第24話 やり手

 キシャーレスクールの進学式も終わった春頃、ある調査員がキシャレ街にやってきた。


 彼は主に、現在活動中のテロリストを追っている調査員であり、溜まりに溜まった仕事を終わらせて、キシャレ街近郊の森にできたという、人工ダンジョンを見に来たのだった。


「では、第1発見者の話では、ブタのモンスターが外に溢れていたと」


「はい。そう聞いていますね」


 調査員、エイラムは、現地の調査員に話を聞いていた。


「誰が作ったか、調べはついているのか?」


「いえ。何分調査対象が多いものでして...」


「そうだ。匿名の手紙があったんだったか」


「ええ。でも、手紙から特定は無理ですね。筆跡はぐちゃぐちゃだし、誰が出したのか、目撃者もいない」


「なるほど。...よし、わかった。とにかく一度人工ダンジョンを見ておきたい。案内してくれ」

 ーーーー

 カナタ視点


 新学期に入って、ダンジョンスクールも残り一年となった。


 今年からスクールでの授業は減り、様々なダンジョンでの実地研修が増えていく。


 今日はその説明があった。


 基本的には、月1ほどで、ひとつのダンジョンを攻略しに行き、そのレポートを書いて提出するという形らしい。


 そして肝心のダンジョン制作については、行き詰まっていた。


 とりあえずダンジョンの概形を、前回と同じように作ったのはいいが、やはり手作りでは限界がある。


 モンスターをどうするかも未だ解決していないし、さらにこれから、他の地域への遠征が増え、忙しくなる。


 どうしたものかなぁ。


 そんなことを考えていると、ピンポーンと、家のチャイムが鳴った。


 覗き穴から覗くと、また調査員だ。


 前回来たのは、1ヶ月ほど前、詳しい話の最終確認に来たのだったか。


 今度は何だろうか。


 ぼくはドアを開ける。


「どうも。こんにちは。ダンジョン調査員のエイラムです」

 エイラムさん。

 聞いたことのない人だ。


「こんにちは。今日はどうしたんです?」


「今日は人工ダンジョンについて聞きたくてね。入っていいかな?」


「いいですよ。人工ダンジョンですか」


「ああ。実は最近、物体から魔力を検出する方法が確立されてね。それで新たに話を聞きに来たんだ」


 物体から魔力...匿名の手紙...!

 背筋がゾッとした。


 ついにバレたのかもしれない。


 いや、落ち着け。バレたとしても、あの手紙は単なるダンジョン発見の手紙。


 ぼくがダンジョンを作ったとは、バレていないはず...


「...魔力を検出。すごいですね。どういう仕組みなんです?」


「さあな。今のは冗談だ。冗談」

 調査員の、エイラムは笑みを浮かべて言った。


「冗談?」


「そう。冗談」


「どうしてそんな冗談を?」


「軽いジョークだ。面白かっただろ?」


「はあ...それで本題はなんです?」


「実は、人工ダンジョンができる少し前から、カナタさんは森によく入っていたと聞いてね。何をしに行っていたのか、聞きに来たんだ。それと怪しい人物とかを見なかったとかね。まずは森に何しに行っていたのか。それを教えてもらっていいかな」


「...森へは気分転換に散歩に行っていました。時折モンスターが出るので、トレーニングにもなるし、自然の中に身を置くって、素晴らしいことですよ」


 ぼくは事前に用意していた回答を述べる。


「なるほど。ではその時怪しい音を聞いた、とか、怪しい人物を見た、とか、そういうことはなかった?」


「ありませんでしたね」


「分かった。協力ありがとう。参考になったよ」

 エイラムはそれだけ聞くと、帰っていった。


 ーーーーーー


 それから調査員が帰った後。


 ぼくはため息をつく。


 あれは絶対探りを入れてきてたよなあ...


 そしてぼくの反応。平静を装ったつもりだが、怪しまれたかもしれない。


 そうなると、今後、どんどん疑われていくかも。


 尾行がつく可能性も考える必要が出てくる。


 当分は手作りダンジョンに行くのも、控えなきゃな。


 ぼくはそう思った。


 

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