第27話 夜の森の誘い

見知らぬブタのモンスターから一方的に言い渡された、ダンジョン王からの誘い。


そんな怪しい誘いにぼくは乗ったのか...


もちろん乗っていた。


元々モンスターをどうするのかという問題が解決していなかったというのもあるし、最近はダンジョンマスターになるための進展が何もなく、焦っていたというのもある。


そしてさらに調査局から疑われている状況。


このまま待っていても、何も進展しそうになかった。むしろ後退しそうでもあった。


だから、今回の誘いに乗ることにした。


誘いに乗るに当たって、最も問題となるのが、尾行はどうするのか。


もし夜中も家の前を張り込まれていた場合、一発でアウトである。


そこはもう、賭けだった。


それを警戒していたら、ぼくはこのチャンスを逃すことになる。


それは避けたかった。


ーーーー

最大限、見つかるリスクを避けるため、辺りが真っ暗になった0時20分頃に、黒い服を来て、裏の窓から外に出る。


夜のひんやりした風がぼくの頬をなでた。


ブタは、ぼくが今制作中のダンジョンの裏と言っていたか。


ずいぶんとわかりにくい場所である。


どうしてそんな場所を指定したのか。


ぼくはひとり、深夜の森を歩く。


虫の鳴き声が響き、風が吹く度、木の葉の擦れる音が聞こえてきた。


暗闇から今にもモンスターが飛び出してきそうだった。


というか、飛び出してきた。


ブタのモンスターだ。


見慣れたモンスターが出てきて、むしろ安心した。


ーーーー

そして1時30分。約束の30分前。


ぼくは目的地についた。


ダンジョンを開く、とはどういうことなのだろう。


もしかして、ダンジョン王本人が来るのだろうか。


そもそもダンジョン王とは誰なのか。


疑問が尽きなかった。


ぼくはこれが罠でもいいように、じっくりと辺りを警戒して待つ。


誰も来ない。モンスターもいない。


しかしそれは、唐突に起こった。


地面が轟轟と鳴り響きながら盛り上がり、砂が滑り落ちる。


そして、ダンジョンへの入口が、ぽっかりと開いた。


ダンジョンを開く、とは、こういうことなのか。


ぼくは意を決して、その中に飛び込んだ。


ーーーー

「おーい。誰かいませんか~?ダンジョン王に言われて来たんですけど~」


暗い洞窟の中に、ぼくの声だけが寂しく響く。


ここはダンジョンという割には、モンスターもおらず、何もない、ただの洞窟のようだった。


ぼくが声を張り上げながら歩いていると、唐突に後ろから話しかけられる。

「やあ。待っていたよ。」


ぼくはびっくりして飛び退いた。叫ばなかったのが奇跡なぐらい驚いた。


「君がここのダンジョンマスター?」

ぼくは尋ねた。


「そうさ。話は聞いているよ。君、モンスターを貰いに来たんだろ?」


「ああ。そうなんだ。」


「それは別に構わないんだけど、ひとつ、頼みがある。」


「...どんな?」


「このダンジョン、空っぽだろう?」

ぼくが警戒するのも構わず、タヌキは飄々と言った。


「ああ。」


「君にはこのダンジョンの設計を頼みたい。」


「設計?」


「そう。悪い話じゃないだろ?聞けば君は、ダンジョンマスターになりたいそうじゃないか。ここの設計をすれば、良い経験にもなるし、好きなモンスターも選ぶことができる。」


「確かに。でもどうして、ぼくに頼むの?」


「めんどくさいからさ。それに君、ダンジョン王に信頼されてるみたいだから、ダンジョン作るのもきっと上手いと思ってね。」


「...なるほど。」


「それで、どうかな?」

タヌキはこちらに尋ねてくるが、

ぼくとしては、選択肢など元々ないようなものである。


何せその頼みを聞かなければモンスターはもらえないのだから。


「じゃあ、引き受けようかな。」


「助かるよ。」

タヌキは悪いね、という風に言った。

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