが少し前を指差すのが、薄っすらと見えた。
その先には黄金色のハチミツが、薄く光っていた。
「きれい...」
そう言って見とれるぼくらの横から何かが突進してくる。
ハンマーでそれを受け止めた。
「...!」
「クマか!」
「全然気づかなかった...!」
クマは音も立てずに、急に現れた。
視界の隅で何かが動いた気がして、それで何とか気づけたのだった。
ぼくは突進を受け止め、そのまま追撃。
クマを吹き飛ばした。
マリーがそこに魔法を放つ。
その魔法で、他にもクマがいるのが見えた。
「一旦引こう。」
暗闇だが来た道はしっかり覚えていたので、何とか引き返すことができた。
4階層と3階層をつなぐ階段の中腹辺りで、どうするか話し合う。
「マリーが魔法を撃ちまくるってのはどう?」
「そんな連発できるほどのパワーがないわ。」
「そもそも他のダンジョンアタッカーがいたら大変だよ。」
ーーー
「あのハチミツで照らすのはどう?」
「あれだって相当弱い光だからな...。」
ぼく達は困ってしまった。
「とりあえずもう一回行ってみるか。注意してれば分かるかもしれない。」
というわけで、ぼくらはもう一度チャレンジすることにした。
3人で辺りを見回しながら、ゆっくりと進む。
しかしクマの気配を感じることはできず、今度はレックスに突進してくる。
レックスは吹き飛びながらも何とか受け流して、そのままの勢いで走り去っていったクマにマリーが魔法を放つ。
その隙にもう一匹のクマがマリーに襲いかかってきて、ぼくがそれを吹き飛ばした。
「レックス、大丈夫か?」
暗闇に向かって尋ねるも、レックスの返事はない。
「レックス?」
マリーと2人で顔を見合わせて、警戒しながら進んでいく。
すると目の前にいきなりレックスの顔が現れ、ぼくは思わず後ろにのけぞった。
「レックス。無事だったか。」
「無事なら返事ぐらいしてよね。」
「ごめんごめん。...というかオレのこと呼んだ?何も聞こえなかったけど...。」
「ほんとに?」
「ああ。こっちも呼んだんだぜ。カナタ~、マリ~。って」
その時、また横からクマが。
何とか跳ね返す。
「!一旦階段に戻りましょう。」
「ああ。そうした方が良さそうだ。」
ーーー
階段に着くなり、マリーが言う。
「ちょっとレックス、少し離れて、私達のこと呼んでみて。」
「分かった。」
「クマに気をつけてね。」
「おう。」
そうしてレックスが暗闇に隠れ、そしてしばらくして戻ってきた。
なにかトラブルだろうか。
「どうしたの?」
ぼくが尋ねると
「?どうしたって?」
レックスは不思議そうに答えた。
「何も聞こえなかった。」
マリーが言う。
「レックス、ちゃんと声出した?」
「ああ。出したぜ。」
そこでぼくはピンときた。
「あ、なるほど。ここでは音も聞こえづらいってことか。」
「そういうこと。」
ーーー
ダンジョンは、一般的に下の階層に行くほど、そして階層の奥に行くほど、難しくなる。
4階層の入り口付近で苦戦していたぼくらは、それ以上進むのは難しいと考え、撤退することにした。
「事前情報じゃ、音が聞こえづらいなんて言ってなかったわ。」
「伝え忘れたんじゃね?」
「もしくは、ダンジョンがパワーアップしたか。」
ダンジョンは時々、モンスターが増えたりして、パワーアップすることがあるのだ。
「まあいいじゃないか。お腹すいたぜ。早く帰ろう。」
そんな会話をしながら、ぼくらは帰路についた。
ーーー
それから、一応ダンジョン4階層は音も聞こえづらいと報告だけして、ホテルについたのが22時頃。
食事は外で、ダンジョンで採れる熊肉とハチミツと岩塩を使った料理を食べてきた。
熊肉、というのは初めて食べたのだが、入った店が当たりだったのか、ダンジョン産の肉だったからなのか、一番心配していた臭みはなく、脂の乗った美味しい肉だった。
後で聞いた話によると、ダンジョンにいるクマはハチミツしか食べないから、臭みがほとんどなく、美味しい肉に仕上がるらしい。
味は牛肉に近かったが、牛肉よりも脂の味が濃く、固さはそれなりで、全体的に味の濃い、牛肉の脂身って感じだった。
おかげで少量でも満足できたのは良いことなのか、悪いことなのか...
とにかく美味しかった。
ーーー
ホテルの部屋につくと、シャワーやら歯磨きやらを済ませて、ベッドに倒れ込んだ。
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