第21話 そうあってほしいものです
「私に考えがあるわ」
マリーが言った。
「どんな?」
レックスが尋ねる。
その間も、目線はクマを捉えたままだ。
「上級魔法を使う」
「そんなの使えたの?」
ぼくは驚いて尋ねる。
「まだ未完成だけどね。...今はこれに賭けるしかないわ」
マリーは言った。
「わかった。それに賭けよう」
ぼくらはそう答えた。
ーーー
マリーは詠唱に入った。もう動けない。
レックスと2人、周囲を警戒する。
「しかしどうやって時間を稼ぐ?」
「そりゃ、気合でしょ!」
クマの攻撃を、ぼくは弾いた。
ここにきて、ぼくにも、不思議な勘が冴え渡ってきていた。
どこから攻撃が来るのか。
その読みが尽く当たるのだ。
気配を察知できるようになったのか、それとも、ただの勘が当たっているだけか...
敵のスピードに身体が慣れただけかもしれない。
とにかく、今のぼくは、読みが神がかっていた。
物理的にぼくが届かない攻撃はレックスがカバーし、2人でマリーを守って、そしてついに、マリーの詠唱が終わった。
バチバチと周囲に雷が弾け、クマに閃光が走る。
とんでもない轟音と共に、クマは吹き飛び、黒焦げになった。
ーーー
「やった...!」
マリーがふらついて、ペタンと座り込んだ。
5階層、攻略である。
その後、6階層への階段にある、”試験用”と書かれた無骨な木の合格証を持って、ぼくたちは帰還した。
マリーが動けるようになるまで、2時間ほど5階層への階段で休憩してからなので、夜の10時だった。
そこから、先生に報告に行った。
ーーー
ぼくたちの報告を聞いて、先生は驚いたようだった。
もっと時間がかかると思っていたらしい。
ともかく、ぼく達は疲れていたので、そんな先生の反応も受け流し、ホテルの部屋に戻った。
ーーーーーー
先生side
カナタ達がホテルでのんびりしている間、先生方は報告も兼ねて、飲みに来ていた。
「どうです?そちらの様子は?」
イヴァン先生が聞いた。
彼は主に、オーホク地方のダンジョンを担当している先生である。
それにカナタ達の担当もしている、フレイ先生が答える。
「残り3組ってところです」
「ほう。早いですね」
イヴァン先生が感心したように言った。
「そちらは何組です?」
「残り4組です」
「中々順調じゃないですか」
「いえ。まだまだですよ。ここからが勝負です」
「そうですね...」
フレイ先生もしみじみと頷く。
毎年、序盤はこんなものなのだ。
優秀なグループがクリアしていって、3,4組残る。
その3,4組が苦戦することが多いのである。
「時に、フレイ先生。ハニーベアダンジョンに配属された生徒の様子はどうですか?あそこは特に難関ですからね。苦戦してるんじゃないですか?」
イヴァン先生が何気なく聞いた。
「もうクリアしました」
フレイ先生は答えた。
「え?」
その言葉にイヴァン先生が聞き返す。
「もうクリアしました」
フレイ先生も繰り返す。
「ハニーベアダンジョンを?」
「はい。5階層までですけどね」
「それは...すごい優秀ですね」
驚きを噛みしめるかのようにイヴァン先生は言った。
「ええ。私も驚きました」
フレイ先生もまた、しみじみと頷く。
「...と、いうことは、どの組が残ってるんです?」
イヴァン先生が身を乗り出して聞いた。
「リュートのグループと、ライのグループと、フォルジュのグループです」
「フォルジュはともかく、リュートまで?」
「どうやらゴーレムに苦戦しているようですね」
「そうか。あれは魔法が効かないから...しかしもうゴーレムまで行ってるとなると、後は大丈夫そうですね」
「そうあってほしいものです」
フレイ先生は祈るように言う。
教師としては、皆が無事にクリアすることを、祈るばかりである。
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