ダンジョン制作秘話

日山 夕也

第1話 特典は”攻撃力アップ”

 ダンジョンマスターになるために転生することにした。


 しかしぼくが転生した世界は、ダンジョンはあるが、ダンジョンやダンジョンマスターはどうやって生まれるのか未だ解明されていない、


 ダンジョンマスターになる方法もわからないような世界だった。


 ぼくに与えられた特典も、”攻撃力アップ”という、ダンジョンマスターになるのに役立ちそうにないものである。


 ぼくは落ち込んだ。


 せっかく転生したのに、これではダンジョンマスターになれそうもない。


 ぼくは3日ほど寝込んだ。転生してすぐのことである。


 ちなみに転生と言っても、赤ちゃんからのスタートではなく、16歳ほどの大人からのスタートだった。

 親もいない、知り合いもいない、フラットな状態で、しかし、宿屋の一室からのスタート。


 お金は1ヶ月は働かずに暮らせる程度、しかも宿屋の部屋はすでに1ヶ月分予約済みという高待遇である。


 さて、3日ほど寝込んだぼくは、気持ちの整理がついて、改めてダンジョンマスターになるために動き出すことにした。

 むしろこの逆境の中でダンジョンマスターになってやろうじゃんか、というような、開き直ったような心境だった。


 ダンジョンマスターになると決めて、ぼくがまず行なったことは学校を調べることである。


 もちろんダンジョンマスターの学校ではない。


 その逆、ダンジョンに攻め込むダンジョンアタッカーの学校である。


 どうしてかというと、奨学金のため。

 転生者用奨学金というものが、学校に行っていれば神様から給付されるのである。


 返済も不要の素晴らしいもので、なのでとりあえずは、学校に行って生活費を得つつ、その片手間にダンジョンマスターになる方法を探す。


 方法が見つかればよし、見つからなければダンジョンアタッカーとして生計を立てつつ、ダンジョンマスターになる方法を探そう。


 そんな考えだった。


 ──────


 調べてみると、この世界ではこの頃、ダンジョンアタッカーという職業が流行っているようだ。


 どうやら近頃のダンジョンは難化の傾向にあるらしく、未攻略のダンジョンも多いため、食いっぱぐれることがない職業として人気のようである。


 ダンジョンアタッカーの不足が仕切りに唱えられている時代だった。


 そんな時代だから、ダンジョンスクールに入学しようとするライバルは多い。


 ダンジョンスクールも乱立したが、上位のダンジョンスクールの倍率はそれでも高く、

 ぼくとしては別にダンジョンアタッカーになりたいわけではないので、そこそこの学校で良いが、トップ校を目指している学生は大変だと思う。


 とはいえ、ぼくも余裕ではいられなかった。


 もしダンジョンマスターになる方法が、学生の間に見つからなければ、ダンジョンアタッカーとして、一応は食っていかなければならない。


 そうであれば生半可なスクールに入る訳にはいかない。


 しかも、試験まであと1ヶ月程しかない。


 それまでに試験の対策をしなければならないのである。


 ──────

 幸いなことに、ダンジョンスクールの試験は大抵、ダンジョンでの実地試験と面接のみであるらしい。


 筆記テストがないのは、この世界についてほとんど何も知らないぼくとしてはありがたい。


 実地試験の方は神様からもらった特典でなんとかするとして、問題は面接だった。


 ぼくはダンジョンマスターになりたいのであって、ダンジョンアタッカーになりたいわけではない。


 むしろ、ダンジョンアタッカーになっているということはダンジョンマスターになれていないということなので、なりたくないとまで言えた。


 そんなぼくがダンジョンアタッカーの面接試験で何を言うのか。


 ダンジョンに熱意はある。

 しかし、ダンジョンアタッカーにはなりたくない。


 そんな人間がダンジョンアタッカーを養成するスクールに入ることができるのか。

 面接を通過できるのか。


 ぼくとしてはそこが不安だった。


 とはいえ、もう試験は受けてみるしかない。


 駄目なら、一年ぐらい生活費を稼ぎながら、ダンジョンマスターになる方法を探そう。


 そんな心持ちで、特典を街の外で試したりしながら、試験当日を迎えた。

 ──────


 ちなみにこの世界、ダンジョンについては中々、ルールの整備が進んでいるようだ。


 受験前にダンジョンに入ってみようと思ったのだが、近場のダンジョン前に行ってみたところ、中に入るには資格が必要らしく、門前払いされてしまった。


 ゆえに特典のおかげで、余裕があると思っていた実地試験も、ぶっつけ本番、ドキドキの状態で迎えることとなった。


 実地試験は、スクール用の超小規模ダンジョンで行なうため、当たり前だが資格が必要ないことが救いである。

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