第8話 ダンジョン鑑定学

 今日は面白い授業があった。


 鑑定学の授業である。


 先生がダンジョン産の品を持ってきてくれるので、それを鑑定してみようというのだ。


 鑑定の基本は、魔力がこもっているかどうか...


 測定器を使うと確実だが、一応見て、触って、感じられるようになっておこうということらしい。


 班ごとに、5つの品が配られ、その中から、ダンジョン産とそうでないものを分けるという、実践式の授業だった。


「これはダンジョン産だよ」


「いや。それは違うよ」


 そんな会話が、クラス中で繰り広げられた。


「まずは、誰とも話さず、自分だけで視てみましょう」

 先生が言った。


 ぼくの班の品は、


 握りこぶしよりも少し大きいゴツゴツした石、

 まだ真新しそうな懐中時計、

 電池のような小さく重みのある物体、

 キレイな水晶玉に、

 古ぼけた矢じりのようなもの


 の5つである。


「魔力を感じるコツは、そのものに心を入れること、入り込むことです。それを使っている自分を想像してみたり、どんな素材でできているか、どんな触り心地か、想像してみてください」


 静かになった教室に、先生が大きく言った。


 ぼくは全く、見えそうになかったが、その内に、魔法が使えるリュートが、「お、視えた...」と小さく呟いた。


 他にも魔法を使える生徒が徐々に感覚を掴んできているようだった。


 それからしばらくして、先生が言った。

「では、そろそろ、自分の予想を紙に書き込んでください。わからなくても、適当に勘で書いてみてください」


「書きましたか?...では次に班員と話し合ってみてください」


 早速、レックスが言った。

「誰かわかった人いる?」


「いや」

「全然」


 班員全員が首を振る。

 どうやらうちの班はみんな駄目なようだ。


「よし。じゃあ、予想を言っていこう」

 レックスがみんなを見回す。


「まず、この石。これはどう思う?おれはダンジョン産だと思ったが。もちろん勘で」


「おれもそう思った」


「私は普通の石だと思う。勘だけど」


「ぼくはダンジョン産」


「トラトスは?」

 ひとり話さない、トラトスに尋ねるレックス。


「いや、ちょっと待って。...視えてきた」

 トラトスは集中しながら言った。


「まじで?」

 レックスが驚く。それを咎めるように、横にいたマリーが静かにのジェスチャーをする。レックスは慌てて口を抑える。


「うん。視えてきた...」

 トラトスが静かに言う。


「どうやって視るんだ?コツは?」


「なんかこう...勘を研ぎ澄ませていく感じ。みんな、勘でダンジョン産かそうじゃないか選んだでしょ。それをもっと研ぎ澄ませていく...思い込んでいくような...」


「なるほど...やってみる」


 それから少しして、マリーが言った。

「あ。確かに見えてきた...でも全部に魔力が見えるよ...」


「うん。僕にも見える。だから何か間違っているかも...」

 トラトスが言った。


 ぼくも見ようと頑張ってみる。


 まずは石だ。目を凝らしていると、うっすら...視えてきた...ような...。


 と、そこで、先生がまた言った。

「視えましたか?視えてきたなら、次の段階に進んでください。説明します。視えてない人も聞いてください」


「すでに視えてきた人は気づいたと思いますが、ダンジョン産のもの、そうじゃないもの、すべてのものに魔力はあります。見分けるヒントを言うと、魔力の強度です。よく見てみてください」


 先生の話を、話半分に聞きながら、ぼくは石に感情移入していく。

 ダンジョンの奥底に、ゴロゴロと転がっていたんだな。


 そんな気がした。

 そんな魔力を感じた...。


 コツを掴んだ。


「ぼくも視えた」

 ぼくは思わず班員に、喜色の混ざった声で言った。


「おれも。視えてきた...」

 レックスが言った。


ーーー

「よし。じゃあ、次はどれがダンジョン産かだな」


 ぼくは5つの品の魔力を視る。


 水晶玉は、魔力が均一で全体的に弱い。ダンジョン産ではない気がする。


 石は、強いところ、弱いところ、ムラがあってわからない。


 懐中時計は...


 そこまで視たところで、レックスが石を指して言った。


「これはダンジョン産な気がするな。なんか強い感じするから」


「えー。そう?」

 マリーが疑いの声を上げる。


「なんか魔力にばらつき?があって、微妙じゃない?」


「うーん。確かに」

 トラトスが同意する。


「それよりこっちの水晶玉は絶対ダンジョン産じゃないと思うな」

 マリーが話を逸らすというか、石を後回しにする。


「ぼくもそう思う。なんか弱いしね」


「それはおれもそう思うぜ。弱い弱い」


「じゃあこれはダンジョン産じゃないってことで。...次はこの物体。これはどう思う?」

 トラトスが電池のような物体を指して言った。


「それは絶対ダンジョン産。強さが半端ない」

 レックスが言う。


「私もそう思う」


「ぼくも」


「じゃあこれはダンジョン産ってことで。次はこの矢じり?どう思う?」


「ぼくはダンジョン産だと思うな。小さい割にパワーを感じる」

 ぼくが言った。

 魔力を感じるのにもなかなか慣れてきたらしい。すぐわかった。


「うーん。どうだろう?」

 マリーが言う。


「僕もダンジョン産だな。こう、魔力がちょっと鋭い感じするんだ」

 トラトスが言った。


「おれはわからん。けど弱いしダンジョン産じゃないに一票」


「じゃあ、これは置いておいて、次は懐中時計」


「これはダンジョン産だ。魔力が強い」


「私もそう思う」


「僕も」


 最後はぼく。

「ぼくは違うような気がする。なんか綺麗すぎるような気がするんだ」


「ダンジョン産だからこそ、キレイなんじゃない?」


「でもなんか...量産品みたい」


「そうか?」


「僕は分かるよ。たしかに僕も綺麗すぎるような気はしたんだ。でも、強さはピカイチだから」


「うーん。どうする?」


「いや。ダンジョン産にしとこう。強さは文句なしだし」

 ぼくは言った。


「OK。最後はこの石か...」


「ムラがあるよね。やっぱり」


「おれはダンジョン産だと思うぜ」


「なんで?」


「なんか強い感じするだろ」


「うーん...これは難しいね」

 トラトスが言った。


 ぼくは石を触って、つついてみる。

「ぼくもダンジョン産だと思うな」


「どうして?」


「なんか、唯一無二って感じだから」


「そう?」


 それからしばらく話し合ったが、答えは出ず、とりあえず石はダンジョン産ということにした。


 プリントに記入し、ちょうどそこで、先生が回ってきた。


「どうですか?わかりました?」


「一応、班内の意見はまとまりました」


「どんな感じ?」


「まず、この水晶玉は魔力も弱く、他に特徴もないのでダンジョン産でない。そして、この電池は逆に魔力が強いのでダンジョン産。この懐中時計は魔力が強いのでダンジョン産、この石はなんか強い感じがするのでダンジョン産です」

 マリーが先生の顔を伺いながら言う。


 しかし先生はほう、それで、という感じで正誤はわからない。


「...この矢じりは?」


「それは...わからない、ということで...」


 先生がわからんのかい、と笑う。


 先生はそのまま前に行くと、全体に言った。

「そろそろ時間なので、これから各班に答えのプリントを配ります」


 プリントがまわってくる。

 どうしてプリント?と思ったが、一緒に解説も書いているようだった。


 なるほど。先生がひとつひとつ解説していくのは大変だから、プリントなのだ。


 答えのプリントをみんなで覗き込む。


『鑑定物A ゴツゴツ岩 ダンジョン産(僕らの予想:ダンジョン産)

  この岩の魔力を視ると、強いところと弱いところ、均一でないことがわかりま す。見分けるポイントは全体のバランス。ダンジョン産のものは、魔力にばらつきがあれど、ちょうど中心で均一になるようにバランスが取られています。これは人工物だととても難しいことです。


 鑑定物B 懐中時計 人工物(僕らの予想:ダンジョン産)

  一見すると魔力は強いですが、あまりにも均一。綺麗すぎます。量産品ですね。


 鑑定物C 電池のような物体 ダンジョン産(僕らの予想:ダンジョン産)

  その強さは明らか。人工物では、ここまでの密度を形成するのは不可能です。


 鑑定物D 水晶玉 人工物(僕らの予想:人工物)

  魔力は弱く、それでいて均一。文句なしに人工物です。


 鑑定物E 矢じり ダンジョン産(僕らの予想:わからない)

  一見すると魔力が弱いのでダンジョン産には見えませんが、それは出現から 時間が経っているため。よく見るとその全体のバランスの良さ、魔力の鋭さに気付けるはずです。』


「うわ。マジか。これダンジョン産じゃないのかよ」

 レックスがオーバーリアクションをする。懐中時計についてだろう。


 逆にぼくは、それに関する、綺麗すぎるという直感が当たっていて、ちょっと嬉しい。


 トラトスは、なるほど、といった表情。


 マリーはなるほど?といった表情だ。


「どうでしたか?予想は合っていましたか?」

 先生が全体に話しかける。


「今回のことを通して、魔力を感じるには直感が大事だと感じたはずです。その感覚を忘れないようにしてください」

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