第39話 消えた水着と焦り
肌の色しか見えない三間坂さんの背中を見て、俺の想像は少々暴走してしまう。
もしかして、三間坂さん、上も下も水着を流されて、今、全裸でこのプールの中に入っているのでは?
そんなイケナイ想像が勝手に頭に湧いてくるのだ。
「……三間坂さん、もしかして今真っ裸だったりするの?」
「はあぁぁぁぁ!?」
俺の言葉に三間坂さんは顔を赤くして変な声を上げた。その声のせいで、周りの人の視線が三間坂さんの方へ向いてしまう。
「へ、変なこと言わないで! 上だけだよ! 子供達が騒ぎながら後ろを通っていったときに、トップスのホックに手か足がぶつかって、その拍子に外れたんだと思う」
「そうなんだ……」
注目を集めてしまったことに気付いた三間坂さんは、俺にだけ聞こえる声で抗議してきた。俺もそれにつられるように、声を潜めて応える。
「わかった。じゃあ、俺が三間坂さんの水着を見つけてくるよ! 三間坂さんはここで流れてこないか見てて!」
「うん、わかった。……ごめんね」
「絶対見つけてくるから、待ってて!」
俺はプールサイドの端から端まで水面に注視しながら、流れに従って移動し始めた。
こうやってこのまま流れるプールを一周して回れば、俺か三間坂さんのどっちかは水着を見つけられるはずだ。
逆に、もしそれで見つからないようなら、誰かに拾われたことになってしまう。
できれば、誰に拾われる前に三間坂さんの水着を見つけたい。
誰かに拾われれば水着は戻ってくるだろうが、ほかの人にも三間坂さんの水着が外れていたという事実を知られることになってしまう。ほかの人、特にほかの男に、三間坂さんがそういう目で見られるのを想像すると、とてもいやな気持ちになった。
俺でさえそんな気持ちになるのなら、三間坂さん本人はなおさら恥ずかしくていやな気分になるだろう。
それはなんとしても避けたい!
だから、プールの施設の人に、外れた水着が届いていないか尋ねようかとも思ったが、ひとまずそれは探してからにすることにした。
施設の人にそんなことを聞けば、三間坂さんが今トップスなしでプールにいるのを伝えるのと同じことになってしまう。
それもやっぱりいやだった。
なんとか俺だけでこの事態を解決したい。
「……くそ、見つからないな」
三間坂さんのトップスはしっかり覚えている。フリルのついた水色のトップスだ。正面は三間坂さんの大事な部分、たとえは横乳とか下乳とかも隠すようにフリルで覆っていたが、後ろは細くなっていた。
プールの床も壁も水色をしているから、色的にはちょっと探しにくいかもしれない。
それでも、さすがに水面に水着が浮いてたら見逃すようなことはないだろう。
……そうか。俺が見逃さないということは、他の人も気づくということか。
三間坂さんの水着が外れてどのくらいの時間が経っているのかわからないけど、普通に考えたらもう誰かに拾われているのではないだろうか?
……でも、拾ったらきっと騒ぐはずだよな。
俺は水着を探すだけでなく、水着を見つけて騒いでいるような人達がいないかも注意しながら探していく。
だが、残念ながら水着も騒いでる人も見つからない。
……もしかして、もうすでに見つけられて、施設の人に届けられた後か?
……あるいは、変質者的な男に拾われて、こっそり持っていかれたりなんてことはないよな?
いやいや、冷静に考えろ。プールで流れてくる水着を見つけて、それを隠れてこっそり持って行ったりするか? そんな誰がつけてたかわからないようなものを……。
そういえば、三間坂さんはこのプールでも結構男達の注目を集めていた。三間坂さんの水着姿を見ていた男なら、流れてきた水着を見ただけで三間坂さんのものだとすぐにわかるのではないだろうか?
だったら、その水着は誰のものかわからない水着でなく、三間坂さんの水着だとわかった上で拾われたことになる。三間坂さんに興味を持っていた男が、彼女の水着を拾ったりしたら、なんとしてでもその水着を持って帰ろうとすることは十分にあり得ることではないだろうか?
俺の心に益々焦りの感情が湧いてきた。
三間坂さんの水着を取り返せないという焦りも当然あるが、三間坂さんの体、しかも誰も見たことも触ったこともないであろう胸という部分に触れていた水着を、どこの馬の骨とも知れない男が持っていったかもしれないというその事実が、ひどく俺をイラつかせていた。
くそっ!
まだ残っていてくれ、三間坂さんの水着!
俺は強くそう願いながらプールをどんどん進んでいく。
しかし、それらしきものは見つけられない。
三間坂さんの水着を盗んだ男はもう帰ってしまったのかもしれない。
そんなお宝を手に入れたら、普通ならすぐにこの場から退散することだろう。
……ん。果たしてそうだろうか?
三間坂さんの水着を拾った男がいたら、その男はとんでもない事実に気付いてしまうのではないだろうか?
今三間坂さんが水着なしで生の胸を晒したままこのプールにいるという事実に!
だとしたら、そいつはどこか遠くで三間坂さんをじっと見ているのではないのか?
いや、そんな奴が遠くで我慢できるか? 少しでも近くで見ようとするんじゃないのか?
もしそうなら、手で胸を隠すしかない三間坂さんに、今まさにそんな危険な男が近づいて……
そんな想像をしたら、もう俺はじっとしていられなかった。
水面に浮かぶ水着を探しつつも、全力で三間坂さんのもとへと急ぐ。
三間坂さんがヤバイ!
俺が早く助けにいかないと!
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